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第3話 俺、神様の切実な事情を聴く



 「ブランコを手放したってどういう事だよ?」


 「そのままの意味ですよ、公園にあったブランコを手放して、ボーちゃんにSPに交換して貰ったのですよ」


 「そ、そんな事も出来るのか」


 「勿論その逆でボーちゃんに貯めたSPと公園の遊具を交換して貰う事も出来ますよ」


 成程、そういう事か。

 いや、ちょっと待てよ、


 「も、もしかして今の公園に土地しか無いって事は、元々この公園には遊具が沢山あって、それを全部SPに交換してしまったとか……」


 「……はい」


 「で、手元にはSPは残って無いと」


 コクコクとナディは頷く。


 「……ち、超赤字経営?」


 更にコクコクとナディは頷く。


 「そ、そうか」


 あまりに状況が酷過ぎて空気が重い……

 喉が乾いてきたので水を貰おうと思ったのだが、ここで気が付いた。


 「……水道止められてる?」


 先程蛇口から水が出なかったからもしかしてと思ったのだが……。


 「……電気ももうすぐ止まります」


 「「……」」


 ち、沈黙が耐えられない。


 「そ、そうか、それで1日何人くらいこの公園に来るんだ? 5人? いや多いな、2、3人か?」


 「……」


 「えっと……あれか、1か月で……10人とか?」


 「……ゼロです」


 「へ、は? ゼロってどういう事だよ」


 「今までこの公園に人、……来た事が無いのです」


 「人が来た事が無いって……公園が出来てから今まで1人も?」


 「……正確に言うと私がこの公園の神になってからです」


 「それって、……疫病神なんじゃねーの、お前」


 「違いますよ、失礼な! 由緒ある家系の生まれの神ですよ」


 そう言ってナディは少し頬を膨らませそっぽを向いた。


 「そうか、じゃあ実力が無いんじゃねーの?」


 「ガーン、は、ハッキリ言いますわね……」


 「だってそうだろ? ナディがこの公園の神になってから1人も来ないのなら……ちょっと聞きたいんだけど、この公園一体いつから此処にあるんだ? 俺昔この近所に住んでたけどこの公園の事全く知らなかったぞ?」


 そうだよ、おかしいだろ。

 何で公園の存在すら知らないんだ? 今日はたまたま考え事していて、帰り辛くてウロウロしながら帰っていたが、こんな道今まで通った記憶すらねーぞ? 意外と最近出来た公園なのか?


 「公園自体は随分と昔からここにありますよ。私がここの公園の神になったのは今から約1200年程前になります」


 「ブーーー! せ、1200年? 嘘つけ、お前今何歳なんだよ!」


 「まぁ、女性に年齢を聞くとか失礼ですわよ」


 1200歳以上って超ババアじゃねーか。

 しかし何となくわかって来たぞ。


 「ちょっと状況を整理するぞ、つまりナディは1200年ここで公園の神をしているが、その間この公園に人が1人も来た事が無く、水道が止められていたり、冷蔵庫が空っぽな事を考えると、生活費も恐らくSPから捻出されている。そして公園には1人も来ないので、SPが無いから公園の遊具をSPに交換しながら1200年ここで神様やってる。これで間違い無いな?」


 「はい、正解ですー」


 「正解ですー、じゃねーよ! 1200年間1人も来ないとか異常だろーが。山奥にあるならまだしも、こんな街中に存在してて誰も来ないとか異常過ぎるだろ」


 「そんな事言われても実際誰も来ないのですから仕方無いじゃないですか」


 「……あれ、今気付いたんだけど、俺もしかしてこの公園の初めてのお客さん?」


 今まで暗い表情をしていたナディの顔が一気に笑顔へと変わる。


 「はい、雄太さんがこの公園で遊んでくれた初めてのお客さんです。今日は来てくれて本当に有り難う御座いました。また、来てくれますか……?」


 瞳をウルウルさせながら上目遣いで俺の方を見つめているナディ……。


 「……いきなりキャバクラの本を実践するんじゃねーよ」


 「あ、やっぱりわかっちゃいましたー?」


 ……こいつは今の状況をわかっているのだろうか。


 「でも今日雄太さんが来てくれたのは本当に嬉しかったですよ。1200年間待ちに待ったお客さんでしたから……」


 照れ臭そうに言ったナディの笑顔は今まで見たどの笑顔よりも眩しく見えた。 

 ……可愛いじゃねーかよ。


 「可愛いんだから外に出りゃ、一発で客なんか呼べると思うんだが?」


 「ふ、ふぇ? か、可愛いって、そ、そんなこと言っても私からは何にも出て来ませんにょー」


 顔を真っ赤にしながら顔の前で両手をブルブル振っている……最後噛んだよな。

 何にも出て来ないのは知ってるよ。SP空っぽだもんな。


 「でも、私はこの部屋から出られ無いのです」


 「あ、そうなの?」


 それであの倉庫の扉は建付けが悪くなっていたのか。

 誰も来ないという事は開けた事が無かったんだろうな。


 「正確に言うとあの扉から出るにはボーちゃんに専用の着ぐるみをSPと交換して貰えればそれを着て出られるのですが、その着ぐるみは高くって今の私じゃ交換出来ません」


 「そ、そうか」


 食うのに必死なのに着ぐるみなんか交換してられないってとこか。

 ……


 「で、ナディはこれからどうするんだ?」


 「どうするとはどういう事ですか?」


 「正直今食う事すらままならない状況で、水道は止まっている、電気はもうすぐ止まる、外には出れない、交換出来る遊具は……死にかけのシーソーと砂場しか無いのにこれからどうやって生きて行くんだ?」


 「そうですね……どうしましょ?」


 無策かよ、駄目だこりゃ。

 ……


 「……なぁ、1つ提案があるんだが?」


 「何ですか?」


 「俺をここに住まわせてくれ!」


 ピ、ポ、ポ。


 「あ、お巡りさんですか? 変質者が居るのですが……」


 「わー! 待て待て! 話を聞けっての!」


 何とか強引にナディから携帯を取り上げた。

 いきなりお巡りさんに電話とか危ねー奴だな……ここ携帯繋がるのな。

 というか此処、一体何処?


