森のはずれの新たな工房
街の郊外、森の入り口に建てられた丸木で組まれた小屋へと案内された。
小屋といってもしっかりとした作りで、大きさもそれなりにある。井戸も側にあって、便利そうだ。
「伯爵様が狩猟に出られる際に使われた小屋だ。家具など一通りの物は揃っています」
案内してくれた執事が教えてくれる。郊外ではあるが、馬車が通れるように道が整備されているのはその為だろう。
中に入ってみると広さは前の家と同じくらい。四畳半の部屋が4つ取れそうな感じで、半分が土間になっていた。
カマドなどの台所と大きめの桶が用意されていて、洗濯や簡単な湯浴みができるようになっている。
狩猟道具がかけられる棚やクローゼット。通常の収納に加えて、地下室には食材などを保管できる少しひんやりとした収納庫も用意されていた。
どうやら井戸水を引き込んで、部屋自体を冷やしているようである。
地上階に戻って、次は屋根裏へと続く階段を上る。思った以上の高さのある部屋になっていて、大きなベッドが置かれていた。
そこにはイケメン風のルカが寝転んで手招きしている。
「さすが貴族様のベッド。最高の寝心地だよ」
「さて降りますか」
ルカは放っておいて、再び一階へ。案内してくれた執事に、この家に住むことを告げた。
「この家は販売ではなく、借家という形になりますのでご了承ください」
月々の料金は、鏡が一枚売れれば三ヶ月ほど借りられる程度の値段。
「冒険者様の場合ですと、所領内の魔物討伐などで代替とすることもできます」
「なるほど、問題ないですね」
「また以前のように伯爵様からの要望などもあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。よい家をありがとうございますとお伝えください」
執事はビシッとした一礼をして、馬車の御者台へ。再び頭を下げてから、走り去っていった。
「さてと……」
綺麗な小屋ではあるが、多少の埃は溜まっていた。俺は所持袋からスライムを解放し、床掃除をしてもらう。
続いて『動く人形』であるウィステリアを解放。床以外の部分の整理を行ってもらう。
スライムに指示を出して少し綺麗にした土間の片隅に、錬金用の釜を設置。
釜と名前は付いているが、イメージとしてはカマクラに近い。外部からの影響を、錬成に及ぼさないために閉鎖した空間を作り出してくれる装置だ。
「この広さならもう一回り大きいのも置けるかな」
地下の貯蔵庫には、薬草などの素材をストックしていき、限界まで詰め込んでいた所持袋を空にしていく。
「あっと」
一階に戻った俺は、所持袋から妖狐のメイフィを呼び出して放す。
『新しいおウチ、です』
物珍しそうに部屋を見て回る妖狐から、久々に聞く念話が届いた。
「もう降りて大丈夫?」
「まだいたんですか?」
屋根裏から顔を出したルカに質問で返す。
「連れないなぁ、これから一緒に住む相手に」
「へっ?」
「悪魔崇拝者クランは事実上解散になってるし、私としては新たな拠点が欲しかったのよ」
階段を降りてきたルカの姿に思わず息を呑む。
ウィッグだろうか、短かった黒髪は腰の長さまでの黒髪に変わり、その身を包む衣装はヨーロッパ風のドレスに変わっていた。
先ほどまでのイケメン風貴公子から、妖艶な令嬢へと変貌を遂げている。
「実際、拠点と言っても色々と旅して回る予定だから、長くは居ないしね。転送石だけ分けてくれないかしら?」
「え、あ、ああ」
俺は言われるままに執事から受け取った転送石から、知人に配布用の転送石を作成する。
これは家の前への転送を利用できる石になっていた。主に友達を呼ぶときに使われる。
「ありがとう。長居すると迷惑そうだから、他を巡るわね」
「え、あ、はい……」
俺の返事を待たずにルカは別の転送石を取り出すと、どこかへと転送されていった。
さっきまで勝手に付いてきて、妙なプレッシャーを面倒に感じていたのに、居なくなると寂しく感じる。
ふと足元に柔らかな感触があった。
『私がいる、です』
メイフィを抱えあげて柔らかな毛に頬ずりをする。
「そうだよね、メイフィやウィステリアがいるよね」
ひとしきりメイフィを抱きしめ、もみくちゃにしながら温もりを得ていると、外の方が賑やかになってきた。
ドンドン!
やや乱暴なノックが響く。
「は、はい、どなたですか?」
「おう、錬金術師の嬢ちゃん。俺だ」
誰だ?
「鉱山の現場監督のドルスだ。嬢ちゃんが街に住むって聞いて、引っ越し祝いを持ってきた」
俺が扉を開けると、十人ほどの男達が1頭丸々のイノシシや野菜が詰まった籠、更には酒樽などを抱えて集まっていた。
鉱夫達を悩ませていた岩盤を砕くクエストの時に、集まっていた面々みたいだ。
「おう、久しぶり。元気そうだな」
「はい、おかげさまで」
「よーし、それじゃ始めんぞ!」
「「おおーっ」」
俺の返事も待たずに、男達は宴会の準備を開始した。
それから飲めや歌えのざっくばらんな宴が始まった。男達は器用にイノシシを解体し、焚き火を起こして串焼きに。野菜の一部も手頃な大きさに切って焼くだけ。
いかにも男の料理といった感じで、大雑把だがそれでも美味しかった。
「嬢ちゃんは料理しねぇのかい?」
食べに徹していたら、ドルスに突っ込まれた。
「それは、その……」
「いくら器量が良くても、料理の一つもできんと貰い手がいないぞ」
「いや、料理なんてできなくてもウチは歓迎するぞ!」
「俺も俺も!」
酒も入って陽気な男達、口々に嫁に来いと勧誘された。さすがにそれはお断りしながらも、この楽しい雰囲気は悪くない。
時間を忘れて宴を楽しんだ。
このALFの世界。
いつか日本にも取り戻す。それが新規サーバーに乗り込んだ今の一番の目標だった。