新たな街へと
最初の街を一路西へ。一つ目の村を北上すると、シグウェルの街に戻れるが、今は更に西へと向かう。
新規サーバーということで、移籍してきたアクティブなプレイヤーが多く、街道沿いの狩場で戦闘を行っている人をちらほらと見かける。
街道沿いの敵くらいなら、余裕を持って倒せるくらいには強くなっていた。
「今はメイもいるしね」
『ふぇっ、何です?』
唐突に話しかけると戸惑った声が返ってきた。念話で会話できるといっても、俺の考えている事すべてが伝わるわけじゃなかった。
「ちょっとは強くなったかなって」
『姉様はまだまだです。オーガにほとんどダメージなかったです』
などと辛辣な事を言われてしまう。
街道沿いに3つほど村を経由していくと、徐々に辺りの雰囲気も変わっていた。
巨大な穀倉地帯が広がり、緑の草原のように穀物が育っている。
農家の人がその間を手入れしながら進んでいるのが見えた。
「畑も作らないとね」
『果物、美味しいです』
メイも法師丸もセイラの畑で採れた果物を好んで食べていた。セイラがまたシグウェルの家に、畑を作ってくれる事を望んでいるだろう。
『次の村が見えてきた、です』
メイに乗って一時間、そこそこのペースで走ってきたので、村で小休止することにした。
広い穀倉地帯のある村、食べ物も美味しいかなと思ったのだ。
ただ村なのであまり店がなく、飲食のできる店は1軒しかなかった。
「いらっしゃい、ご注文は?」
「何か飲み物を」
そう答えると、麦酒が出てきた。泡立ちもほとんどなく、常温のそれは苦味のある液体ってだけでさして美味しくは感じなかった。
メイは一口舐めて顔をしかめると、ミルクを注文している。
付け出しとして出されたのは、人参のバターソテー。苦くて硬い。セイラじゃなくてもこれはヒドいと思わざるを得ない。
冒険者達がシグウェルの料理を美味しいと言っていたのも頷ける。
所持袋からぶどうを一房取り出して、メイと分け合って食べた。この先も村であれば食事を期待はできなさそうだ。
「ネルベルクの街までどれくらいですか?」
「ここから村を4つほど行った先だよ」
メイの足なら2時間ほどか。ちょっと頑張ってもらおう。
メイとしても美味しい料理が食べられる方が嬉しいのか、道中を一気に駆け抜けた。
普通の馬なんかよりもずっと早かっただろう。人化の方法を得て、その後の戦闘もあってメイのレベルもかなり上がっていた。獣形態の速度も上がっているようだ。
最近では初歩の錬金術にも手を出している。総合的に追い抜かれるのも時間の問題になっている。
「って、駄目じゃん」
「どうかしたです?」
「メイは優秀だなぁって」
人の姿に戻ったメイと一緒に、ネルベルクの街へと足を踏み入れた。
職人の街ネルベルク。
煉瓦造りの町並みは、歴史あるヨーロッパといった雰囲気を感じる。
石畳が敷かれた街道は馬車が行き交っても余裕がある程に広く、人々の行き来も多かった。
冒険者の姿も多いのは、この街の武具が優れている証拠だろう。
まずは街の中心にある転送広場で、この街の転送石を記憶させる。
その後、マイスター通りへと向かった。道中には色んな屋台が立ち並び、頑張ってくれたメイへのご褒美に串焼きなどを買ってやる。
香ばしい匂いに釣られて、俺の分も買ってしまう。塩と胡椒だけのシンプルな味付けで、やや塩辛さが強く感じられた。
「セイラのおかげで口が肥えたかな?」
周囲では同じように串焼きを買った冒険者が美味しそうに食べている。
メイに水筒を渡しながら、ハムハムと味を吟味。豚肉かそれに近い肉で、筋張っていて歯ごたえは硬い。表面は香ばしく焼かれていて、油を閉じ込めている。噛むと肉汁が溢れてくるが、どこか旨味が足らず、単調な味わいだ。
串焼きはその肉のみで、間にネギがあったりもしなくて、食いごたえはあるが、飽きもくる……日本人の感覚なのだろうか。
「姉様、もういらない?」
俺が半分くらいでやめてるのを見たメイが、残りを催促してきた。メイは気に入っているならいいのかな。
食べながら歩いているうちに、職人たちが軒を連ねるマイスター通りへと辿り着いていた。