表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/72

シグウェル防衛戦 その7

 伯爵のいる本陣でも戦闘が開始されていた。防柵を挟んでそれを乗り越えようと登るゴブリンを、槍で突いて落としていく。

 侵攻は防げているものの、ゴブリンを撃破するには至っていない。

 そんな中、鋭い槍撃でゴブリンを射抜いているのは、戦装束(バトルドレス)に身を包んたウィステリアだった。

 防柵の隙間から、柵を登ろうとするゴブリンの顔や胸を刺し貫く。冷酷で正確な攻撃は、敵を恐れさせ、味方を鼓舞している。

「柵を登る相手は攻撃してこれません。しっかり狙って、落ち着いて攻撃してください」

 抑揚のないやや機械的なその声も、落ち着いて聞こえる。民兵達は、各々の持ち場でやれることをしっかりとこなしていた。


「まずいな、左翼が破られたらしい」

 コウモリの一報を受け取った伯爵は、本営のテントを飛び出した。

「ウィステリア殿、左翼に向かってもらえるか。シークスもついていけ」

「はいっ」

「それでは、ここはセーヴィス様お願いします」

「ああ、わかった」

 ウィステリアとシークスは馬を借りて左翼へと向かった。


「よし、撃破。姫、我らはエドワードの救援に行けばいいか!?」

 アレックスは、オーガを撃破してケイへと連絡を取る。

『中央の敵本陣が進軍を開始しています。これを止めないと総崩れになります。中央へ来てください』

「わかった、そちらへ向かう。行くぞ、野郎共」

「へいへい、ハードだねぇ」


 ズガオォォォーン!!

 上空で爆音が轟き、ルカの重力操作で足を止められていたゴブリン達に、爆炎が降り注ぐ。

 手持ちで最大級のヘキサコアを触媒に、メイの狐火を強化。降り注いだ火の粉はしばらく燃え続け、ゴブリンの命を刈り取っていった。

 鼓膜が破れるかという空気の波の中、セイラはオーク達へと駆け出す。それを見て俺やメイ達も続くが、オーガの姿を見て立ち止まる。

 今までのオーガより、更に頭一つ抜け出した体躯。幾つもの刀傷が走り鋭い牙が並ぶ、禍々しい凶相。近寄りがたいオーラが発せられていた。


「なんかやばそうなんだけど」

 更にその両隣には、2匹のオーガが構えている。1匹はナギナタ、もう1匹はゴツい手甲。そして大将は湾曲した蛮刀を2本、それぞれの手に握っていた。

「セイラ、下手に戦わずに、アレックス達を待とう」

「わかったわ」

 幸いにも稀有な重力操作を使える魔法使いが二人いる。ルカと一緒に移動速度を落としながら、セイラとメイとでチクチクと敵視を散らしながら引き回してもらう。

 こうしてアレックスとデレクのグループが到着するのを待つことになった。



 左翼では防柵の切れ目からゴブリンが流れ込みつつあった。騎士団か2部隊40人。ゴブリンは20匹くらいだが、ゴブリン側が押している。

 民兵は300人ほどいるが、穂先で牽制するのがやっとで、攻撃とまではいかない。

 強さで言うなら、民兵が1に対して、騎士が5、ゴブリンが10というところだが、ゲーム的にレベル差がありすぎるとダメージが全く与えられないのだ。

 ゴブリンが進む分、民兵の壁が下がり、騎士団が孤立し始めていた。


「助太刀に入ります」

 戦装束(バトルドレス)の裾をなびかせ、槍を手にした一見すると少女に見える人影が、ゴブリンの群れの中へと飛び込んだ。

「ウィステリアさん、無茶しないで……」

 続いてやってきたシークスは、ゴブリンの壁に動きを阻まれる。

 しかし、ウィステリアは周囲から襲ってくるゴブリンに、的確にダメージを与えていく。レベル的にゴブリンの倍の強さを持っていた。

 わずかに掠る攻撃は、ほぼノーダメージ。返す槍に貫かれたゴブリンは、一撃で動きが悪くなる。

「今だ、かかれー!」

 ウィステリアが作ったチャンスに、騎士団達も息を吹き返す。

 負傷して動きが遅くなったゴブリンを、騎士が三人掛かりで仕留めていく。

 徐々にゴブリンはその数を減らしていった。


 しかし、ここからが本番だった。

「るおおおぉぉぉ!」

 雄叫びと共に現れたオーガ。その威容はゴブリンの比ではない。騎士では全く相手にならず、ウィステリア、シークス、騎士隊長の二人で支えなければならない。

「まずは俺が!」

 盾を構えた騎士隊長が歩み出て、オーガの前に立つ。しかし、オーガの得物はトゲ付き鉄球が先端についた棍棒。モーニングスターと呼ばれる鈍器で、盾で受け止めようとした騎士を軽々と打ち飛ばした。

 10mほど宙を舞った騎士隊長はそこで動きを止めていた。

「くそっ」

 もう一人の騎士隊長は警戒しながら近づく。それに対してオーガは臆する事なく接近し、モーニングスターを振り回した。

 見ることに徹していた騎士隊長は、その攻撃を何とか間合いを取りながら避けていった。

「そのまま注意を引いてください」

 ウィステリアは、その間にオーガの背面を取りに動く。

 その時オーガが振ったモーニングスターの先端部分だけが飛び出した。鎖付きの先端は、今までの間合いのはるか先まで届き、飛び退って下がろうとした騎士隊長をまともに捉えた。

「ふげぅっ」

 大きく吹き飛ばされた騎士隊長。さらに背後から近づいていたウィステリアにも、モーニングスターが振るわれる。

 柄の動きからワンテンポ遅れて飛来するトゲ付きの球を、かろうじて槍で弾くがウィステリアも体ごと押し戻された。


「オーガっていうのは、ここまでなのか。これをセイラさんは1人で抑えるんだよな」

 シークスはモーニングスター相手には役に立ちそうにない盾を捨て、剣を両手に持って前に出た。

「シークス様!」

 騎士達から咎めるような声があがるが、ここはシークスが止めるしか方法がない。

「シークス様、冒険者が戻って来るまでの間だけ、防御に徹して凌ぎましょう」

「心得た」

 ウィステリアと挟み込む形でオーガと対峙する。軽く2mを越す筋肉質の巨躯。鎖を巻き戻して、再び棍棒状態になったモーニングスターを構える姿に隙は見当たらない。

「それでもやるしかないな」

 シークスはオーガへと剣を振るった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