野営地への強襲
オーガは一人豪勢な食事に囲まれ、ゴブリン達はよくわからない物が煮込まれた鍋を取り囲んでいた。
団欒の場に襲いかかるのは悪い気がするが、作戦の基本は相手の油断を突くこと。心を鬼にして、手にしたトライコアを鍋の周囲へと放り投げた。
炎系の魔法を強化するフレアストーン。そこから要素を抽出したフレアコア。それを更に3つ集めて合成したのが、トライコアだ。
そこに魔力では優に俺を超えているメイの狐火で引火させる。
辺りに轟音が響き、灼熱の炎が吹き荒れる。ゴブリンに対してはオーバーキルと言える威力だが、数を確実に減らしておきたいので、手加減は無用だった。
「ぐるごぁぁ!」
食人鬼が咆哮を上げ、狐火の範囲外にいたゴブリン達も戦闘態勢を取り始めた。
「私はオーガを抑えるから、ザコはお願いね!」
「了解!」
セイラは食人鬼へと向かい、それを法師丸がサポートする。
俺とメイは残ったゴブリンを撃破していく。20はいたゴブリンも最初の一撃で半分になっている。しかも武装は身につけていたタガーがほとんど、俺はメイと炎魔法で確実に仕留めていく。
元々妖狐として、敏捷性もあるメイは、軽やかに舞いながら攻撃していく。
一方、俺はゴブリンに接近されると満足に魔法も使えない。杖替わりの傘を使って、ゴブリンと戦う羽目になっていた。
『姉様、増援です』
レベル差を活かして力任せにゴブリンをぶっ叩いていると、メイから報告が入った。
偵察に出ていたゴブリンが引き返して来たのだろうか。
5匹の集団が近づいてくるのが見える。数はさほどではないが、槍などで武装していて、傘より間合いが広い。
「コアで一撃加える。メイは少し下がって」
「わかった、です」
野営地に残っていたゴブリンは3匹。メイにはそちらの撃破を優先してもらい、俺は近づいてくる一団へとトライコアを起動してから投げた。
炎魔法で引火させると威力があがるが、単体で使用してもある程度のダメージを与えられる。
しかし、今回は威力自体よりも、相手を牽制する意味合いが大きい。偵察隊の手前で爆発を発生させて、近づいてくる足を止めさせた。
その間にメイが野営地のゴブリンを倒していく。
俺も所持袋から瓶を取り出して、風の精霊を呼び出す。
重力操作魔法をかける余裕はなかったので、一酸化炭素からそのまま上位精霊を召喚。
再び接近を開始した偵察隊へと向かわせた。一酸化炭素は、呼吸障害により周囲にダメージを与える事のできる精霊になっている。
「あ……」
久々に戦闘で呼び出した一酸化炭素の精霊。その特性を一つ忘れていた。
野営地のゴブリンをメイと一緒に片付けた後、上位精霊に加勢しようと炎魔法を飛ばしたところ、精霊に引火して青白い炎と共に燃え尽きてしまった。
一酸化炭素は可燃性の気体でもあるせいだ。
「め、メイが苦しまない為だしっ」
「姉様、ありがと、です」
一酸化炭素の精霊の効果は敵味方問わずに発生するので、乱戦では味方にも被害がでる。
ただ忘れていた事の言い訳に、律儀に感謝されると心苦しい。
一酸化炭素が燃える際に、周囲にもダメージを与えていたので、偵察隊の体力はかなり削られていた。
そこにメイが襲いかかって、次々と倒していく。何気に両手の爪が伸びて、接近戦で相手を切り刻んでいるようだ。
優秀すぎて恐ろしい。修正されないだろうか……。




