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第1話 俺、キャッチに引っ掛かる

 「ちょっと、そこのお兄さん!」


 ぶらぶら歩いてるけど帰り辛れーよなぁ。


 「ちょ、お兄さん、お兄さんてば!」


 今までほったらかしで、急に暫く置いてくれってのもなぁ……


 「お兄さん、こっちこっち! 遊んでってよー!」


 「だーーー! うっせーな! こっちゃ今考え事してて忙しいんだよ! キャッチなんか他所でしやが……れって……あれ?」


 声のした方へ振り返って怒鳴ってはみたものの誰もいない。


 「なんだ? 気のせい……か?」


 「違いますよ、こっちこっちー」


 振り返った誰もいない場所から声だけがする。

 遂に耳が腐ったか?


 「こっちてどっちだよ!」


 訳がわからんのでとりあえずキレてみた。


 「そこですよ、そこ。お兄さんが今見てる場所ですよー」


 「み、見てる場所ですよーって……」


 呑気な言い方しやがって。

 しかし視線の先には誰もいない。

 しいて言うなら公園の入り口があるくらいか?

 小人さんでも話し掛けて来たか? それなら捕まえれば一攫千金が……ぐへへ。


 「小人さーん、何処ですかー?」


 腰を屈め公園の入り口の横の茂みに向かって声を掛ける。

 遂に俺に巡って来た一攫千金のチャンス、絶対に逃がさねーぜ。


 「……何馬鹿な事言ってるのですか? 違いますよ、公園ですよ公園」


 なにやら呆れられて言われた。


 「公園だと? 公園って……」


 先程視線に入った何処にでもあるような、腰の高さ位の丸太の側面を削ったようなオブジェには、公園の名前が黒い文字で書かれている。


 「……上野うえの公園?」


 「違いますよ、上野かみのですよ上野かみの上野かみの公園です」


 「……へぇー、上野かみの公園ね、じゃ、まぁそういう事で」


 よくわからん物には近付かない、コレ基本。

 さっさと上野公園から視線を逸らし、再び歩き出す。


 「ぎゃー、嘘でしょ? 信じられない! ここまで会話しておいて無視して行くなんて鬼畜よ鬼畜!」


 「誰が鬼畜だ、誰が」


 クソ、何かよくわからん物に絡まれたみたいだ。

 どこまでツイて無いんだ俺は。


 「で? この上野かみの公園さんがどうした訳よ?」


 「きゃー、お兄さんなら来てくれるって信じてたのよー!」


 ……本物のキャッチだったか。


 「お兄さん、公園ウチで遊んでかない?」


 ……俺に公園で遊んでいけと。

 どっからどう見ても公園で遊ばなそうな年齢の俺に?

 白いシャツ、黒いズボンにスニーカー姿で、大荷物をキャリーケースでガラガラと引きずって歩いてる、無精髭姿の俺に?

 泊って行けと言われる方が似合ってると思うが?


 「まぁまぁいいから、こっちこっちー」


 どうせこのままでも帰り辛いのだから、暫く時間でも潰れればいいか。

 そんな気持ちでよくわからない女性・・の誘いに乗ってみる事にする。

 渋々連れて行かれたキャバクラみたいな気分だ。


 丸太のオブジェを横目に通過するとそこには……、土地? 土地、土地、って土地しかねーじゃねーか! あ、隅っこの方に砂場発見、あと死にかけのシーソー? も発見。


 「……おい、俺にどうしろと言うんだよ」


 「さぁー 遊んでって!」


 「ふざけんなよ! 何をどうして遊べってんだよ、土地しかねーじゃねーか」


 キャバクラに連れて行かれたら嬢が1人もいませんでした、っておい!


 「……す、砂場があるじゃない」


 「シーソーには触れないんだな」


 「シーソーはちょっと調整中でして……ゴニョゴニョ」


 急に歯切れが悪くなって来たな。

 この広大な土地、まぁ上野かみの公園にはサッカーコートが4面程取れる土地と、砂場、シーソー(調整中)があって、その砂場のすぐ近くに用具入れのような1畳くらいのスペースしかないスチール製の倉庫っぽい物があるだけだ。


 「金寄越せとか言うんじゃねーだろうな? こっちはそんなもん持ってねーぞ?」


 「お金とかそんな物要りませんよー!」


 「そんな物ってなんだよ、他に何か取るのかよ!」


 「いえいえ、とんでも無いですよー! ただお兄さんに公園で遊んで貰ってー、笑顔になって帰って貰えればそれだけで十分ですー」


 間延びした女性の声が答える。


 「わかったわかった。何も要らねーなら遊んでやるよ。こっちも帰り辛いからな」


 「きゃー! ありがとうございますー! お兄さん素敵ー!」


 「……おい、そのキャバクラみたいなノリやめろ」


 「ごめんなさいもう言いませんから遊んでくださいお願いします」


 やけに素直で早口だな。

 しょーがねー、砂場でも行くか。

 砂場に向かって大荷物のキャリーケースをゴロゴロ引きずって歩き出す。


 「きゃー! 砂場で遊ぶんですかー?」


 「砂場しかねーだろが、ボケェ! 帰るぞ?」


 「ごめんなさいもう言いませんから遊んでくださいお願いします」


 ったく、何なんだこいつは一体、というか何処から声がしてるんだ?

 しかし砂場に来るのとか何年ぶりだろう?

