とある魔法使いの娘の呟き 001
「ふう」
ここのところ、父が物思いに更けている。
おかげで、依頼された魔法薬やら魔法陣の仕事が溜まり、私だけでは片づけられないのでさっさと作業をして欲しい。私とて自分の勉学があるのでそうそう手伝えないのだから。
「はあ」
正直言って気持ち悪いだけなのだけれど。
「姫様…」
父よ、それはこの間パーティーに招待された我が国の王女様ではないわよね…
「ああ、愛おしい。ああ、焦がれる…」
熊のような顔に山賊と間違われてもおかしくない風貌、そして成人男性をはるかに超える体格を持つ父の呟きに戦慄が私の体を駆け抜けた。
「あなたの為ならば、国々が、この世界が敵になろうとかまわない…」
なぜここまで、父がトチ狂ったのか…まあ、現実を教えるのも娘の務めでしょう。
「まず、その顔を鏡に映してから出直したらいかがですか?」
「…」
私の声が届いたのか。父の時が止まる。
「ふぉおおおおおお」
そして、獣というには間抜けな咆哮あげ、涙を流し始める。
「…現実とは、とても残酷ね」
私は、しみじみそんなことを考えながら、私たちの住む森を抜けた先にある白亜の城の方へ目を遣るのでした。