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第4話 俺、育った場所に帰る

 

 


 「なぁ、この部屋って誰でも入れるのか?」


 「まさか、この部屋に入れるのは神様と公園の管理者だけですよ。なので雄太さんが部屋に来る前に管理者の仮登録だけしておいたのですよ」


 「か、管理者?」


 「はい、地球には様々な公園がありますよね?」


 「ああ、そうだな」


 「その中の有名な公園には必ず管理者がいるのですよ」


 「そうなのか?」


 「はい、先程の雄太さんが砂場で造られたお城のある場所にも、神様と管理者がいます」


 「何だとー! ど、どんな奴なんだ一体?」


 「そういうのは詳しくは教えれません、秘密です」


 ま、まぁ夢が壊れるもんな……。

 という事はあそこもSPを使って運営してるのか? ……はは、この事は深く考えちゃ駄目だな、うん。


 「雄太さんの場合は仮登録ですので、いつでも解消出来ます。変な事したらすぐにでも追い出しますから」


 「し、しねーよ! ……多分。いやいや、しませんしません!」


 しないから携帯電話置いて貰っていいかな? 睨まないで貰っていいかな?


 「と、とにかく俺は今から外に出て人を連れて来るから、ナディは俺の生活スペースを作っておいてくれ。布団が無いならコタツで寝てもいいけれど、出来るなら布団で寝たいから頼む」


