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第2話 俺、神様ナディと出会う

 狭い倉庫に荷物と一緒に入った俺はどちら様かのお宅の玄関にいる。

 いや、自分でも言っている意味がよくわからんのだが、今俺の目の前の景色は玄関だ。

 狭い倉庫の5倍くらいはありそうなスペースに、靴を脱ぐスペース、腰の高さくらいの靴箱、その横には姿鏡、床はフローリングで視界に入る扉は3つ。

 向かって左手側のドアは恐らくトイレ、雰囲気的に。

 向かって右手側はスライド式のドアで、恐らく洗面所だ。

 そして正面の扉は両開きでガラス細工が施された、若干お高そうな扉だ。

 やっぱり玄関だよな……

 一軒家というより、どちらかと言えばマンション、しかもちょっと高級そうなマンションの玄関だ。


 「モゴモゴモゴモゴモゴー(玄関で突っ立ってないで、中に入っていらっしゃいなー)」


 ……何か口の中に沢山物を頬張りながらしゃべっている様な声が、お高そうな扉の向こう側から聞こえて来た。

 あ、上がってみるか。


 「お、お邪魔します……」


 玄関で靴を脱ぎ、とりあえず大荷物はその場に置いたままにしておく。

 地面をゴロゴロ引きずって来たから、部屋が汚れるしな。

 両開きの扉を片方だけガチャリと開けて中に入る。


 「お、お邪魔し……」


 中に入ろうとして、色々な物が視界に入って来たところで固まってしまった。

 25畳くらいのその部屋は天井も4m程あるやっぱり高級感溢れる作りだったのだが、部屋にある物が色々とヤバイ。

 扉を開けて一番最初に目に付いたのが、扉を開けて右手側にある壁一面に広がったモニター。

 25畳くらいの広さで高さが4m程ある壁の一面が丸々モニターで埋め尽くされている。

 しかも縦に5枚、横に2、4、6、8の8枚。

 5×8枚の計40枚のモニターが壁一面に配置されており、映し出されているのは先程の上野かみの公園だ。

 しかし、殆どが公園の入り口付近を映し出しているのは気のせいか?

 そして部屋の中央には1m程の高さの台座があり、その上にはフカフカそうな小さな座布団が敷かれ、さらにその座布団の上にはバスケットボール大の巨大で透明な水晶玉が鎮座している。

 扉を開けて入った部屋の左手側にはコタツが配置されており、そのコタツの座椅子に女性が座っている。


 「モゴモゴモーゴ(いらっしゃーい)」


 と口いっぱいに頬張りながら喋る女性の両手には肉まんが1つずつ握られている。


 「う゛う゛」


 と突然苦しそうに声を出した女性の顔がみるみる蒼くなっていく。


 「の、喉に詰まったのか?」


 と聞くと首をコクコクと縦に振った。

 ったく何やってんだよと思いながらドアから入ってすぐの所にあるキッチンへと向かい、食器棚に置いてあったコップを取り蛇口から水を出す、出す? 出、出ない。

 レバーを上下に動かすタイプの蛇口なのだが、レバーを上下にカクカク動かしても一向に水が出る気配が無い。

 仕方が無いので近くに在った冷蔵庫を開けると2リットルのペットボトルに水が半分入っていたのでそれを出す。

 いや、それしか入っていなかったのだが……

 先程取り出したコップに水を零さない様に入れながら女性の元へと持って行き、コタツの上に置いてやる。


 「大丈夫かよ、ったく」


 と視線を女性の方へと向けると、女性はコップの水を飲まずに何やらオロオロしている。

 ……どうやら両手が肉まんで塞がっていてコップが持てないようだ。

 ……何やってんだコイツ。


 「おい、手に持っている肉まんを置けばいいだろが!」


 と言ったのだが女性は首を横に振り、肉まんを置く事を断固拒否する。


 「んな、それじゃ肉まんを片手で2個持てばいいだろ」


 と言うと、それだ! と言わんばかりに俺に目で合図を送ってから器用に、親指と人差し指で1つ、その人差し指と中指でもう1つの肉まんを持つと、やっとコップに手を伸ばし慌てて水を流し込んだ。


 「っぷはー! 危なかったですー 助けてくれてありがとうございます」


 座椅子に座りながら軽く会釈をしながらお礼を言う女性。


 …… ……


 ……


 び、美人じゃねーか!

