ゴブリンの野営地
森の中の空き地に、幾つかのテントが立っていた。テントと言っても木を立てて、布を被せただけの粗末なモノで、雨露がしのげればよい程度。ただ一つだけ、立派なテントが建てられていた。
『あのテントに大きいのがいる、です』
ボロテントの方では、ゴブリンが雑魚寝しているのが見えるので、ある程度数もわかる。
今、この野営地にいるのは20匹ほど。空のテントもあることから、偵察に出ている部隊がいくつかあるのだろう。
そうして観察しているうちに、大きなテントからゴブリンの倍はあるだろう、筋肉質の巨漢が現れた。口元には鋭い牙が立ち並び、周囲を威嚇するような目で辺りを見渡す。
「ぐぁるぁぅ!」
一声吠えると、周囲のテントにいたゴブリン達が慌てて起き始めた。そして、食事の準備だろうか、火を起こしたり、荷物を解いたりせわしなく動いている。
大きな1体は、その様子をあぐらをかいて睨んでいた。
「あれは食人鬼ね。ゴブリンよりもかなり強い。この部隊の隊長ってところでしょう」
一度野営地から離れて、セイラと情報交換する。
「セイラは勝てる?」
「IDで出てくるのはボス型とザコ型がいるんだけど、どっちも撃破済み。ただ同レベルの4人パーティでだけど……」
セイラが俺とメイを見る。
「実力的には、ケイ達も大丈夫だと思う。ただ一発のダメージが大きいから、ヒーラーは必要ね」
「そうか……報酬を考えたら、撃破したいところだけど、ヒーラーは回復ハトくらいしかないな……」
しかし生み出してあまり成長していないハトは、メイに比べるとかなり弱いままだ。
「あっ!?」
セイラは何かに気づいたかのように、所持袋を操作する。
すると体長20cmほどの子猫が現れた。ただその尻尾は二又に分かれている。
「ごめんなさい、法師丸。ずっと入れっぱなしで」
出てきた猫は、セイラに一声鳴くと、とことことメイの方に歩いて行く。
「フシャー」
急に威嚇を始めて驚く。メイフィとは仲が良かったと思ったが……。
『ずるくない、です。メイは姉様の一番の娘です』
腰に手を当て、胸をそらすようにえばっている。どうやらメイが人の姿になっているのを怒っているらしい。
『大丈夫です。姉様なら法師丸にも変化の力を与えてくれる、です』
などと勝手な約束をする。
法師丸も三毛の子猫の姿の潤んだ瞳で、こちらをキラキラと見つめてきた。
「ううっ」
「私からもお願い。法師丸にも人の姿を与えてあげて」
「ぜ、善処します」
セイラにも頼まれると、嫌と言うわけにもいかない。レシピはあるので、後は地道に組み上げていくしかないか……新たな課題ができてしまった。
法師丸はメイに比べるとまだ弱いが、それなりに経験を積んだヒーラーだ。
俺やセイラが留守の間に、スライム達と家を守ってくれていた。
「じゃあ、あの野営地に襲撃をかける……で、いいかな?」
「そうね。5万も報酬もらうわけだし、それくらいはやってもお釣りが出るわ」
この中では最も経験豊富なセイラによって作戦が決められた。セイラには負担がかかるが、自信ありそうなのでここは信頼すべきところだろう。
再び野営地に戻り、食事を始めていたゴブリンの一団へと、強襲をかける事になった。