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第8話 俺、1度皆と解散する


 反省会がひと段落した様子の子供達が俺達の事に気付いて駆け寄って来る。


 「あー、俺の下僕諸君」


 「おい、誰が下僕なんだよ、雄太兄ちゃん、それはさっきだけの話じゃ……」


 と颯太が言って来たので、俺はポケットから取り出したとある物・・・・を見せてやる。


 「ちょ、何でこんなモン持ってるんだよ、ズルいぞ! 雄太兄ちゃん」


 颯太は顔を赤くしながら、慌てて俺の持っているを奪い取ろうとしたのだが、俺はそれをサッと躱す。


 「何もズルくないだろ、それよりお前達に頼みたい事がある」


 「頼みたい事?」


 今度は茉希が聞いて来る。


 「ああ、俺は暫くこっちに居る事にしたから出来るだけ毎日この公園に遊びに来てくれ」


 「へ? どうして?」


 「細かい話は無しだ、ややこしくなるから。お前達は遊びに来てくれるだけでいい、しかも出来るだけ学校の友達を沢山連れて来て欲しいんだ、頼む!」


 と言いながら両手を顔の前で合わせる。


 「遊びに来てくれと言われても、ここには遊ぶ物が何も無いじゃない」


 と茉希が至極最もな事を言ってくる。

 うう、その通り過ぎて何も言えねー。


 「必要な物はなるべくこっちで用意するからよ、な?」


 「うーん、そこまで言うのなら別に構わないけれど、屋根付き、テーブル付きの談話スペースとか用意出来るのかしら?」


 茉希が少し考える様な仕草を取りながら聞いて来る。

 ぐぬ、や、屋根付き、テーブル付きの談話スペースだと? 一体何SPするんだ?


 <おい! ナディ、今の聞いてたか? 談話スペースって用意出来そうか?>


 今日の皆との遊びで、もしかしたらかなりのSPが貯まっているかもしれないからな。

 最悪水道を諦めれば何とかなるのかも……


 <おい、ナディ! 聞こえないのか?>


 <……スー、……スー、……>


 あ、あの野郎、もしかして泣き疲れて寝てんじゃねーだろーな? ビックリするくらい役に立たない野郎だな。

 帰ったら覚えてやがれ!


 「茉希スマン、今すぐにはわからないが何とかして見せるから……」


 「ふーん、何とか出来ちゃうかもしれないんだ、面白そうねー、いいわ。私は手伝ってあげる」


 頭のいい茉希は、何か感付いたみたいだな。


 「他の皆も頼むよ」


 と言うと、よくわかっていないみたいだが、別にいいよーと皆が言ってくれた。

 しかし颯太だけが条件を付けて来た。


 「さ、さっきのヤツを消去してくれるなら、いいよ……」


 「何だよー、折角の最高傑作を消してしまうのかよ」


 「何が俺は監督をするだよ! 本当に撮ってんじゃねーよ!」


 と颯太は言いながら俺から携帯電話を奪い取り、先程の快速戦隊マシンジャーごっこの動画を削除した。

 そう、俺は砂の城に携帯を置き、先程の通常時ならこっ恥ずかし過ぎる寸劇を、保険の為に録画しておいたのだ。

 フフフ、俺は服で顔を隠していたから全然平気だぜ。


 「流石雄太兄さん、言う事を聞かせる為に相手の弱みを握るとは、やる事が外道ですわね」


 茉希が褒めてるのか貶しているのかわからない言い方をして来た。


 「人聞きの悪い事を言うなよ、思い出の為に撮っていただけだろ?」


 そして皆の方へと視線を向ける。


 「じゃあ皆、明日から頼んだぞ、本日は解散ー!」


 「ちょっと、解散の前に連絡先くらい教えて貰ってもいいかしら?」


 と茉希が制服のポケットから携帯を取り出した。

 今時の子供は普通に携帯持っているんだな……と思っていたら、杏子と雅弘以外、颯太、和樹、恋都がポケットから携帯を取り出した。

 お、俺の感覚がズレているのか……?