 「ちょっと聞いてくれ、俺も今育った場所に帰ろうとしていたんだが、正直帰り辛い状況だったんだ」


 「……それで?」


 ナディは完全に怪しいモノを見る目で俺の事を見ている。

 その目、止めてくれないかな。


 「ああ、それでこの公園には人が何故か来ない」


 「……それが雄太さんの帰り辛いのと何の関係が――」


 「俺が呼んでやる」


 「へ?」


 「誰も来ないのなら、俺がここに人を連れて来てやる」


 「え、それってどういう事?」


 「ここに俺を置いてくれるなら、俺もこの公園が沢山の人で賑わうように手伝うって言ってんの」


 ナディの目を見て真剣に伝える。

 暫くの間、この変わった部屋を沈黙が支配した後、漸くナディが口を開いた。


 「……でも一体どうやって人を呼ぶの?」


 「どうやってというのはまた後にして、今ライフラインが止まっているという状況をまずは何とかしなきゃいけない。違うか?」


 「……ま、まぁそうですけれど」


 「因みに水道の復旧、電気を止められない様にするにはどれくらいのSPが必要なんだ?」


 「ちょっと待ってくださいね、ボーちゃん、教えて貰っていい?」


 ナディが水晶玉、ボーちゃんへと振り返り話し掛けた。

 ボーちゃんが管理しているんだな……。


 『そうねぇ、水道の復旧に15、436SP、電気が止まらない様にするには38、755SP、合計で54,191SPが必要ねぇー。ナディちゃん大丈夫なの?』


 「う゛、あんまり大丈夫じゃ無いわ……」


 ご、54,191SP……なんか妙に生々しい数字だな。

 しかし高けーよ!


 「な、なぁボーちゃんさん? もうちょっと負かんないかなぁ?」


 とりあえず値切ってみよう。

 54000SPとか無理っぽいし。


 『雄太さんごめんなさい、ライフライン私の管轄じゃ無いからどうする事も出来無いのよ、ごめんなさいね』


 「あ、いや、こちらこそ何かすいません……」


 今、ライフラインって言ったよな? という事は他の事なら何とかなるのか? 一応覚えておくか。


 「な、なぁナディ、54000SPってどれくらいで稼げるんだ?」


 「さ、さぁ私に聞かないでくれる?」


 そういや稼いだ事無かったんだよなコイツ。

 というか、お前に聞かないで誰がこんな事知ってるんだよ! ……ボーちゃんか。


 「ボ、ボーちゃん、わかるかなぁ?」


 し、正直水晶玉に話し掛けるとか、物凄い抵抗があるんだが……。


 『そうねぇ、どのくらいというのは無いのよ』


 「そうなのか」


 『ええ、笑いの質や量でかなり変わってくるのよ? 先程の雄太さんが笑った時に貯まったSPというのは、笑いというよりも高笑いと言った感じだったから、SPは若干少な目だったわね』


 「な、成程、教えてくれてどうも有難う……」


 『いえいえ、こちらこそあまりお役に立てなくてごめんなさいね』


 そう言えばそんな感じの笑いだったよな、しかも一瞬だったし。

 しかし、少な目だったという事はもしかすれば何とかなるのかも? しかしボーちゃんに頼んで出して貰って、わからない事はボーちゃんに聞いて、ナディコイツは一体何の為に居るんだ? 今のところ肉まん食っただけじゃねーか。


 「ま、まずは2、3日人を呼びつつ、どのくらいのSPの貯まり具合になるか様子を見ながら……」


 「今日中……」


 「は?」


 「今日中に払わないと電気、止まりま、す……」


 ナディは俯いたまま最後の方はボソボソと答えた。


 「き、今日中だとー!」


 ああ駄目だ、一瞬眩暈がした。

 水なら1日くらいなら俺が外で買ってくれば何とか生きられる。

 しかし電気は無理だ。

 この部屋の維持費、……クソ高そうだなおい。

 暖房も効いてるし、コタツも付いてて、モニターも……モニターこんなに公園の入り口ばっかり映してる必要無いよな。 

 あれ? 確か外ってそんなに寒くなかったよな?


 「あ、あの、いきなり変な事を聞くみたいですが」


 「急にどうしたんですか? 雄太さん」


 「ここ、一体何処なんですか?」


 コタツに入ったまま指でコタツのテーブルをカツカツと叩きつつ尋ねてみた。

 何故か突然の敬語で。

 いや、混乱して来て自分でもよくわからんのだが。


 「ここっていうのは、この部屋がある場所って事ですよね? まぁ雄太さんにわかりやすく言うなら、日本とか地球とかそういう所じゃ無いですよって事ですね」


 「アー、ソウッスカ」


 次元が違うのね。

 深く考えるのはよそう。



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