 礼を言った後にまた両手の肉まんへとかぶりついた女性はさらりとした長めの奇麗な金髪……なのだがやけにボサボサだなぁ。

 大きくクリッとした瞳は碧い宝石……のようだけど今は肉まんしか見えていない様だ。

 透き通る様な綺麗な肌で色白の整った顔立ちなのだが、すっぴんで口の周りには肉まんの食べかすが付いてるぞおい!

 し、しかも完全に部屋着で上からチャンチャンコ着てるし、


 「全く色気がねぇ!」


 「モゴモゴモゴモゴ(何の話ですかー?)」


 しかも肉まんに必死過ぎるし、に、肉まん……


 「お、俺にもちょっと肉まんくれよ……」


 「……」


 シカトかよ、この野郎。

 そういえば肉まんと言えば、


 「おい、さっき肉まんがどうとか公園で言っていたのはそれか?」


 「モゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴ(そうですよー、ボーちゃんに頼んで出して貰った分ですよ)」


 「だーっ! 全っ然何言ってるかわからん。それ食い終わるまで待っててやるから早く食えよ!」


 「モゴモゴモゴモゴモ」


 何故か最後だけ嫌味を言われたとわかる様な気がする。

 もう1度部屋を見渡すとドアが1つある事に気付いた。

 他のもののインパクトが強過ぎて見逃していた。

 恐らくここが寝室か。

 と考えていると女性がやっと肉まんを食べ終えたみたいだ。


 「ふぅー やっぱり肉まんは至高の一品です。ご馳走様でした」


 と手を合わせてお辞儀をする。


 「お待たせしました、それで何でしたっけ?」


 「おい、これだけ待たせておいてそれかよ、説明だよ説明。色々訳がわからん」


 とりあえず、俺もコタツに座らせて貰う事にする。

 1日歩きっ放しでさっきまで砂場で2時間くらい作業してたからクタクタだぜ。


 「そうでしたね、ではまずは自己紹介からしましょう。私は上野かみの公園の神、■■■ ■■■ ■■■ ナディ ■■■ です、宜しくお願いします。」


 ……もうわからねぇ。

 今、上野かみの公園の神とか言わなかったか? 上野かみのとか神とかややこしいな。

 神? 何言ってんだコイツ。

 しかも恐らく名前の部分だと思うのだが、殆ど何を言っているかわからん。

 発音が人の喉に出せる音じゃ無かった。

 唯一、ナディ、の部分だけは聞き取れたが、その他はさっぱりだ。


 「な、なぁ、名前の部分が殆ど聞き取れなかったんだが、唯一聞き取れたのが『ナディ』の部分だけだったのでナディと呼んでもいいか?」


 「あ、そうですよねー、ええ、勿論結構ですわ。それであなたのお名前は?」


 「俺は雄太ゆうただ、もう1つ聞きたいのだが、上野かみの公園の神って言わなかったか?」


 「はい、上野かみの公園の神ですわよ?」


 やっぱり聞き間違いじゃなかったのか。


 「じゃあ、その神様は一体何が出来るんだ?」


 「上野かみの公園の事なら何でも出来ますわよ!」


 自分の胸に握り拳を当て、背筋を伸ばしてナディは答えた。

 自信満々なのは結構だが、


 「何でもじゃねーよ! 何にも出来てねーじゃねーか! 何だあの酷い公園は、公園でもねーよ、更地だ更地」


 「仕方が無いのですよー、SPが全く無いのですから……」


 少し落ち込んだ様子でナディは答えた。


 「……何かさっきもそんな事言ってたよな、何なんだそのSPってのは?」


 「SPはSP、スマイルポイントの略ですわ」


 何だその用語は、いきなりゲームみたいな感じになって来たな。


 「そのSPってのは何だ? どうやったら増えるんだ?」


