シグウェル防衛戦 その2
店の表の方へ戻ると、異常な熱気に包まれていた。軽妙な音楽と、手拍子、掛け声などが響いている。
店内の様子がわかってくる。
簡易に作られたステージで、アイドル風のコスチュームに着替えた『動く人形』が、流れる音楽に合わせて踊っていた。
それを客達が集まり囃し立てている。
「マーカス、これって……」
「伝説の劇場だよ。会いに行けるアイドルプロジェクト」
呆然とする中、曲が終わりいっときの静寂が訪れた。
「サユリ、カヨコ、ご苦労」
人形二人は、ペコリと頭を下げて舞台袖へと消えていった。観客からはアンコールの声が上がるが、マーカスは無視。
「こういうのはメリハリが大事なんだぉ。安売りすると、新鮮味がなくなっちゃうからね。あ、そうだケイちゃん、そのうち追加で人形頼めるかな?」
「ま、まぁ、仕事としてなら」
「頼んだぉ。さて、皆の衆! 銀の姫プリスティンことケイちゃんからのお願いを聞く気はあるかー」
マーカスが簡易ステージに立って、客へと呼びかける。といって、今いるのは6人だけだが。
アンコールの声が収まり、タイミングを合わせて「おぉー!」という声が響いた。
「ケイちゃんが住まう街が、オーガ達に襲われそうになっている! ここを助けず漢と言えるか!」
マーカスの煽りに「おー、おー」と拳を振り上げ、賛同を示す客達。その異様な熱気に、俺はすごく逃げたくなった。
「さあ、ケイちゃん。皆に言葉を」
逃亡のチャンスを伺う間もなく、マーカスにステージへと上げられた。
ステージにはライトが当てられ、客の顔は判別できない。その分、緊張は少し取れた。
「突然すいません、みなさん。私が住んでいるシグウェルの街が、モンスター達に狙われています。ボス格のオーガが少なくても5匹、今の私達では防ぎ切れません。どなたか、手助けをしてくれませんか?」
するとステージ前にいた客達が一斉に膝を折った。
「へ?」
そしてその中の一人が、頭を下げたままステージ前まで歩み出る。
「拝謁至極にございます、姫。我はアレックスと申す者。姫の剣となりて、悪鬼を打ち倒して見せましょう!」
「ケイちゃん、左手を差し出して」
マーカスの小声に誘われるままに左手を伸ばすと、アレックスがその手を押し抱くように触れる。両手で額に掲げたあと、手の甲へ軽く口付ける。
「この身に代えましても、姫をお守り致します!」
そう言ってアレックスが下がると、入れ替わるように別の客が。次々と忠誠を違う人々を前に、自分が本当の貴族のような気がしてしまう。
結局、その場にいた6人から参戦を約束してもらった。
「いやぁ、一度はやってみたいよね」
「リアルじゃできねーわ」
店内の照明が通常のものに戻り、簡易ステージが片付けられると、客の雰囲気も一転した。
「え、えっと……」
「ロールプレイだぉ。男の子は姫さまの為に戦いたいものなのさ。でも、約束は約束。みんな助けてくれるぉ」
戸惑う俺にマーカスが説明してくれる。
「ケイ、ここにいたっ。やっぱり、隊長達でも私より弱いわ。このままじゃ、押し切られるかも」
マーカスのショップに、セイラが駆け込んできた。
「オー、大和撫子!」
「Very Beautiful!」
周囲からの声に、セイラが戸惑う。
「マーカスの店の客? こんなに入ってるの初めて見た」
「なんか経営の方向が変わったみたい」
俺が渡した『動く人形』のせいかもしれないが。
「まあ、おかげで協力者が増えたけど」
「へ?」
セイラにここの客が手助けしてくれる事を伝えた。
「6人か、戦力が増えるのは助かるけど、まだまだ足りないかも」
「ああ、それなら俺達も仲間に呼びかけてみるよ」
「お願いできる?」
「任せろ、プリスティンのためだしな」
「??」
知らない名前に疑問符を浮かべるセイラ。後で説明したほうがいいだろう。
「とりあえず詳細がわかったら連絡するよ。マーカス経由でいいかな」
「ああ、任せるぉ」
胸を叩きながら了承してくれた。顧客としての名簿を作っているらしい。この辺は、商売人としてのマネージメントなのだろう。
アレックス達には悪いが、まだ個人の連絡先を教える気にはなれないので助かる。
後はオーガ達が攻めてくるのがいつになるかという事だった。




