シグウェル防衛戦 その6
まだ野営中のオーガ陣営に対して、冒険者達のグループはそれぞれの目標に向かって進んでいく。
俺達はメイの案内もあるので、敵の中央を静かに突破。敵陣の真ん中にある一団に向かうことになっていた。
「メイと法師丸はくれぐれも命を守ってね。私達は復活するんだから、危ないと思ったら逃げて」
「はい、です」
敵陣のど真ん中ではあるが、小獣状態の2匹なら、逃げ切るのは難しくないはずだ。
最短距離を進んだ俺達は、二列目の左右を目指した他の隊より早く配置につく。
フレンドメッセージでその旨を全体に連絡。アレックスとデレクのグループが配置につくのを待った。
『こちらも配置についた』
デレクからのメッセージで、それぞれのグループが敵陣に仕掛けられる位置についたことになる。
「みなさんの働きが、シグウェルの未来に繋がります。奮戦を期待します」
「「銀の姫の為に!」」
思わず赤面しそうになる返答があったが、気持ちを前方の野営地に向ける。
ゴブリン達が休んでいるテントに、幾つかのフレアコアを放り込んで戦いの狼煙にすると、オーガのテントへと向かう。
しかし、オーガの方も先の野営地襲撃から学んでいたらしい。
俺達の襲撃に気づくと、手に大刀を持ち、テントを切り裂くようにして、その姿を現した。その体には既に鎧をまとっている。
「セイラはオーガのタゲ取り。邪魔なゴブリンは先に数を減らすぞ」
基本的な戦い方は前回と同じだ。セイラがオーガを引きつけているうちに、周りのゴブリンを倒してから、集中的にオーガを倒す。
メイは接近戦用の武器として、鉄で作られた爪を用意していた。手甲から伸びた4本の刃が、フレアコアの爆風でダメージを受けたゴブリンを切り刻んでいく。
「あぅあぇあおおっ、あぅあぇあおおっ!」
ルカは意味不明な雄叫びを上げつつ、ゴブリンへと手をかざす。すると風魔法のカマイタチが、ゴブリンを切り裂いていた。
母音発声による詠唱短縮。呪文のキーワードで重要な言葉の母音を抜き出し、それを繋げる事で魔法を発動させているらしい。
ただ実際に言葉で呪文を唱えるように抑揚をつけながら、正確に発音するのは難しく、実戦で使用できる者は少ないという。
俺もさぼっているわけにはいかない。重精霊を呼び出し、メイが囲まれないようにゴブリンを弾き飛ばしていく。転倒したゴブリンには、メイが素早く止めを刺してどんどんと数を減らしていった。
「メイ、深追いはするな。オーガを倒すぞ」
混乱して逃げ出したゴブリンは追わず、火力を集中してオーガを仕留めにかかる。
セイラは1人でオーガを足止め、法師丸のヒールにもさほど頼らない戦いを繰り広げていた。
俺は重精霊を解放し、続けて一酸化炭素の精霊を呼び出す。
セイラには影響を与えないオーガの後頭部近辺にいっさんを張り付かせ、継続ダメージを与えさせる。
ルカは闇魔法でオーガの視界を奪い、メイが鉄の爪でオーガを切り裂く。
オーガは鎧を着ていて、前回よりも強い状態だが、こちらも戦闘力や戦い方が上がっている。
特に接近戦で立ち回るメイのDPS(秒間ダメージ)が上がっていて、オーガの体力の減りが早くなっていた。
「ケイ、ゴブリンだ」
どこにそんな余裕があるのか、セイラの声にゴブリンが戻ってきているのに気づいた。
それをルカと対処するうちに、オーガも暴走気味の攻撃になり始めた。
力任せに大刀を振り回し、隙は大きくなったが、攻撃範囲が広くなっている。下手に近づくと、巻き込まれそうだ。
それを感じたメイは、少し距離を取ると攻撃を狐火に変更。ペースは落ちても確実にダメージを重ねていく。
「るああぁぁぁ!」
雄叫びを衝撃波のように飛ばしながらオーガは暴れる。しかし、目を覆う闇魔法が照準を絞らせず、セイラは余裕を持ってそれを回避。
「おしまいね」
残りの体力量を見切ったセイラは、力任せの大刀をステップで避けると、懐に飛び込んで一気にラッシュをかけた。
それに合わせるようにメイも肉薄。背後からオーガを切り刻む。
俺とルカがゴブリンを始末しきる前に、オーガを撃破してしまった。
「よく頑張ったな、メイ」
辺りの敵を一掃し、一段落ついたところでメイを労う。狐耳がピコピコ動く頭を撫でてやっていると、セイラがこちらを見つめていた。
「あ、セイラも撫でる?」
するとプルプルと首を振って、頭を差し出してきた。撫でて欲しいのか。同い年の女の子の頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて喜んでいた。
「おい、銀の姫。遊んでいる暇はないぞ」
「わ、わかってる」
フレンドメッセージを確認するが、他に撃破の連絡はない。他の陣営に加勢するため移動を開始した。
メイに跨がり、木々の間を縫うように駆ける。セイラやルカの馬では通れない隙間もメイは駆け抜け、最短距離でデレク達のグループに合流した。
デレク達はゴブリンに囲まれながら、オーガと対して戦力が分散されていた。
そのゴブリンの背後から襲いかかり、フレアコアを狐火で引火させてなぎ払う。
敵の一角を崩した事で、防戦気味だったデレク達も攻勢に出始め、戦局は動く。その時だった。
『姫、すまないっ』
左翼の一列目で戦っていたエドワードからのメッセージだった。タンクがオーガの攻撃で死に戻り、戦線が崩壊し始めているとの報告だった。
「逆か!?」
デレク達は右翼の二列目で、エドワード達とは丁度対極の戦場だった。救出に向かうにも距離がある。
「アレックス達は?」
『すまん、もう少しかかる』
左翼二列目のアレックス達もまだ戦闘中だ。一列目の中央も同じだろう。
「伯爵に知らせないと」
「コウモリで伝える。左翼からの攻撃に備えよ!」
少し遅れて到着していたルカが、コウモリを使って伝言してくれた。
パパン、パパン!
その時、火薬の炸裂音が森の奥から響いた。
「まずいな、中央の敵本陣も動き始めた」
ルカが仕掛けていた鳴子代わりのかんしゃく玉の音だった。本陣が動いたら、ゴブリンの誰かが踏むように仕掛けていたのだろう。
デレク達はゴブリンの包囲網から脱して、オーガを囲んで叩き始めている。
「デレクさん、私達は中央に戻ります!」
「わかった。後は自力で何とかできる!」
俺達は再び森の中へと駆け出した。
戦闘シーンが続きそうだけど大丈夫かな……。