 「スマイルポイントはその名の通り、人々の笑顔をポイント化した物で、上野かみの公園で沢山の人が笑顔になってくれればすぐにポイントが貯まるわ」


 「さっき200SPって言ってたのは?」


 「そう、砂場で雄太さんが笑顔になってくれたので200SPも入ったのよ! 有難うございますー!」


 「……で、その200SPはどうなったんだ?」


 「はい、お腹が減っていたのでボーちゃんに肉まん2個と交換して貰いました」


 と言いながら部屋の中央に鎮座している水晶玉をナディは指差した。


 「ボーちゃん、今日の肉まんもとっても美味しかったわよ! ご馳走様でした」


 『うふ、お粗末様でした。頑張ってもっと沢山のSPを貯めてね』


 ……水晶玉が喋った、はは、もう何でもアリだなー!

 ん? でも待てよ、


 「俺が公園で遊んで200SPが貯まって、そのSPで肉まんを2個出して貰って、俺がここに来たのなら普通、俺とナディが1個ずつ食べるモンじゃねーの?」


 「あ、やっぱり気付きましたー?」


 「気付きましたー? じゃねーんだよ! 何でお前が2個とも食うんだよ!」


 「きゃー、怒らないで怒らないで! 最初はそのつもりだったのよー、でもあまりにもお腹が減っていて……ごめんね」


 何やら上目遣いで両手を合わせているナディ。

 か、可愛いじゃねーか。

 しょーがねぇ、許して……

 と思ったが視界の先に気になる物が。


 「……おい、何だそれは」


 俺はコタツの上に無造作に置かれていた本を指差した。


 「あ、これ? これも少し前にボーちゃんに頼んで出して貰ったのよ。お陰で雄太さんを公園に呼べたので早速役に立ったわ」


 そう言ってナディは3冊の本を手に取った。


 『これが本物のキャバ嬢マル秘テクニック』

 『失敗しないキャッチの100の方法』

 『カモがカモを呼ぶ! ラクラクキャバクラ経営術』

  

 今の上目遣いでゴメンと言ったのは恐らく、『これが本物のキャバ嬢マル秘テクニック』に載っていたのだろう。

 それと公園で呼び込み、まぁ呼び込みというのが正しいのかどうかは別として、あの喋りは『失敗しないキャッチの100の方法』に載っていたと。

 ……俺は完全にこの本にやられてるじゃねーか、くそ、誰だこんな物を書いたのは!


 「……その最後の1冊は何だ? お前はキャバクラを経営したいのか?」


 「そんな訳無いじゃない、私は公園一筋よ!」


 また握り拳を作って力説しているようだが、公園一筋とかそんなセリフ聞いた事無いから。


 「公園を発展させていくのに役に立つのかなと思ってボーちゃんに頼んで出して貰ったのよ」


 ふーん、と言いながら本の裏の、普通なら本の値段が載っているであろう場所を見る。


 「せ、1650SP……? 高過ぎじゃねーか?」


 「そうなのよー、3冊で4250SPもしたのよ。でも先行投資だから仕方が無いかなーって」


 「……で、成果は?」


 「……」


 ナディは俯いたまま答えない。


 「……まさか200SPじゃないよな?」


 「……」


 駄目だこりゃ、どうしようも無い。

 いや、待てよ、


 「そ、その4250SPは一体どうやって貯めたんだよ?」


 そう、それだけ貯めれる方法があるなら……


 「ブランコ……」


 「へ?」


 「ブランコを手放した時のSPが残っていたからそれで……」


 ブ、ブランコを手放した? また変な用語が出て来た……


 


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