 小学校以来か? まだあそこ・・・にいる時だもんな。


 暫く歩いてやっと砂場に到着する。


 「入り口から砂場までが遠いわ、ボケェ」


 「まぁまぁそう言わずに」


 砂場の傍に大荷物を置き、砂場へと入る。

 5m×5m位の大きさの何の変哲もない砂場だ。

 当然足元からロボットが出て来たりなんかはしない普通の砂場。


 「どうやって遊ぶんですかー? 穴掘りですかー? それとも山を作って水を流したりするんですかー?」


 「……流す水がねぇじゃねーか、蛇口ぐらい設置しとけ」


 「も、申し訳ございません」


 「作る」


 「へ?」


 「作るんだ、見てろよ」


 そう言って作業を開始する。

 俺は昔から手先が器用だった。

 それしか自慢出来るものが無いくらいに器用さには自信がある。

 雨が降ったからなのか、手入れがされていないからなのかはわからないが、若干水分を含んだ砂を集め、押し固め、指先で細かく削り、また砂を集めて……を繰り返す事約2時間。


 「……か、完成だ」


 「凄い、凄いですよ、お兄さん!」


 何もなかった砂場には高さ1.5m程の世界一有名なお城、夢の国のお姫様のお城が悠然とそびえ立っている。


 「まぁ! 何ということでしょう!」


 「おい、そのセリフはNGだ」


 「し、失礼しました」


 ただの砂で造られた筈のそのお城は、何かを参考にしながら造られた訳でも無いのに、寸分違わぬ出来栄えで、何かのコンクールがあれば今すぐにでも出品出来る完成度である。

 隅々まで慎重に固められ、削られたお城からは砂で出来ている筈なのに、まるで色が付いているかのように煌びやかな光沢を放っている。


 「がっはっはー、どうだ! 見ろ、この芸術品を!」


 「……」


 「……おい、何とか言えよ。1人でしゃべっているみたいで恥ずかしいじゃないか」


 「……」


 「……おい!」


 「ああああーーーー! 凄い凄い凄い! 200SPも貯まっているわー! 早速肉まん、肉まんよ!」


 「はぁ? へ、あ、に肉まん? 何の事だ?」


 「あ、お兄さんもう帰っていいわよー」


 「はぁ? ふざけんなよ! なんだその言い方は!」


 「お兄さん急いでるみたいだったから今日は帰ってもいいわよー?」


 「て、てめー、ふざけんなよ? わけのわからん事ばっかり言いやがって。ここまでさせておいて用が済んだらハイさようならみたいな言い方しやがって」


 ホントにキャバクラみたいな奴だなコンチクショー!

 またお金が貯まったらいつでも来てねーじゃねーんだよ。


 「もー、どうしちゃったのよー?」


 「どうしちゃったのよー、じゃねーよ! ちゃんと説明しろよ! 説明! 訳がまったくわからん」


 「んー、うーん、え……と」


 女性の声のぬしは暫く考え込んだ後、


 「あ、私何か言いましたっけ?」


 「ここからしらばっくれるのかよ! 無理があるだろが!」


 「もー、わかりましたよー、特別ですよー? そこから入って来て下さいな」


 「は、そ、そこ?」


 辺りをもう1度見渡しても入れそうな場所って……、


 「……そ、倉庫?」


 「そこ・・以外無いじゃないですかー、倉庫だけに。ププッ」


 く、くだらねー 俺なら頭に浮かんでも絶対に言わねー!

 しかし、倉庫っても広さ1畳程で、高さ2m程しかねーぞ?

 まぁしかし言われた通り開けてみるか。

 倉庫までキャリーケースを引きずって歩いて行き、扉をスライドさせる。


 ガッ ? ガッ……


 「おい、開かねーぞ?」


 「あ、スイマセン。鍵掛けてたの忘れてました」


 おい、開けておけよ!

 女性の声の後、その倉庫からは絶対にしないような、近未来感漂う開錠の音が聞こえる。

 一体どうなってんだ、この倉庫? と思いながらもう1度扉をスライドさせる。


 ガッ… ガキッ!


 力任せにスライドさせようともビクともしない。


 「……おい! 全然開かねーじゃねーか!」


 「鍵は開けましたよ? 恐らく長年開けられていないので建付けが悪くなってしまったのでしょう。1度蹴飛ばしてみて貰えませんか?」


 長年ってどういうことだ? しかしあれだけガシャンガシャンと凄い音を出しながら開錠した癖に、開かないから蹴飛ばせって……よし。


 ドガーン!


 助走を付けて思いっきり蹴飛ばしてやった。

 しかし、足から伝わってきた感触は見た目のスチールっぽい倉庫の感触ではなく、何か重厚な金属の塊を蹴った感触だった。

 これでどう、だ?

 ガチャ…… ガラガラ


 「あ、開いたぞ?」


 「では中に入って下さいな」


 中に入れったって……

 倉庫の中は1畳程のスぺースの、何の変哲も無いただの倉庫なんですけれど?


 「持ってる荷物も一緒に中に入れて扉を閉めて下さいな」


 「こ、こうか?」


 荷物が多過ぎてギリギリだったけれど、何とか無理やり押し込んで扉を閉める。


 「おい、全部入ったぞ?」


 真っ暗な中で1人叫ぶ。

 俺何か騙されている様な気がして来た。

 倉庫に1人で入って大声出して……


 「じゃあ行きますよー」


 女性の声がそう告げると突然目の前が明るくなり、一瞬目が眩む。

 何だ? 急に明るくなって……、て、げ、玄関?



 視界が戻ると、どちら様かの家の玄関に立っていた。




 

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