第6話 俺、全力で快速戦隊マシンジャーごっこをする
「よし、何と無くわかった。では配役を決めるぞ、まずはレッド、主役は雅弘だ」
「やった、僕頑張るよ!」
雅弘がガッツポーズを決める。
「次はブルー、ブルーは和樹、お前だ」
「オレがブルーかよ、地味なヤツだよなー」
と言った和樹は小学校高学年で茉希と同い年だった筈。
ガッチリとした体格で短く刈り込んだ髪型、ヤンチャ盛りといった感じの少年だ。
どちらかと言うと少年というより悪ガキっぽいのだが、意外と年下の子供達の面倒見が良かった記憶がある。
「そしてブラックは颯太だ」
「おう、わかったぜ!」
と何やらポーズを決めながら返事をした颯太。
恐らく快速戦隊マシンジャーのポーズなのだろう。
しかし真面目な奴だ、全力でと言ったら本当に全力でやりだした。
颯太は確か今ではもう中学生だった筈。
子供達の中で1番のお兄さんだ。
中学生になって部活動でも始めたのか、イガグリ頭で何処か体育会系の雰囲気を出しているスポーツ少年だ。
昔から真面目で素直な少年だった記憶がある。
身長も咲希と変わらないくらいまで伸びて来ている。
「次、イエローは恋都だ」
「フフフ、わかりましたわ雄太兄様」
と独特な雰囲気を持つ少女恋都、こいつは昔から少し変わっている。
茉希や和樹の1歳下なのだが、兎に角変な物に興味を持つ。
俺が昔、最後に見た時には、大根に包帯を巻いて抱えていたのを今でもハッキリと覚えている。
何故そんな事をしているのか聞くと、
「こうしておかないと内なる邪気が解放してしまうのよ」
と訳のわからない事を言っていた。
今は背中にぬいぐるみを2体背負っている。
赤ちゃんを背負う、ベビーキャリーに入れてられて背負っている内の1体は、杏子が持っていたクマのぬいぐるみだ。
恐らく咲希から預かったのだろう。
しかしもう一体がどう説明していいのやら……
多分イヌのぬいぐるみなのだが、顔が3つ縫い付けられている。
しかも、真ん中がイヌで、両サイドがクマとウサギだ。
体の部分は見えないのだが、下から龍の尻尾みたいな物がはみ出しているので、何かと聞かれても答えにくい。
しかもそのベビーキャリーにはデカデカと『じぶりーる専用』とマジックで書かれている。
そんな恋都も普通にしていればツインテールの似合う美少女の部類に入るのだが、装備が異常過ぎて完全に損している。
片手に包帯を巻いたり鎖を巻いたり……
一体何処に向かっているのやら。
取りあえず目に良くないから、前髪で左眼を隠すのは止めろよ。
「最後、ピンクは茉希だ」
「わかりましたわ、雄太兄さん」
そう言いながら高貴な女性がするみたいに、スカートの裾を摘まみ、ひざを軽く折っておじぎをする茉希。
この少女も恋都とは違った意味で変わっているのだ。
茉希は実は超天才児で、所謂IQという奴は測定不能らしい。
そんな事あるのか?
その天才少女が何故希望園にやって来たのかは不明である。
本人曰く、
「希望園はとても落ち着くのですよ」
だそうだ。
因みにこのセリフを言ったのは昔で、茉希がまだ小学校に行く前の話だ。
当時は長い髪に切り揃えられた前髪と、少し切れ長な目から日本人形みたいな見た目だったのだが、とても穏やかな性格の少女だった記憶がある。
現在の見た目も、当時をそのまま成長させた感じの整った顔立ちなのだが、何処から調達して来たのかはわからないが高校生が着るような制服を着用している。
「あ、あのー、雄太お兄ちゃん? 私の役は……?」
と咲希が何やら心配そうに聞いて来た。
後残っているのは怪人役しか無いと思っているのだろう。
フフ、甘いな。
「咲希の役は……怪人に捕まるヒロインの役だ」
「私が、ヒ、ヒロイン!」
と顔を赤らめた咲希が俯いてボソボソ何やら呟き始めた。
「怪人に捕まる少々間抜けな所が咲希お姉さんにピッタリですよ」
と茉希が咲希に言っているみたいだが、咲希の耳には届いていない様子だ。
何気に茉希は毒舌だな……
「あー、そして杏子は助けを求める可憐な少女役だ、出来るな? 杏子」
「……う、うん。杏子頑張る」
そう言った杏子の表情には少し緊張の色が見える。
「よし皆、準備はいいな? 快速戦隊マシンジャーが今から始まったと思って全力で演技するんだぞ、わかったか?」
「でも、雄太お兄ちゃんは何の役をするの?」
咲希がどうやら復活したみたいで、俺の役割を聞いて来た。
「俺は序盤は監督で、後半は怪人役だ」
「フフフ、何やら悪い事を考えているみたいで楽しめそうですわ」
と茉希がなかなか鋭い所を突いて来る。
流石茉希だな、わかっているじゃ無いか。
「皆に言っておくぞ、今回の快速戦隊マシンジャーごっこで演技に手を抜いた奴には罰ゲームが待っている」
「「「えー、罰ゲーム!」」」
と文句を言って来たのは男3人だ。
何故か女性陣からは何も聞こえて来なかった。
「なので、全力で演技する事。上手い下手は関係無いからな。勿論俺も全力で行く、因みに俺が演じる怪人の役名は『爆笑怪人ワラウンダー』だ」
「ぶは、何だよ雄太兄ちゃんその怪人の名前はー!」
