リアルでもお酒
気づくとそこは自室のベッドの上。どうやら強制終了が働いたようだ。ゲームの世界でも酔いつぶれられるのか。しかし、朦朧とした意識が一気に覚醒していた。
「結局、ルカは何者なんだか……」
色々と詳しいし、知識は豊富な人なんだろうが、正体は謎だな。
再度ログインしようかとも思ったが、ゴブリン探索からオーガ戦とそれなりに疲れていたし休む事にした。
一応、石井さんには寝ることをメールして眠る。
「昨日はごめんね。ほとんど覚えてないの……」
「俺も酔って強制終了しちゃったけどね。でも、石井さんはお酒気をつけた方がいいかも?」
「ゲームは酔いやすくできてるんだよ。バッドステータスの一つだしっ。それに飲む機会もないしね」
「コンパとかに誘われるんじゃない?」
「今のところはそんなでもないかな」
「来年からはゼミもあるし、増えるかもね」
「そっか、ゼミか。鍋島くんはどこに入るか決めた?」
「いやまだだけど……行動心理学か」
「ん、どうしたの?」
「昨日ルカの正体を聞いたら、行動心理学の研究員だって」
「ふうん、そんなにルカさんの事が気になるんだ」
「ルカが気になるっていうか、ルカの心を見透かしたような物言いが気になるんだよ」
「へえ、そう」
目を半開きに、疑う素振りを隠そうともしない。
「なるほど、行動心理学か」
表情や仕種から相手の内面を類推するのは、日常的にやっていることだ。それらをまとめて考察していけば、それも学問として成立するのか。
「それはさておき、今日は飲みに行ってみる?」
「ふぇ?」
「ALFを再開してから、あんまり出掛けてなかったなって」
「……鍋島くんも十分、心を読んでるよ」
石井さんがヒント出してくれたからだけどね。
大学からの帰りに、居酒屋に寄ってみた。もちろん、石井さんが酔いつぶれることもなく、普段は食べないような焼き鳥、刺し身、天ぷらなどを堪能した。
「ふふふ〜」
上機嫌の石井さん、アルコールが入ると陽気になるようだ。腕に絡みついて、いつもよりも密着率が高い。
「美味しかったね」
「そうですね〜」
足取りはしっかりしてるので、それほど酔ってないのかも。でもそれを指摘するのは無粋というものだろう。
「またどこか行こうね」
「約束ですよ?」
嬉しそうに確認する石井さん。もっとお出掛けもしないと駄目だなと心に刻んだ。
駅で別れて家に帰ると、ALFにログイン。酒場で強制終了したままだった。
酔いざましといっていいかわからないけど、野菜ジュースを貰ってひと心地つく。
それから家に戻ってみると、家の前で執事が一人待っていた。
「お戻りになりましたか、錬金術師殿。伯爵様が至急お越しいただきたいと申しています」
「へ? わ、わかりました」
執事の御する馬車に乗り込み、いつの間にか側に居たメイと共に屋敷へと向かった。
「錬金術師殿、何度もすまん。実は先日の野営地で手に入れた文書が解読できましてな」
書き写したものだろう、一枚の紙を渡される。
そこには指令書として一団を連れて、侵攻しろと書かれていた。場所も簡素な地図として載せられている。
「読んでもらえれば分かるだろうが、あの野営地以外にも侵攻を企てている部隊がありそうなのだ」
「なる、ほど……」
「こちらも足の早い偵察隊を西の森に派遣して、30人規模の野営地を4つほど発見した。我々では戦力的に厳しいと判断して、錬金術師殿に来ていただいたのだ」
と言われても、俺達の戦力はそれほど多くはない。野営地を潰して回るにはそれなりの準備が必要だろう。
「もちろん、我々も大規模な戦闘も予測して、民兵の招集も視野に行動を開始している」
維持コストのかかる常備軍は、数としては国防に足りてはいない。
有事の際には、領民から義勇兵を募るのだ。
ただ集めるにも準備が必要で、武具や糧食の確保が必要になる。
「ただのゴブリン程度なら民兵でも何とかなるだろうが、報告にあったオーガがいると被害が甚大になる。錬金術師殿には、遊撃隊としてオーガ討伐を願えないだろうか」
いきなりの事態にどうしたらいいのかわからないが、シグウェルの街が蹂躙されるのは許せない。
「わかりました、微力ながら協力させて頂きます」
こうして『シグウェル防衛戦』クエストが開始された。
ちょっと戦記モノを書きたい欲が出まして、新たなクエストが発動しました。
ちゃんと書けるだろうか……