第5話 俺、子供達と公園で遊ぶ
<……えぐっ、……えぐっ……>
ナディは未だに泣き続けている。
どうやらこの公園にこれだけの人が来た事が余程嬉しかったのだろう。
そりゃ今まで1200年間何をやっても1人も来なかったのに、突然俺を含めて8人も公園に来たのだから、ナディの気持ちもわからなくは無いが。
しかしまだまだこれからだ。
今はまだ人が来ただけ、この後笑って貰わなければならないのだ。
しかも咲希達にも色々話をしなければ……俺が強引に連れて来ただけなのだからな。
と考えている最中も、
「きゃははー、もっと、もっと走ってー!」
と肩車をしている女の子は俺に走れと要求している。
……わ、笑っているよな? これ笑っているよな? 頭の後ろだから声しかわからんが。
<おい、ナディ! これ笑っているよな? SP、SPはどうなっている?>
<……えーーーん!>
だ、駄目だ。
全然復活していない……くそ、役立たずが。
ナディが役に立たない以上、俺が何とかするしか無い!
「よ、よーし、あの砂場まで行くぞー! お前らもこっちに来いよー?」
と公園の入口付近で固まっている咲希達にも砂場まで来る様に促す。
「ちょ、雄太お兄ちゃん待ってー」
と咲希が小走りで追い掛けて来る後ろを、他の子供達もゆっくりと着いて来てくれているみたいだ。
俺は女の子を肩車しながら走っているのだが、途中で女の子を喜ばせる為にグルグルと回転してみせたり、
「よーし、ジャンプするぞ! 舌を噛むなよー?」
と言ってからピョンピョンとジャンプしてみた。
女の子は落ちない様に必死に俺の頭にしがみ付きながらも、
「きゃははは、高い、高ーい」
と大喜びだ。
何だかホストクラブで客を接待しているみたいな気分になって来たのだが、こちとら生活と公園が懸かっているんだ、こんな事で笑って貰えるのならばお安い御用だ! 何だってするぜ!
そして女の子を喜ばせたまま砂場に到着する。
「うわー、すごーい!」
と頭の後ろの、肩車したままの女の子が声を上げる。
そう、目の前には女の子よりも背丈のある、俺が建造した砂のお城が依然聳え立っている。
「……なぁ、お前の名前は?」
肩車したままの女の子に聞いてみる。
「……あ、杏子」
少し小さな声で呟く様に女の子、杏子は答えた。
俺は前屈みになって、杏子を肩車から降ろした。
その杏子は、小学校に行っているかいないかくらいの年齢で、藍色のワンピースを着ている。
クリクリの瞳の可愛らしい子供なのだが、あまり外で遊ぶ子では無いのか、とても色白で少し俯いていてオドオドしている印象がある。
肩に掛からないくらいの長さの髪を、右側上部だけチョンマゲの様にサイドポニーにしている。
若干頬の赤い、可憐な少女だ。
「杏子か、これからもヨロシクな、杏子」
と言いながら杏子の目の前に手を伸ばす。
「……また引っ張るの?」
「いいや、今度はちゃんとした握手だ」
先程は俺が杏子の腕を引っ張って肩車をしたので少し警戒した様子だったが、
「……うん、よろしく、雄太兄ちゃん」
と言いながら杏子が握手に応じてくれた。
のだが、そこをまた俺は逃さず引き寄せる。
「あわわわ」
と言いながらフラフラになる杏子の両脇を抱えて持ち上げ、今度は砂の城までそのまま歩いて行き、砂の城の目の前で降ろす。
杏子は少しビックリしたみたいだったが、目の前の芸術品をクリクリの瞳をキラキラさせながら食い入る様に見始めた。
なので、
「そのお城は杏子へプレゼントしよう!」
と杏子に言うと、キラキラした瞳を更に輝かせ、
「本当に? 本当にこれ杏子が貰ってもいいの?」
とすぐ後ろにいる俺の方へと振り返り聞いて来たので、
「ああ、でも砂で作ってあるからすぐに壊れるけれど、いつでも杏子の為にお城以外の物も作ってやるからな」
と杏子の頭をポンポンと叩く様に撫でながら言うと、
「本当に? わーい、ありがとー!」
と満面の笑みを浮かべながら杏子が俺の足に抱き付いて来た。
そのままチョンマゲを避ける様に杏子の頭を撫でていると、やっと後続隊が砂場に到着した。
公園の入口から砂場までかなりの距離があるからなぁ……
先頭の咲希は少し肩で息をしながら近付いて来て、
「ゆ、雄太お兄ちゃん、み、皆を置いて行かな……」
と、息を切らしながら話し始めたのだが、砂場の建造物を見付けた途端に無口になった。
その咲希を他の子供達が追い越し、近付いて来るのだが、皆が砂場にあるお城に視線を奪われ、凄いだの綺麗だの口々に言葉を漏らしている。
「……フフ、相変わらず器用ね、雄太お兄ちゃん」
咲希だけは笑みを浮かべながら、懐かしむ様子で皆とは違う感想を述べた。
そう、咲希には昔から何度も色々な物を作ってやっていた。
なんたって俺の作品のファン第1号だからな。
「それで雄太お兄ちゃん、もしかしてこれを見せたいから皆をこうして呼んだの?」
「あー、い、いやー、それもあるんだけれどー」
「……けれど?」
咲希が何か言いたそうに聞いて来る。
皆の注目も俺の返事に集まっているみたいで、全員が俺の方を見ている。
……よし、ここは直球勝負だ!