雅弘と和樹はツボに嵌ったのかケタケタと笑っている。
「そして今回のストーリーは完全アドリブだ、皆、取り残されずに最後まで着いて来いよ!」
「「「「「「「おおー!」」」」」」」
と全員の掛け声が響く。
ただのごっこ遊びが何やら緊張感に包まれた、開演前の舞台袖の雰囲気みたいになった。
ゴクリと誰かの喉が鳴った所で快速戦隊マシンジャーごっこがスタートする。
俺はズボンのポケットに入っているの携帯を、砂のお城に立て掛ける。
公園には他に置く場所が無いからな。
「よし、まずは杏子が雅弘に助けを求めるシーンからだ、ここからはノンストップだぞ? 準備はいいか、杏子?」
「う、うん、任せて監督!」
杏子は既に役作りが完了しているようだ。
「では快速戦隊マシンジャーごっこ、スタート!」
と俺が監督っぽく宣言する、と同時に杏子が何を考えたのか自分自身にいきなりビンタをする。
「バシッ!」
皆一体何が起こったのかわからなかったのだが、杏子のクリクリの瞳に大粒の涙が溢れて来た所で皆が理解した。
「はぁ、はぁ、た、助けて! マシンジャーレッド!」
と杏子が雅弘の胸に飛び込む。
俺を含め、一同に戦慄が走った。
おいおい、1番小さな杏子が自分にビンタしてまでも全力で迫真の演技をする為に涙を流したりしたら、全員の演技のハードルが一気に上がってしまうじゃねーか。
「落ち着け少女よ、一体何があったのだ?」
雅弘もなかなかの演技だ。
普段から快速戦隊マシンジャーを見ているのだろう、動きがビックリするくらいに不自然だ。
『落ち着け少女よ』の短いセリフの間に3回くらい頷いていたぞ。
「どうしたのよ? 何かあったの?」
と2人の脇に茉希が寄り添って話し掛ける。
茉希のヤツ、無難な所で入りやがったな。
「お、お姉ちゃんが、咲希お姉ちゃんが悪い怪人に捕まってしまったの」
「ええ! あのビューティープリンセス咲希姉さんが?」
と茉希がオーバーな振り付けを加えながら、笑いの要素を放り込んできやがった。
何だよビューティープリンセス咲希とかいうダサい呼び方は!
しかし笑えない、笑いたくても今はシリアスな場面、ここで笑ったら……と思いながら周りの奴らを見てみると、皆同じように口元をヒクヒクさせながら笑いを堪えているみたいだ。
茉希の野郎、本当に悪い奴だ。
「そ、それでビ、ビューティープリンセス咲希姉さんは一体何処に?」
雅弘は何とか持ち堪えたみたいで話を続けた。
「そ、それが大きな公園だという所まではわかるのだけれど……」
と杏子が泣き真似をしながら演技を続ける。
というか杏子、お前子役業界でトップになれるぞ、その演技……
「そういう事ならあたしに任せて!」
とここで恋都が入って来た。
「あたしのこの邪気眼なら全てを見通せる、今こそ本当のあたしを解放する時!」
そう言って降ろしていた前髪を右手で流すようにかき上げ、隠れていた左眼を披露する。
何か恋都だけ設定違うくね?
「この世の全ての理を見据える力、邪気眼開眼」
そう言って右手で前髪の左側を押さえたまま左眼を開ける恋都。
おおー! 左眼だけが黄色い! カ、カラコンか? 色々と仕込んでるんだな。
しかし偶然なのか役割と眼の色が一致したぞ?
「見付けた、距離5000! 公園に怪人と一緒に……く、力を使い過ぎた」
そう言って恋都はうずくまってしまい、前髪を元に戻し左眼を押さえている。
戦う前から力使い果たしてちゃ駄目だろーが。
と思っていると、
「ここで俺の出番だな、皆乗り込め!」
と颯太が何やら車の様な物を運転している演技で現れた。
どういう事だ? と思ったのだが快速戦隊マシンジャーを先程携帯で調べた時に、大体現場へは颯太のマシンで移動する、みたいな事が書いてあった気がする。
マシンにも名前があったと思うがそこまでは覚えていない。
その後、快速戦隊マシンジャーの5人と杏子を含めた6人がマシンに乗り込む演技を見せる。
おい、和樹はまだ一言も喋っていないぞ?
と思ったのだが、和樹が役割に決まった時に自分で地味なヤツと言っていたので、実際でもこういう役割なのだろう……。
マシンに乗り込むという事はそろそろ俺の出番か?
俺は白の薄長袖のシャツを脱いで、上はインナーシャツ1枚だけの姿となり、脱いだシャツを両目の部分だけを塞がない様に残して顔にグルグルと巻き付ける。
隣にいた咲希は俺の役作りにビビったのか、
「ちょ、雄太お兄ちゃん、そこまで……」
と小声で言って来たのだが、
「雄太お兄ちゃん? 誰だそれは? 我は『爆笑怪人ワラウンダー』様だ」
と言いながら、少しだけ乱暴に咲希を俺の元へと抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと、ままま待って、よ、雄太お兄ちゃん……」
と顔を真っ赤にしながらかなり狼狽えている咲希。
しかし、そんな咲希を無視して俺はセリフを続ける。
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