 「そ、そうだな、皆交換しておこう」


 と、それぞれと連絡先を交換し終え、最後に咲希が携帯を握りしめて待っていた。


 「私にも教えて、くれるよね?」


 「ああ、勿論だ」


 と2人で少し照れ臭そうにしながら連絡先を交換していると、俺の携帯に画像が添付されたメッセージが茉希から届いた。


 『今すぐ咲希お姉さんと2人で見て!』


 という内容だった。

 なので、


 「茉希から何か届いたぞ?」


 と言いながら、その画像を咲希にも見せながら開くと、咲希が部屋で着替えている最中の下着姿の画像だった。

 咲希は神の領域の速さで俺から携帯を奪い取り、顔を真っ赤にしながら画像の消去ボタンを連打していた。


 「ちょっと、茉希ー!」


 と咲希が叫んだ時には、もう既に茉希は公園の入口付近まで走って逃げていた。

 茉希は本当に悪い奴だな……


 「もう、茉希ちゃんたら……」


 と未だに赤い顔のままの咲希が俺に携帯を返しながら呟く。


 「と、兎に角皆、明日から頼んだぞ、後、いつでも連絡して来てくれていいからな」


 と言いながら、杏子と雅弘の所へ歩いて行き、


 「お前たちは咲希の携帯を借りて連絡くれればいいからな」


 と2人の頭をポンポンと叩きながら言った後、本当の御開きとなった。

 皆を公園の外まで見送ってから歩いて倉庫まで向かう。


 <おい、ナディ、起きたか?>


 <……スー、……肉まん>


 <肉まんじゃねーよ、サッサと起きろ! 馬鹿!>


 <むにゃ……、何ですか……一体>


 <おいナディ、起きろ、俺は一体どうやったらそっちに帰れるんだ?>


 <え、あ、あれ? 皆さんは? 他の子供さん達は?>


 おい、何言ってんだコイツ。


 <お前がグッスリ寝てる間に帰っちまったよ。初めて公園に人が遊びに来てたのにお前が寝ててどうすんだ、この馬鹿>


 <えええーーー! そ、そんなー……折角の待ちに待った念願の……>


 <いや、それは後で聞くから、先にそっちへの帰り方を教えてくれ>


 <え、ああ、そうですね、それじゃあ転送の準備をしますので、5分程そのまま待っていて貰えますか?>


 <……ん? 何だ、そんなに時間が掛かるモンなのか、わかった、倉庫の近くで待ってるよ、準備が終わったらまた呼んでくれ>


 <わかりましたわ、では>


 そう言ってナディは準備に入ったみたいだ。

 ナディからの連絡を待っていると、茉希からまた画像が添付されたメッセージが届いた。

 また変な画像じゃねーだろうな? と思って見たら、


 『雄太兄さんが欲しい画像は他にもまだまだありますのでご心配無く』


 というメッセージと共に、希望園の入口で撮られた6人の子供達の集合写真が送られて来た。

 写真の中の6人の子供達は、それぞれがとてもいい笑顔で笑っている。

 何かこの写真見てたら俺も和むじゃねーか。

 撮影したのは、恐らく咲希だろう。

 写っていないからな。

 

 『あんまり咲希を虐めてやるなよ? 明日も遊びに来いよ』


 とメッセージを返しておいた。

 ……しかしナディのヤツ、遅せーな。

 俺はもうとっくに公園にある倉庫の前まで来ている。


 <ナディ、まだか?>


 <……はい、今準備出来ましたよ。では倉庫の中に入って『ホームへ転送』と言って下さい。きちんと扉は閉めてからお願いしますよ>


 言われた通り、倉庫の中に入って扉を閉め、俺は叫んだ。


 「ホームへ転送」


 1番最初と同じ様に、俺の視界は高級そうなマンションの玄関の中を捉えていた。

 しかし最初と違う所が2か所ある。

 1つは今俺の前には上野かみの公園の神様ナディが立っている。

 俺の事を出迎えてくれたみたいだ。

 相当に泣き腫らした様子で両目をウサギみたいに真っ赤にし、そんな自分が恥ずかしいのか少し俯き加減だ。

 準備とか言いながら、実は自分の情けない顔を洗いに行っていたんじゃないか?

