第7話 俺、咲希に事情を話す
「おやおや、やっとお出ましか快速戦隊マシンジャーよ」
子供達に向かって身振り手振りを付けながらセリフを放つ。
「「「「「ビューティープリンセス咲希姉さん、大丈夫か?」」」」」
杏子以外の子供達が声を揃えて、捕まっている咲希に向かってセリフを言う。
しかし練習したのか? と思わせる程、息ピッタリなのだが……
……
しかし咲希は顔を真っ赤にして狼狽えながら何も言わない。
なのでお前の番だ! と言わんばかりに抱き寄せたままの咲希の尻をバシっと叩いてやる。
「ちょ、何処触って……」
「……おい、お前のセリフの番だぞ」
ヒソヒソと小声で咲希に教えてやる。
「ああ、そ、そうか、……き、きゃー助けてー(棒)」
完全に棒読みの咲希のセリフに一同、膝が抜けそうになる。
しかし、咲の顔は至って真剣だ、ふざけている訳でも手を抜いている訳でも無さそうだ。
このドヘタな演技が咲希の全力なのだろう……
「ふはははー、お前たち快速戦隊マシンジャー如きがこの爆笑怪人ワラウンダー様に敵う筈があるまい」
咲希の大根な演技は無視して俺はセリフを続けた。
「よっしゃー! ここは俺に任せろー!」
ここで和樹がやっと一言目のセリフを放ち、俺に向かって突進して来た。
「ふはははー、お前1人で何が出来るというのだ? 愚か者めが!」
そう言って素早く和樹を捕まえ、両脇の下をコチョコチョと擽ってやる。
和樹は実際でもヤラレ役なのだろうか……
「な、ちょ、やめぐひゃひゃひゃーーー!」
和樹は擽られるのが弱いのかその場に転がり込んでしまい、笑いながら身動きが取れないでいるみたいだ。
「ぐひゃひゃひゃー、や、やめひゃひゃー、お、おねがぐひょひょー」
「「「「ああ! 和樹」」」」
他の子供達が声を揃える。
お前ら本当は普段から練習してんだろ、絶対。
「ふはははー、この爆笑怪人ワラウンダー様の必殺技コチョコーチョは、1度技を受けてしまうと我の完全なる下僕へと成り下がってしまう、恐ろしい技なのだ!」
そう言い放ってから和樹への擽り攻撃を止めてやる。
和樹は、はひーとか声を出しながらゆっくりと立ち上がり、
「ば、爆笑怪人ワラウンダー様、何なりとご命令を!」
俺のセリフの設定通りに下僕へと変貌を遂げたみたいで、俺に向かって頭を下げている。
和樹、やるじゃねーか。
俺のアドリブにもしっかり着いて来るとはな。
「では和樹よ、まずはあいつだ、あいつを我の元へと連れて参れ!」
俺はそう言って1人の快速戦隊マシンジャーに向かって指を差す。
そう、咲希に変な名前を付け、生意気にも俺を笑わそうとした奴、茉希の野郎だ。
俺を嵌めようとした礼はきっちりとさせて貰うぜ。
「え? ちょっと、私?」
茉希はアタフタしながら周りを見渡している。
フフフ、この公園には隠れる所も逃げる所も、文字通り何にも無いぞ。
なんたって破産? 寸前だからな。
「では行くのだ和樹よ、茉希を捕らえて参れ」
「ははー」
和樹が茉希の元へと走って行く。
「ちょ、きゃー! イヤー!」
本気で叫びながら茉希が走って逃げ出した。
「ぎゃはははー!」
俺はその光景を見ながら演技では無く、心から爆笑する。
他の子供達もちょっと笑っているみたいだ。
2人は暫く追い掛けっこをした後、離れた場所で茉希が観念したのか、遂に和樹に捕まった。
そのまま茉希が腕を引っ張られながら、俺の前へと連れて来られる。
茉希は俺の前で少し目を潤ませながら、
「お、お願い……、優しく……して」
と上目遣いで言って来た。
いや、だからそのセリフは子供の言うセリフじゃ無いから。
そして和樹に掴まれたままの茉希に、俺は本気のコチョコーチョを執行する。
その瞬間、上野公園に茉希の悲鳴が鳴り響いた。
「フ、フフフ、爆笑怪人ワラウンダー様、他の快速戦隊マシンジャー達にも是非私と同じ目に遭わせてやりましょう!」
俺に辱められた茉希は、どうやら自分が酷い目に遭ったのが悔しいらしく、他の子供達にも同じ様にしろと要求して来た。
その瞳は真剣そのものであった。
ちょっと怖い奴だな、茉希は。
「あ、ああ、そうだな、よし、我が下僕どもよ、他の奴等も我の元へと連れて参れ!」
「「ははー」」
和樹と茉希が2人掛かりで他の子供を追い掛けて行く。
「ちょっと、雄太お兄ちゃん、このままでいいの?」
下僕の2人が走って行った後、俺に捕まっている咲希が話し掛けて来た。
「ああ、何も問題ない。そんな事よりお前も今のうちに撮っておけ」
と砂の城に視線を向ける。
「撮ってって……ま、まさか雄太お兄ちゃん」
「ああ、後で面白い事になるぞ」
咲希との会話の後、次々と子供達が俺の元へと連れて来られ、1人1人にコチョコーチョを執行して行く。
