ヒーラーの捜索
アリアさんのところが空振りに終わり、俺はプレイヤーショップの並ぶ通りへと向かった。
マーカスの店は最後の合流地点になるので、他の店を回ってみる。
しかし、マコトではないが飛び交う異国の言語にどうしてもためらいがちになってしまうな。
ヒーラーもできれば日本人がいいが、贅沢は言ってられないか。
武器や防具の店、道具屋などをウィンドウショッピングしながら練り歩くが、ヒーラーと思しき人は見つからない。
そもそも系統が違うだけなので、魔術師と大差はないのだが。
ただヒーラーをやる人は、白を好み、シンボル的なネックレスをしていることが多い。回復魔法にボーナスの付くアクセサリーらしい。
結局、誰にも話し掛けることができないまま、マーカスの店へと辿り着いていた。
マーカスの店には既にメイが待っている。表情からも成果がないことが伺えた。
「駄目だった、です」
しょんぼりしている姿も可愛らしい。マーカスの視線がメイに釘付けなのが不安を掻き立てる。
「何もされてないよな?」
「何が、です?」
「ケイちゃん、僕は紳士なのだぜっ」
過敏に反応するあたり、やましいことがありそうだが、今は不問にしておこう。
木工職人のリカルドに比べると、確かに紳士的な対応はしてくれる。
「で、ヒーラーを探してるんだって?」
「うん、そうなんだけど、やっぱりフリーのヒーラーはなかなかいないわね」
「僕も多少は使えるけど、もうケイちゃん達のレベルだと不足するよね」
単純な回復量だと法師丸と大差ないようだ。
「知人のヒーラーはどこかクランに入ってるぉ」
やっぱり駄目か。
「私がヒーラーを目指す方が早いのかな」
「むむむ、回復効果を高める装備ならあるぉ!」
勢い込んで引っ張り出して来たのは、ナース服だった。しかもスカートがやたらと短い。
「挫折したわ……」
「はやっ、決断はやっ」
実のところ、状態異常ならメイにも『浄化の炎』というスキルがあって、法師丸の回復魔法があればある程度は戦える。
ただメイは戦闘力として頼りにしているので、前線で戦う可能性が高い。状態異常になりやすいのは、メイ自身なのだ。
「ポーションもボーナス乗らないし、本格的に転職かなぁ」
アタッカーという意味では、ルカも魔術師なので俺が抜けても頭数は足りる。
まあ、ルカ自身が神出鬼没でなかなか捕まらないわけだが。ヒーラーを探すよりは、アタッカーを見つけるほうが簡単だろう。
やがてセイラもマーカスの店にやってきたが、見つからなかったようだ。声を掛けてくれれば手伝うよという人はいたらしい。
「やっぱり自分で何とかするしかないかな」
アリアさんのところで、薬草の素材も買い込んで来たので、とりあえずポーションの量産に取り掛かる事にした。
通常より回復量の多いハイポーションも、今なら作れるはずでその為のレシピも買ってある。
「ケイちゃん、そろそろ装備も代えたほうがいいぉ」
「ナース服はいらないからっ」
そう言って俺は家へと転移した。
シグウェルの街に戻った俺達は、それぞれの用事をこなしていく。
セイラは一段落した料理教室の成果を確認しに酒場へと繰り出す。
メイは畑の様子を見てくると庭の方へ。
俺はポーションの作成へと取り掛かる。素材を並べて手順を確認。どこか工夫することで効果が上がらないか検討していく。
ポーションは薬草の成分を抽出して精製される。その最終工程は魔力を使って、即効性を持たせるわけだがそれまでの抽出過程は工夫できないだろうか。
お茶やコーヒーといった飲み物の抽出をベースに考えていく。
煎茶、玉露は育て方の違い、ほうじ茶は煎れる前に焙じるお茶。番茶は茎なども使うお茶で、紅茶、ウーロン茶は茶葉自体を発酵させたものらしい。
「薬草を摘む時点だったり、加工したりか。時間がかかるかなぁ」
コーヒーの方は豆は予め炒った状態。粗挽きにしたり、細かくしたりで苦味などに変化が出る。
抽出方法は、ドリップに紙を使うか、布を使うか、お湯か水か。
「あとは……エスプレッソか」
加圧状態で抽出することで、より濃厚な風味が特徴的。
「これならすぐに試せるか」
圧縮空気から精霊を呼び出すのにも似た精製方法だ。重力操作で圧力を掛けて、濃厚に抽出するのを試してみることにした。
コーヒーのドリップのように、カップに円錐上の漏斗を置いて、布で試してみる。圧力を掛けると、紙だと破れそうだし。
やや細かめに裁断した薬草を敷き詰めて、押し固めるように多少詰め込む。上から水を注いで、ドリップ部分を重力魔法で加圧した。
そうして抽出された薬草汁は、確かに色が濃く見える。
これを元にポーションを作成してみると、『エスプリポーション』が出来上がった。
「本当にできるし……効果はどうなんだろうか?」
回復量に変化があるのかどうか。ダメージを受けた後で使ってみるしか無さそうだ。
俺は庭に出てモフモフと一緒に、雑草駆除をしているメイを呼んだ。
「どうした、です?」
「新しく作ったポーションの効果を確かめたくってね。私を攻撃してくれないかな」
「そんな事、できないです。私が使うので、攻撃するです」
「そんな事できるわけないだろう」
家族を攻撃する忌避感。当然と言えば当然なのだが、このままだと平行線になりそうだ。
「やっぱり狩りに行って確認するのが一番か」
「です」
ただ狩りに行くにはもう遅い。明日改めて出かける事にした。
FF11の頃はパーティ組むだけで一時間以上を費やしたのはいい思い出?