 ……いや、洗いたくても水道止められているんだった、それは無いか。


 「あ、あの……雄太さん、お、お帰りなさい……」


 と新妻の様に可愛らしく言うナディに対して、


 「お帰りなさいじゃねえよ、これは何だ?」


 と最初とはもう1か所違う所、玄関のとあるスペースを指差す。

 そこには1畳程のスペースで、高さは2m程あり、中には布団が敷いてあるのが見えているのだが、その布団の周りは有刺鉄線でグルグル巻きに囲われており、扉の部分と思われる場所には、『雄太ハウス』と書かれた看板が掛けられている。


 「雄太さんが布団で寝たいと仰っていたので、用意したのですよ」


 「いや、布団はわかるがその周りの、物々しい物騒な物は何だと聞いているんだよ!」


 「え、雄太さん知らないんですか? これは有刺鉄線と言ってですね……」


 「いや、そういう事を聞いているんじゃねぇよ! 何でこんな物がこの家にあるんだ……ま、まさか」


 「はい、ボーちゃんに用意して貰いました」


 何かおかしい? みたいな感じでさらりと答えるナディ。


 「がー! てめぇ、この野郎! 下らねー事に大切なSP使ってんじゃねーよ!」


 「まぁまぁそう怒らずに、取りあえずこちらに来てくださいな」


 そう言いながらリビングのドアを開けるナディ。


 「早く食べないと冷めてしまいますよ」


 と俺をコタツの方へと案内する。

 こたつの上には、ナディの分と俺の分の肉まんが既に用意されており、美味しそうな匂いと、湯気が立ち込めている。

 ナディは定位置なのか座椅子の所へと座り、俺が座るのを待っている。


 「どうぞ、早く座って下さいな、頂きましょうよ」


 というナディの様子が何処か不自然だ。

 俺がナディへ視線を向けると、真っ赤に腫らしたナディの綺麗な碧眼は、忙しなくアッチにコッチにと動く……こ、この野郎。


 「……おい、ナディ、頬っぺたに肉まんの食べカスがまだ付いているぞ?」


 「え、うそ、そんな筈は無いです、食べてからちゃんと鏡で確認しましたもん」


 と言ってから、口元を押さえ、『しまった』という表情をする。


 「テメーこの野郎、やっぱり俺が来る前に既に食ってんじゃねーか」


 「ま、まぁまぁ、そう怒らないで、実は雄太さんにはもう1つ良い物が用意してあるのですよ」


 と言ってからナディが冷蔵庫に向かって行く。

 その冷蔵庫は空っぽの筈では?

 と思っていると、ナディがガチャと冷蔵庫のドアを開ける。


 「ジャジャーン! 今日は頑張ってくれた雄太さんの為にこんな物を用意してみました!」


 と得意げに話すナディの手には……


 「お、おい、まさかそれを俺にくれるのか?」


 「はい、頑張ってくれたご褒美ですよ」


 と言いながらナディは今冷蔵庫から取り出した物を、コタツに座っている俺の前に置いた。


 缶ビールだー!


 「ビ、ビールじゃねーか、これ、飲んでもいいのか?」


 「はい、どうぞ。肉まんも冷める前に早く食べましょう!」


 まさかこんな所でビールが飲めるとは! ナディのヤツ、わかってるじゃねーか! まぁこれなら勝手に内緒で食った肉まんの事も許してやろう。



 

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