西の森の捜索
伯爵の依頼をこなすために、西の森を目指そうとした。しかし、一つ問題があった。
「あ、メイが人型になったから、乗り物を調達しないと」
「大丈夫です。変身する、です」
「へ?」
メイが屈み込むように四つん這いになると、みるみるうちにその姿が赤毛の狐に変わっていった。
さっきまで着ていた服が消えて、騎乗用の鞍がその背に現れた。
「な、何でもありだな……」
『さあ、行くです』
声帯が変わって言葉にならないのか、久しぶりに念話で話しかけてきた。
とりあえず問題も解消したので、穀倉地帯を抜けて森へと向かうことにした。
西の森は幹が白い木々が立ち並んでいて、どこか幻想的な雰囲気があった。
騎士団の情報から、少し奥を目指してさらに移動する。
「ゴブリンの探索……なんだよね」
「そうね」
「あんなに報酬がでるってのもおかしいよね」
「報酬に見合う何かがあるんでしょうね」
セイラとも意見が一致しているのを確認した。最初のゴブリンが出てくるIDをはじめてクリアした際にもらえる報酬が500G、今回はその100倍も貰えてしまう。
ゴブリンに限らない敵が待ち受けてると見るべきだろう。
「正直なところ、万単位の報酬なんて、かなり連続したクエストの報酬で最後に貰えるような額よ。最初でそんな額が貰えるっていうのは、かなり危険と見ていいわ」
セイラが警告してくる。それだけの報酬なのだ。
『見つけた、です』
肉食獣としての感覚を持つメイは、森林の探索でその能力を遺憾なく発揮してくれる。
「俺達いらないのかも」
「そんなことない、です」
人の姿に戻ったメイが否定する。地面の一部を指差していた。
「足跡がある、です。何人かがまとまって移動してる、です」
「ゴブリンの狩猟組かしら?」
ゴブリンにも生活があるので、森の獣を狩りしている可能性はある。
「歩き方に規則性があるです。決められた範囲を移動してるみたい、です」
「ん、どういうこと?」
「獣を探すなら、もっと痕跡を探して範囲が広くなる、です。でもこの足跡は、まっすぐです」
決められたルートを歩いているという感じなのか。
「辺りを偵察している?」
「野良ゴブがどんな行動とるのかよくわからないわね」
ゴブリンは討伐するものってだけで、IDでは住んでるところに襲撃をかける形。その生活ぶりはあまり知らないのだ。
「ちゃんと調べた方がいいのかなぁ」
「姉様、近いです」
メイが声をひそめて、茂みに隠れるように指示してきた。
茂みに隠れるようにしながら進んでいくと、前方に小人の集団が見えてきた。
数は5人か、手に槍や剣を持って、キョロキョロしながら進んでいるが、メイのように足元の痕跡を探っている様子はない。
『やはり決められたルートを偵察しているみたいだな』
『はい、獣を探している感じじゃない、です』
なにげに会話したが、人型でも念話は使えるらしい。こんなに便利でいいのかな。サーバーで進行を管理されるクエスト報酬としての特異性か。
『とりあえず後を追って、集落に案内してもらおうか』
『わかった、です』
ゴブリン達は視覚による偵察を行っているようで、茂みに隠れさえしていれば、見つかる様子はなかった。
小声なら会話しても気づかないみたいだ。
「もうすぐ集落につきそうかな」
「キョロキョロする回数が減って、足取りも早くなってるわね」
明らかに偵察の仕種がおざなりになっている。単純に疲れて雑になっているのか、自分たちで偵察する必要がないのか。
後者の場合は、他の部隊によって監視されている可能性もある。
「メイ、周り見てきてもらえる?」
「わかった、です」
言うなり子狐の姿になって駆け出した。なるほど、偵察に出るなら小さい獣の姿が一番なのか。
「やっぱり、偵察だけならメイだけで十分だなぁ」
「楽しようとしちゃ駄目よ。こういう探索もゲームなんだから」
「だよね」
メイに頼り過ぎないようにしないとな。
しばらくするとメイが帰ってきた。
「ここから向こうに行くと、野営地があった、です」
「野営地?」
「はい、30人規模のテントがあったです」
「多いな……」
「あとゴブリン以外の大きなのもいた、です」
「大きなの」
「体が大きいのはホブゴブリンとか。別の種族だとすると、オークやオーガがゴブリンを連れてる事があるわね」
「ちゃんと見ておきたいな。メイ、見つからないように案内できそう?」
「見えるとこまでなら、大丈夫です」
メイに誘われるままに、森を進んでいった。
ちょっと文章を短めに区切っていこうかなと考えてます。
一話が長いのとどちらが読みやすいのか。
意見がいただけると助かります。