恋都だけは最後までコチョコーチョに対して、
「……邪気眼使い、に、こんな、モノは効かぬ……」
と抵抗を見せたのだが、更にコチョコーチョを執行してやると、
「うぎゃぎゃー、ごめん、ごめんなさい、ウププ、き、効いてます、ホントは凄く効いてます! なのでもう止めてー! きゃははははごめんなさーい!」
遂に俺の手に落ちた。
こうして杏子以外の子供が全員俺の下僕へと落ちた所で、快速戦隊マシンジャーごっこは閉幕した。
杏子はまだ小さいので勘弁してやったのだが、何やら杏子もやって欲しかったみたいなので、少しだけコチョッとした後肩車をしてやる。
「これで杏子も俺の下僕だ」
「うん、杏子も雄太兄ちゃんのげぼく……」
少し嬉しそうだった。
下僕の意味わかっていないのだろうな。
「ちょっと雄太兄ちゃん、こんなの快速戦隊マシンジャーじゃ無いよー」
雅弘がちょっと不満そうな顔をしながらこっちに寄って来た。
「まぁそう言うなって、雅弘も楽しかっただろ?」
「そ、そうだけどさ」
「遊べるのは今日だけじゃ無いんだ、いつでも一緒に遊んでやるからな」
「え? ホントに?」
雅弘は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「本当だ、いつでもこの公園で遊ぼうな」
「うん、約束だよ!」
雅弘と約束を交わした後、杏子を肩車から降ろし、雅弘と一緒に他の子供達の所へ行くように背中を押してやる。
少し離れた所で子供達6人による、快速戦隊マシンジャーごっこの反省会が始まった様だ。
「それで雄太お兄ちゃん、そろそろ説明してくれるよね?」
そこへ咲希が俺の元へと近寄って来る。
「ああ、そうだな。何処から話せばいいかわからんが……」
砂の城に置いてあった携帯を回収してから、咲希に上野公園の説明をする事にした。
どこまで信じてくれるかわからないが。
……
「……ふーん、何となくわかったわ」
「そ、そうか?」
よくこんな馬鹿げた語、理解出来たな。
「一番最初、この公園に来た時に不思議に思ったもん、あれ、こんな所に公園なんてあったかしらって」
「ああ、俺も最初そこからおかしいと思ったからな」
「それで雄太お兄ちゃんの話を聞きながらこの公園を見てると、本当なんだろうなーって。それに雄太お兄ちゃん、強引だし、ちょっと馬鹿だけど嘘だけは絶対に付かないし」
「『希望園ルール その2』があるからな、って誰が馬鹿なんだよ」
そう言って突っ込みながら咲希のオデコにデコピンしてやった。
「ちょ、痛ーい、何すんのよ」
「人の事馬鹿とか言うからだ」
「もう、それで希望園には帰って来るんでしょ?」
「……いや、暫く俺はここで生活するよ」
「え、どうして……」
「伊藤さんと約束したからな」
「……世界一ってヤツ?」
咲希は少し言い辛そうに聞いて来た。
「……何だ知ってたのか」
俺は大盛り上がりで反省会を開いている子供達を見ながら、ため息交じりで答える。
「盛大な啖呵を切って出て行ったんだ、やっぱり帰り辛いしな」
「でも伊藤さんはもう……」
「ああ、知ってる。去年だったよな?」
「うん」
その後咲希と2人で、邪気眼の秘密を熱く杏子に語る恋都を、遠くから暫く眺めていた。
「そういや咲希は何でまだ希望園にいるんだ?」
もう咲希なら希望園にいなくても、外で生活出来るだろうと思ったのだが、
「私はこのまま希望園で皆の保護者になる事にしたから」
と複雑な表情を浮かべながら咲希が答えた。
色々と考える事があったんだろうな。
「今のあの子達には私しか居ないし……」
「……そうか」
と少し重苦しい空気が2人を包み込み始めたところで咲希が口を開く。
「よし、決めた、私も雄太お兄ちゃんに協力するよ」
「は? 協力ってお前」
「だってこの公園に沢山人を集めなければいけないんでしょ?」
「まぁその通りだけれど」
「それを私も手伝うって言っているのよ」
「ほ、本当か? それは助かる! よし、なら俺も咲希の事、希望園の事で困った事があれば手伝うぞ」
「ホント? ありがとう、雄太お兄ちゃん!」
咲希は嬉しそうに俺の手を握って来た。
「ご、ごめんなさい、嬉しくってつい……」
「いや、いいけれど、それより早速作戦の第1弾を決行しようと思うからみんなの所に行こう」
そう言って咲希の手を取り子供達の所へと向かう。
「ちょ、雄太お兄ちゃん」
そのまま咲希を引き連れて歩いて行く。
咲希の手を引っ張って歩くのは何年ぶりになるのか。
何だか昔に戻ったみたいだな。
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