 「……わかりました、用意しておきます」


 「じゃあちょっと行ってくる。荷物も玄関に置いたままにしておくから」


 リビングを出て、玄関を開けようと思ったのだが扉が開かない。

 取っ手の部分をガチャガチャ回そうとするのだが、動きそうな気配が無い。

 鍵が掛かっているとかそういう事では無さそうだ。


 「あのーナディさん、玄関が開かないんですが?」


 「そ、そうですね、言い忘れていましたわ。雄太さんがそちらの玄関から公園に出る場合は、扉に向かって『公園に転送』と叫ばないと出れないのでした」


 て、転送か……ん? 公園に? ……まぁいいか。


 「そ、そういう事は先に言ってくれよな……、『公園に転送』」


 叫んだ瞬間に目の前が真っ暗になった。

 この暗さは公園にあった倉庫の中だな。

 暗闇の中で手を伸ばし、目の前の扉をスライドさせると先程のだだっ広い公園・・に出た。

 この状況だけを見ると、狐にでも化かされた様な気分になるのだが、


 「雄太さん、どうされるつもりかはわかりませんが、時間が無いので急いで下さいね」


 というナディの声が普通に聞こえて来たので、やっぱり夢でも狐に化かされた訳でも無かったのだと気持ちを切り替える。


 「因みに私の声は公園の入口のすぐ近くまでしか届きませんのでお忘れ無く、では急いで行ってらっしゃーい」


 行ってらっしゃーいとか呑気に言いやがって。

 仕方が無い、急いで帰る・・か。

 俺はそのまま公園を小走りで後にし、元々の目的地へと向かう。


 そして公園を出てからおおよそ5分。


 「……帰って来てしまったな」


 俺の目の前には、とある建物がある。

 ここは俺の育った場所で、建物入口部分の柱には『児童養護施設 希望園』と書かれている。

 15年程お世話になった場所なのだが、帰り辛かったのには訳があるのだが……と考えていると、


 「ゆ、雄太お兄ちゃん……?」


 俺は希望園の入口の前に立っていたのだが、後ろから声を掛けられ振り返ってみる。


 「……さ、咲希さきなのか?」


 振り返った俺の目の前には年頃の女性が1人立っていた。

 両手に大きな買い物袋を2つぶら下げ、重そうに持っているこの女性は恐らく咲希だ。

 昔の面影が若干残ってはいるものの、すっかりと大人の女へと変わってしまっている。

 背もすっかりと伸び、俺の肩まであるか無いかくらいか。

 しかし髪型は昔のショートカットのままであったので、咲希だとすぐに気付いた。

 薄手のロングスカートにカーディガン姿なのだが、どうやらあそこ・・・は昔のまま、あまり成長していないみたいだ。

 あそこ・・・が何処なのかは言わない。

 咲希に怒られるの嫌だし。

 最後に別れたのは何時いつだったか……。


 「……もう、一体今まで何処をほっつき歩いていたの……よ」


 咲希の瞳から大粒の涙が溢れ出している。

 しかし両手が塞がっている為なのか、涙を拭えないでいる様子だったので、


 「と、取りあえずそれ、2つとも持つわ」


 買い物袋2つを、奪い取る様に受け取る。


 「……もう、持つわ、じゃ無いわよ、……ばか」


 咲希が泣きながら俺の胸に飛び込んで来た。

 だから帰って来たく無かったんだよな……。

 ……とそうだ、今はあれこれ考えている時間が無いんだった。


 「さ、咲希、スマン! 今は色々事情があって話し込んでいる時間が無いんだ。ガキ共はまだいるか?」


 胸の中で泣いている咲希を、買い物袋2つを持ったまま引っ剥がす。


 「ヘグッ? ち゛ょ、そ゛れどういう事? グスッ、まさか、雄太お兄ちゃん何かやらかしたの?」


 咲希は泣くのを止め、深刻な顔付きへと変えながら聞いて来た。


 「おい、人を犯罪者みたいに言うんじゃ無い! 何もして無いが兎に角今は急いでいるんだ、頼むからガキ共を呼んでくれ」


 「……もう、わかったわよ。後で全部ちゃーんと説明し・て・よ・ね・?」


 そう言った咲希の視線は俺の心を抉る程鋭いモノだった。

 語尾の迫力も怖えーよ。


 「おーい、皆ー! 雄太お兄ちゃんが帰って来たわよー」


 咲希が建物の玄関の扉を開け大声で叫ぶ。

 すると建物の奥の方からワラワラドタドタと子供達が出て来た。


 「「「「「「わー! 本当だー! 雄太兄ちゃんだー!」」」」」」


 出て来た子供は全部で6人。

 大きいのからちっこいのまで、全員何となく覚え……いや、クマのぬいぐるみを抱いている、1番小さい女の子は誰だかわからないな。

 他の5人も最後に見た時より随分と大きくなって……といかんいかん! こんな所でグズグズしている場合では無い。


 「スマン咲希、今から皆で出掛けるから、この袋の荷物を今すぐ冷蔵庫に仕舞って来てくれ!」


 そう言って先程奪い取った荷物を咲希へと押し付ける様に渡す。


 「ちょ、ちょっと、一体どうした……」


 「いいから早く! そして冷蔵庫に仕舞い終わったら咲希もすぐに戻って来てくれ」


 「え? でも夕飯の支度が……」


 「いいからダッシュだ! 急げー!」


 急げー! と言いつつ咲希の背中を強引にグイグイと押す。


 「もう、わかったわよ。じゃあちょっと待ってて」


 咲希は俺の急いでいる様子を理解してくれたのか、駆け足で建物の奥へと荷物を持って消えて行った。


 「よし、お前らも外に出る支度をしろ。今から近所に出掛けるぞ!」


 子供達にも用意を促す。


 「えー、でも今から宿題やろうと……」


 1番大きな男の子、颯太そうたが話し出したのだが、


 「んなモン後だ後、さっさと準備しろー!」


 颯太の両肩を持ち、くるりと半回転させて後ろを向かせ、早く行け! と尻をバシバシ叩いてやる。


 「痛てて、わ、わかったよー、雄太兄ちゃん、でも近所なら俺このままでいいよ?」


 颯太がそう言うと、他の子達も今のままでいいと言うので、皆に靴を履く様に言い、すぐに出発する準備をしておく。

 後は咲希が戻って来るのを待つだけだ。


 …… ……


 ……


 遅い! 冷蔵庫に食材を詰め込むだけで、一体どれだけ時間が掛かっているんだ?


