03
壁を抜けると、目の前に悲惨な光景が広がっていた。
地面には、無数の白骨死体が折り重なっていた。
その中で二匹のゴブリンが、地面に転がる人間のものと思わしき白骨死体から骨を拾い、自身の口に入れている。
まるで、綺麗に味わい尽くすかの如く。
横にはまだ人相がわかりそうな死体も横たわっている。
まだ、子供のようだ。
まだ、年端もいかない子供のようだ。
アタシはカッと頭に血がのぼり、持っていた玉を投げつけた。
ゴブリンの頭を変形させて砕け散る玉。
一匹はそれで倒れ、もう一匹がアタシを見た。
口からだらしなくヨダレを垂らしながら、ゴブリンがアタシに近づいてくる。
アタシは無言で剣を抜いた。
「シャァァァアァァアァァァァ!!!!」
飛びかかってくるゴブリンを避けもせず、剣を前に突き出す。
頭を串刺し。
きっと、今のアタシは悪鬼も裸足で逃げ出すような顔をしているだろうな。
まだピクピク動いているゴブリンを地面に叩きつけると、その頭を踏み抜いた。
怒りが、止まらない。
アタシにそんな力があれば、今なら視線だけでモンスターを殺せるかもしれない。
さらに剣を突き刺そうとした時、後ろから腕を掴まれた。
「荒れてるじゃねーか」
シュウドだ。
アタシはその声を聞いて、冷静さを取り戻す。
剣についたゴブリンの血を振り払うと、鞘に戻した。
事の顛末を話すと、シュウドも嫌な顔をする。
「そりゃ、しょうがねぇな。俺だってきっと同じ行動を取った。しかし、鍵が無くなっちまったって事は、サグア達と合流するための道を探さなきゃだな」
バカだなんだと罵られると思いきや、珍しく優しい。
まぁ、それくらいシュウドも嫌な気持ちになったってことか。
先に続く道はあるので、どこかで道がつながっているかもしれない。
とにかく、鍵がない今のアタシにはこの壁は抜けられない。
「サグア達に事情を説明してまた戻ってくる。ここを動くなよ?」
シュウドは壁に消えた。
と、思ったらすぐに戻ってきた。
「早かったね?」
「奴らがいねぇんだ」
慌てて先を急いだのか?
いや、サグアとイパスルのしっかり者コンビだ。
そんな迂闊な事をするとは思えない。
何かあったのか…?
「こうなったら仕方がねぇ。先に進んでみようぜ」
アタシとシュウドは、釈然としない気持ちのまま先に進む事にした。
一方、サグアとイパスル。
「どうしたものかな」
鍵は一つしかない。
手をつなぎながらとかなら二人で一つの鍵で済むかと考えたが、そうはいかないらしい。
向こうの様子がまったくわからない上、どちらか一人がこの場に残るのはリスキーすぎる。
「でも、シュウドさんが向こうに行きましたから。滅多な事はありませんよ」
イパスルが、わざとらしい明るい声で言った。
「そうだな」
確かに、戦力的には問題ない。
あとは、どうやって合流するか。
むろん奴らは鍵を持っているのだから、何もなければ帰ってくるだろう。
やっぱり、ここで待つのが得策か。
サグアは鍵を懐に入れ、辺りを見回した。
ケイコウゴケの薄明かり。
その薄暗い先で、何かが動いた気がした。
「イパスル!」
サグアは咄嗟にイパスルを背にかばう。
その瞬間、サグアの胸に何かが刺さった。
ドッという擬音が、聞こえた気がした。
魔力で出来た矢のようだ。
壁にもたれかかりながら、ズルズルと倒れるサグア。
「サグアさん!」
聖法をかけようとしたが、敵からの第二撃が放たれたため、それを避ける。
薄明かりの先から現れたのはハンターだった。
ハンターはゴブリンなどと同じ二足歩行の人型のモンスター。
微力ながら魔法が使え、知恵もまわる。
物陰などから獲物を仕留めるため、ハンターと名がついた。
ハンターはまっすぐにイパスルに近づいてくる。
真っ向から戦っても勝てると判断したのだろう。
イパスルは腰に装備していたナイフを抜いた。
聖法士は肉弾戦は不得手だ。
でも、やるしかない!
ハンターもその手には短剣を握っている。
ふと、ハンターがニヤリと笑った気がした。
くる!
イパスルが身構えると同時に、ハンターの剣撃が襲う。
受けるだけで精一杯で反撃する暇もない。
あっという間に隅に追いやられる。
ナイフで短剣を受けているが、明らかに力負けしている。
ま、負ける…!!!!
その時、ハンターの頭が弾け飛び、頭をなくした身体は膝から地面に倒れた。
「!!!!」
イパスルは声も出ない。
さっき倒れたサグアが立っていた。