「遊ぼう!」
「へ?」
「皆で遊ぼう!」
……
「「「「「「「……はぁ?」」」」」」」
全員が何言ってんだ? という表情をしながら声を揃えた。
そりゃそうだ。
強引に連れて来られて何かあると思いきや、皆で遊ぼうだもんな。
俺でもはぁ? ってなるよ。
だがしかし、ここで引き下がる訳には行かない。
この無茶な展開を強行突破してやる。
強引な所も俺の取柄だからな。
「いや、俺も久しぶりにこっちに帰って来たからよ、皆と親睦を深めたいと思って、思い切って遊べるここに呼んだ訳よ、わかる?」
「「「「「「「……」」」」」」」
わからねーよな。
俺でも自分で言っててさっぱり意味がわからん……
「……咲希はわかるよな?」
「ええー! わた、私に聞かれても、あの、その……うん、まぁ親睦を深めたいと言うのは何と無くはわかるかな……」
咲希は俺の無茶振りにしどろもどろになりながらも、取りあえず理解してくれたみたいだ。
しかしよくこんな適当な理由で理解してくれたな……
「……よ、よし、じゃあ皆で遊ぼう、遊びの内容は……そ、そうだな、お前だ雅弘、お前が決めろ」
と男子で最年少の雅弘に遊びの内容を決めてくれと振る。
雅弘は現在小学校の低学年のちびっ子だ。
俺の事はギリギリ覚えているみたいだが、俺の方は歳が離れている事もあり、あまり記憶が無い。
かなり大人しい子供だったイメージはあるのだが、今もあまり変わっていない様子だ。
坊ちゃん刈りにメガネ姿の風貌から、某有名探偵を連想させる。
「そ、そんな急に言われても、決められないよ……」
「大丈夫だ、雅弘。どんな遊びでも俺達は全力で遊ぶぞ! なあ、皆?」
少しオーバーリアクション気味に動作を付けながら皆の方へ視線を送る。
……
誰もウンともスンとも返事をしてくれないので、乗って来てくれ! もしくは助けてくれ! という視線とウインクを咲希へと飛ばす。
「そ、そうよマー君、私達はぜ、全力で遊ぶのよ」
恥ずかしいのか照れているのか、咲希は少し顔を赤く染めながら全身をオーバーに動かしながら答えてくれた。
「……ほ、本当に何でもいいの?」
「ああ、勿論だ、何でもいいぞ! 何なら今から皆で誓ってもいい、今から雅弘が言う遊びを皆で全力で遊ぶと。なぁ皆!」
「「「「「「う、うん」」」」」」
皆がバラバラながらも一応は頷いてくれた。
よし、いいぞ。
ここまでは作戦通りだ。
かなり強引な手ではあるが遊びの内容を雅弘に決めさせたのには理由があるのだ。
そして全力を出すと誓いを立てたのにもな。
この年頃の遊びと言えば大抵アレだろう、何となく想像が付く。
後はその遊びに作戦を当てはめれば……よし、何とかなりそうだ!
「じゃ、じゃあ、快速戦隊マシンジャーごっこがいい」
そうそう、この年頃の男の子と言えば快速戦隊マシンジャーごっこだよな……ってなんじゃそりゃ? 快速戦隊マシンジャー? 知らねーよそんなモン! 普通このくらいの年頃の男の子と言えばかくれんぼとか鬼ごっことかじゃねーのかよ! 何だよ快速戦隊マシンジャーって。
「えー、そんなの嫌だよ」
と颯太が言う。
俺も嫌だよ、この年で戦隊モノごっこ遊びとは……。
だが、
「駄目だ颯太、さっき誓ったよな……」
「うう、そ、そうだけど」
と狼狽える颯太。
「颯太、『希望園ルール その2』は何だ? 言ってみろ……」
「う゛、ま、まさかここで……『希望園ルール その2 嘘は絶対に付かない』」
「だよな。なので今から皆で全力で、快速戦隊マシンジャーごっこをするぞ、いいな?」
咲希を含め、皆が渋々ながらもコクコクと頷いた。
「よし、では配役を決める前に……快速戦隊マシンジャーを知らない人は挙手!」
俺は全力でズバッと手を上げる。
……手が上がったのは俺だけだった。
皆、普通に知ってたんだな。
「皆チョットだけ待ってくれ」
と言いながらズボンのポケットから携帯を取り出しネットで快速戦隊マシンジャーを調べる。
えーっと、どれどれ、……普通の戦隊モノだな。
赤、青、黒、黄、桃の5人組で、イエローとピンクが女性と。
超必殺技はマシンジャーキャノンだというのはどうでもいいな。
よし、コレならいけるぞ!
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