次の美食を求めて
ウィステリアの仕上げをリカルドに任せて、俺達は家に帰ることにする。
この一週間、忙しかったセイラもようやく落ち着いて、久々にID巡りへと旅立っていた。
その間に俺は、家の周りに畑を整備しようと考えている。
シグウェルでも野菜や果物はとれるのだが、酸味が強かったり、苦味があったりと癖の強い物が多いのだ。
料理に使う分にはそこまで感じないのだが、サラダなどそのまま食べるとかなり辛い。
幸いセイラは日本で栽培していた物の種は持ってきていたので、畑さえ整えれば糖度の高い果物なども育生可能だ。
「さてと」
借家ではあるが、周辺の土地も好きにしていいと伯爵から許しを得ている。
耳の短いうさぎのようなモフモフを召喚。これはセイラにあげたホムンクルスだが、畑を作る際に土地を耕すのに向いている。
作物の育生時も、雑草などを食べてくれるので重宝だ。知能もそれなりにあるので、食べちゃ駄目な物は分かってくれて、もし何らかの障害があればそれも教えてくれる。
念話はセイラとしか使えないが、メイが通訳してくれるので意思疎通も問題なかった。
「まずは広さを決めないとな」
いくら自由にできるといっても、無尽蔵に畑を広げた所で管理はできない。
日本でセイラが作っていた畑を参考に、木の杭を打っていき、ロープを張って一応の区切りを入れていく。
その内側では早速モフモフが、土を掘り返し始めていた。固い土では、作物が十分に根を張れないので、一通りの土をほぐしていく方が良いのだ。モフモフは、うさぎの巣穴を掘る習性を受け継いでいて、土を掘るのも得意だった。
「先輩、お願いするです」
年功序列を大事にするメイにとって、モフモフも大事な先輩にあたる。エネルギー源の葉野菜を手に、モフモフの仕事を手伝っていた。
畑を囲うように杭打ちを終えると、次は周辺に木を植えていく。
桃栗三年、柿八年というが、ゲーム世界ではそんなにかからずに実を付けてくれる。
桃、栗、柿の他に梅やみかんといった果物の木を一本ずつ植えていく。生産が目的ではなく、自分達で食べる分なので、量はいらなかった。
そうした作業を終える頃には、モフモフによる開墾作業も終わっていた。
掘り返した雑草はメイが一箇所に集めて積み上げている。これらも発酵して堆肥として使えるはずだ。
「さて何を植えるかだな」
「いちご、ぶどう!」
「トマトかな」
その言葉にメイは顔をしかめる。独特の酸味が苦手らしい。
「ま、一通り植えるんだけどね」
いちご、ぶどう、トマトにキュウリ。スイカやメロンの種もあるけど、先にキャベツやほうれん草といった葉野菜も植えていく。
頑張ってくれたモフモフの好物だ。
その他、人参や大根といった根野菜も植えて一段落した頃、セイラから声が掛かった。
「アイスができたよー」
いつの間にかIDから帰ってきていたセイラが、作業していた皆の為にシャーベットを用意してくれていた。
果汁を凍らせた簡単なモノだが、作業で一汗かいた後に食べると格別だ。
「一通りの果物は植えてみたよ。細かな肥料の配合とかはわからないけど」
「最初は深く考えないほうがいいみたい。土地によって育ち方も違うし、発育を見ながら考えていきましょ」
「んん〜〜〜」
みかん果汁をベースにしたシャーベットを思い切り食べたメイが、頭を叩きながら悶えていた。
「冷たいモノを急に食べたら頭に響くよね。でもメイでもなるのか」
「氷属性に弱いのかも」
狐火を操る妖狐のメイは、火属性にあたるらしい。
ほのぼのとした時間は、ドアを叩く音で中断される事となった。