 ……更に5分程経ってやっと、


 「お、お待たせー」


 少し照れながら咲希が戻って来た。


 「……おい、なんで化粧して来ているんだ?」


 咲希の顔にはバッチリお出かけ用メイクが施されていた。

 さっきまでスッピンだったよな?


 「だ、だって雄太お兄ちゃんが今から出掛けるって言うから……その……」


 モジモジしている咲希を見ていると、


 「女の準備には時間が掛かる物なのよ、雄太兄さん」


 と咲希の隣で、咲希の襟元を直している1番大きい女の子、茉希まきが呟いた。

 いや、そりゃ女性が身支度に時間が掛かるのは知っているけれど、急いでくれって言っていたのに何故今メイクをしなければならないんだ? しかし、今のは子供のセリフじゃ無いよな……。


 「そ、そうか、まぁいい、兎に角行くぞー!」


 そう言って咲希の手を取りグイグイ引っ張りながら走り出す。


 「ええ! ちょ、待って……」


 咲希が何か言っているみたいで後ろを振り返ってみると、クマのぬいぐるみを抱いている1番小さい女の子が、状況に着いて来れて無かったみたいだ。

 なので、咲希を掴んでいた手を1度放し、その小さな女の子の所まで行き、


 「初めましてだな、雄太だ。宜しく」


 と軽く挨拶をしながら手を伸ばす。


 「……うん」


 小声で呟いた小さな女の子はゆっくりと手を伸ばし、握手に応えてくれた。

 俺はそこを逃さずそのまま素早く女の子を引き寄せて両手で女の子を持ち上げ、


 「よーし、行くぞー!」


 よいしょ! と女の子を肩車してやる。

 クマのぬいぐるみを落とすといけないので咲希に渡し、


 「皆、着いて来ーい!」


 公園までダッシュする。

 最初肩車をされた女の子は怖がっていた様子で俺の頭にしがみ付いていたのだが、すぐに慣れたみたいで、


 「わー! 早ーい!」


 頭の後ろから喜ぶ声が聞こえて来た。

 後の皆もブツクサ言いつつも着いて来てくれた。

 いよいよ公園が近くなって来た所で、


 <……太さん>


 ん? 何だ?


 <雄太さん雄太さん、聞こえていても返事はせずにそのままで、そのままで聞いていて下さい、おお落ち着いて下さい>


 ナディか? 何だか声の聞こえ方が若干最初と違うような……、と考えていると、


 <は、はい、その通りです。い、今は雄太さんの脳に直接会話を届けておりますですはい>


 と答えるナディの声はかなり上擦っている。

 後、お前落ち着け。


 <俺の声も頭で思うだけで届くのか?>


 <はい、こうやってやり取りしないと、ままま周りにいる人達がへへへ変に変に変に思ってしまうでしょ?>


 <まぁ、確かにな>


 お前が1番変だけれどな。

 俺も周りに人が居る状況で話し掛け辛いしな。

 と脳内で会話している間に、いよいよ上野かみの公園と書かれた丸太のオブジェを通過して公園の中に入った。

 俺と咲希と子供達6人が公園の中にいるぞ。


 <どうだナディ! ちゃんと人を連れて来たぞ? もうお巡りさんには通報させないぞ!>


 <…… ……>


 <……おい>


 <…… ……>


 <おい、何とか言えよ! また1人で喋っているみたいって、さ、さてはお前、また1人で肉まん食ってんじゃねーだろーな?>


 <……グズッ、ち゛、ちがいばすよ……>


 <……は、はぁ、お前何泣いて……>


 <な゛、な゛いでなんでいないでずよー、だっでいばばでだでもぎだごどがだがっだごどごうえんでぃ、えーーーん! ひどがぎだどでずよ、えーーーん!>


 <あー、全っ然何言ってるか分からん! 泣くか喋るかどっちかにしろ!>


 <……えーーーん!>



 どうやらナディは泣く方を選択したみたいだ。


 

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