伯爵からの依頼
「伯爵様から書状が届いています」
ALFにログインすると、ウィステリアから筒状になった書状が渡された。
封蝋がしてあって、伯爵の紋章が押されている本格的な物だ。
内容は伯爵の所領にて、対処すべき問題が発生したので屋敷に来て欲しいということだった。
「わざわざ書状にするってことは、何らかの依頼なんだろうな」
「使者の方は極力早く来て欲しいとの事でした」
「わかった。セイラが来たら行ってみよう」
少し遅れてセイラもログインしてきて、伯爵から呼び出されたことを告げた。
「何かクエストが発生してるのかな?」
「だと思う……息子の探索してないけど、いいのかな」
忘れたわけではないか、なかなか進めてないクエストもあって、少し不安になってしまった。
「とりあえず行って見るんでしょ?」
「うん、行ってみよう」
メイも連れて屋敷へ行ってみることにした。
マクシミリアン家所領シグウェルの街は、東に鉱山、北に放牧などを行っている高原、西に小麦などの穀倉地、南は最初の街からの街道という感じで成り立っている。
西と南には森も広がっていて、狩猟なども行われていて、俺の家は南の街道から少し山側にそれた辺りにあった。
街の中心部には転送されてくる場所とそれを囲むように商店が並んでいて、そこから北に向かうとマクシミリアン家の屋敷があり、行政府も兼ねている。
門から馬車で玄関まで向かわなければならない広さがあり、伯爵の力も感じられた。
伯爵自身は40代半ばだが、10歳は若く見え、剣術や狩猟にも出かけるためスマートな体型を維持している。
やや白いものが交じる頭髪が、より渋さを増していて格好いい年齢の重ね方をしていた。
「よく来てくれた、錬金術師殿。どうぞ、おかけください」
貴族の中でも上流に位置する割には、気さくな雰囲気を持っているのも好感が持てる。
実際、鉱山で働く人々とも直接に面識を持っていて、困ったときはすぐに相談にも乗っている。良い領主の見本のような人だ。
「お呼びしたのは冒険者としての協力を仰ぎたかったからです」
そう切り出した伯爵は、現状を簡単に説明してくれた。
シグウェルの西部に広がる穀倉地帯の更に西にある森で、ゴブリンの姿をよく見るようになった。騎士団が見回りをしているが、その大本である集落的なものが見つからないらしい。
「冒険者はそうした事に秀でているとお聞きしています。もしよろしければ、調査に協力してくださいませんか」
そういって提示されてのは、前金で5000、集落の発見等の場合には、更に45000で合計5万の報酬だった。
「5万、ですか?」
「すまないが我らの領地収入にも限りがあるので、このくらいで勘弁願いたい」
「いえ、逆に多すぎる気がするんですが……」
セイラを振り返ると、コクコクと頷いていた。最初に受けたダガーの錆落としの依頼も破格だったが、今回は更に多額の報酬になっている。
「何、騎士団をこのまま派遣し続ける事を考えると安いのだ。ただ時間がかかるようなら、諸君らだけでなく、他にも依頼を出さなくてはならないので、これ以上は厳しい」
なるほど、時限的なクエストで、優先的に回してくれた感じなのか。これもまた、マクシミリアン家との友好度によるものらしい。ここはその信頼に応える意味でも受けるべきだろう。
「はい、引き受けるのは問題ありません。早速、取り掛かりたいと思います」
「すまないが頼む。穀倉地帯に出てこられると、被害が大きくなるのでな」
「はい、わかりました」
俺たちは屋敷を辞去すると、西の森へ向かうことにした。