シグウェル防衛戦 その12
本営に戻ると戦闘はほぼ終わっていた。ゴブリンの中には逃げ去ったモノもいるようだが、大半は討ち取られていた。
防柵はところどころ壊れていて、戦闘の激しさを物語っていた。
俺の顔を認めた伯爵が駆け寄ってくる。
「錬金術師殿、見事に大将を討ち取られたそうだな」
ルカのコウモリを通して事のあらましは既に伝わっている。ただその顔には喜びよりも、悲哀の色が濃かった。
辺りには幾つかの遺体が並んでいる。奮戦した騎士達のものであった。
「錬金術師殿っ」
振り返るとシークスが走り込んで来るところだった。
「申し訳ない」
駆け寄るなり膝を付き、頭を下げてきた。肩を震わせ泣いているように見える。何事かと思い、周りの者を見渡す。
すると伯爵の長男セーヴィスがやってきた。
「実は……」
「ウィステリアが……」
思わず絶句する。あれだけ命を大切にするように言っていたのに。『動く人形』でも命令を無視することがあるのか……。
「すまない、俺が不甲斐ないばかりに……俺を庇って」
シークスは泣き崩れている。彼を守って、致命傷を受けたらしい。
騎士の1人が人間用の棺に収められたウィステリアを運んできた。
「姿はあるのか」
セイラのところにいたスライムが死んだ時は、何も残っていなかった。モンスターも素材アイテム以外の死体などは、何も残らないはずだ。
反面、人間のNPCは姿が残っている。かつてアクイナスは、娘を蘇らせる為に実験を繰り返していた。それを考えるとありうるのか、ウィステリアの再生も。
そもそもホムンクルスの魂というのもよくわからない。ただ、オーガと戦っている時に聞こえた何か。謝罪だったか、願いだったか。何らかのデータが俺へと伝わっていた。
このまま壊れた体に再度『動く人形』の生成を試みるのは違うと思う。何らかの別の手段が必要だろう。
「ウィステリアさん、は、修理すれば、治る、と」
シークスが途切れ途切れに伝えてきた。
「ならば直してみせますよ。錬金術師ですからね」
伯爵軍の被害は、隊長の1人が死亡、もう1人も重傷で復帰は困難とのこと。
騎士が40人近く亡くなり、負傷者は30人に上る。本来であれば負傷者の方が多くなるはずだが、最後まで戦った者が多かったようだ。
騎士達の踏ん張りもあって民兵には死者はおらず、負傷者も軽微な傷ですんでいる。これは伯爵の指令が民兵の生存を目指して、徹底していたことを示していた。
今回の参戦者の中からは、志願して兵士となりたい者が多数出ているらしい。
騎士の損害を受け、民間兵団を組織して防衛戦力として鍛えることを伯爵が決断した。
民兵から一歩踏み出して、国防を皆で考えるような気運になっている。
協力してくれた冒険者には1人頭5000の報酬が、支払われることになった。
先に俺が貰った額に比べると少ないが、単発クエスト報酬としては破格なので、皆不満は無いようだ。
それよりも俺のフレンドリストが、一気に賑やかになってしまった。
参加した20名すべてが俺へのフレンド登録を望み、それを断ることはできなかったのだ。
「この街はいい街だな。鉱山も近くて、職人も揃っている。食べ物もうまいし、拠点にはもってこいか」
「近くにダンジョンは無いがな」
「美人のお嬢さんはいっぱいいるぞ」
酒場で打ち上げしている冒険者からそんな声も上がっている。
今後、訪問者で賑わうことになるのかも知れない。
シグウェルで発生した防衛戦クエストは、これで一幕を終えることとなった。
ウィステリアの復活フラグを立ててしまった。
死んだままの方が良かったのかなぁ。
何にせよ一区切り。
そろそろ本編も進めないとですが……。