01
とある王都の玉座の間。
今この場所は緊迫に包まれている。
一人の青年が現れ、取り押さえようとした近衛兵5人を指も触れずに吹き飛ばした。
それを見た王は驚きもせず、玉座から立ち上がりもせず、つまらなそうに口を開く。
「そなたは魔法士か。レベルもそこそこみたいだな」
「この国をもらいに来た」
王はつまらなそうな態度は変えずに立ち上がる。
「そなたもある程度のレベルの魔法士ならわかるだろう。余も若かりし時は冒険者として、魔法士としてならしたものだ」
王は右の袖をまくった。
腕に施された、冒険者の証の刺青があらわになる。
「今引くならよし。引かぬなら余は全力でおぬしを排除しよう」
「ふっ」
青年は鼻で笑うとゆっくり王に近付く。
「口で言ってもわからぬか」
王は素早く手で印を切ると口の中で呪文を唱え両手を突出した。
青年が炎に包まれる。
「ヒヨッコが余に挑戦しようなど、百年早い」
王がまた玉座に座ろうとした時、軽い仕草で青年は己を包んだ炎をかき消した。
「なに!?」
「今度は俺の番だな」
青年は何かを押すかのように力を込めて掌を突出す。
ドンッと鈍い音がして玉座が砕ける。
王は一瞬、何が起きたか分からなかった。
しかし、一瞬後に理解する。
己の半身が無くなっている事に。
しかし理解しても意味がない。
王はすでに、死んでいた。
『冒険者レィディオゥを聞いてるみんな!今日もハッピーでスウィートでちょっぴり甘酸っぱい冒険者ライフを堪能してるかな?今日一つ目のニュースは、王都リマロアが乗っとられたってニュースだ。あそこの王は引退したとはいえ冒険者レベル52の猛者。それを倒しちまうなんてどこのどいつなんだろうな?現在は音信不通で調査隊も行方不明になったって話だ!!それからニシノ村にいる冒険者に警告だ!モンスターがニシノ村方面に向かってるって情報があるから注意してくれよ!お相手はDJニムゥでした☆SeeYouNextTime☆』
酒場。
ラジオから陽気な声が響く。
ん?
今ニシノ村って言った?
アタシはふと顔をあげた。
まわりを見ると、ウチのパーティ連中はご飯に熱中していてラジオなんて聞いていない。
「ねぇ今…」
「うわぁぁぁぁぁ」
アタシが声を出したのと同時に表から叫び声、続けて何かが砕ける音が聞こえた。
「イパスル!サグア!シュウド!」
アタシは叫んで表に飛び出した。
一瞬遅れて三人も飛び出す。
酒場の外に出ると、三体のモンスターが目に入った。
「ゴブリンか…」
シュウドが呟きながら戦闘態勢に入る。
こちらに気付いて、ゴブリンがアタシ達に威嚇しながら近付いて来る。
「しゃらくせえ!!!」
シュウドは威勢良く叫ぶと、一気に間合いを詰めて一番手近なゴブリンの頭を蹴り飛ばした。
それが戦闘開始の合図かのように、蹴り飛ばされたゴブリン意外の二体がこちらに飛び掛かって来る。
アタシは目の前に迫って来たゴブリンに前蹴をいれて間合いを取ると、素早く剣を抜いて構えた。
もう一体がアタシの後ろに回ったけど、それは心配ない。
「お前の相手は俺だ」
サグアが手早く魔法を唱えた。
後ろで破裂音が聞こえる。
確認はしてないけど、多分ゴブリンが吹っ飛んだんだろう。
その音がスタートの合図だったように、アタシとゴブリンは間合いを詰めた。
「シャァアァアァァアァ!!!」
ゴブリンはその鋭い爪でアタシの喉を狙って来る。
「単純なのって、辛いね!!」
アタシは数センチ横に動くだけでその爪をかわし、瞬時に攻撃に転じる。
空振りをしたゴブリンが振り向く瞬間。
アタシは剣を振るった。
ゴブリンの頭と胴体は泣き別れ。
戦闘終了。
剣を鞘に収めながら見ると、イパスルが逃げている時に怪我をしたのだろう少女に聖法を施していた。
転んで擦りむいたのであろう傷がみるみる消えていく。
「もう大丈夫よ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
少女はお礼を言うと、自分の家があるのだろう方向へパタパタとかけて行った。
あ、バタバタして自己紹介が遅れたね。
アタシの名前はルンミイ。
性別は女で戦士。
大雑把だとか男勝りだとか言われるけど…正解。
一応このパーティーのリーダー。
仲間はイパスル、サグア、シュウド。
イパスルは性別女で聖法士。
体力も腕力もないけど、傷を癒したりする『聖法』が使える。
お次はサグア。
性別男の魔法士。
彼も肉弾戦は不得手だけど、相手を攻撃する『魔法』が使える。
この世界には魔法と聖法という二つの法術がある。
魔法は相手を攻撃する、聖法は傷を癒す。
それぞれ魔法士、聖法士と呼ばれ両方を同時に習得するのは不可能といわれている。
最後は我がパーティーのトラブルメーカー、シュウド。
性別男の拳士。
剣とかの武器は苦手で、自分の体を使う戦い方が得意。
短気だし荒っぽい。
さっきゴブリンと戦った時も真っ先にしかけたのは彼だった。
ま、ザッとこんなパーティー。
今回は、このニシノ村に伝わる秘宝伝説ってのに興味を持って来た。
なんでも伝説の剣だとかなんとか。
情報収集して、この村の近くにあるニシノ洞窟にその秘宝があるらしい事がわかった。
それで、もう少し詳しく調べようなんて話しながら食事してたらあの惨事だ。
どうしたもんかと考えていると、一人の老人が近付いて来た。
「わしはこの村の村長だ。先程の礼がしたい。わしの家にきなされ」
ニシノ村村長の家。
質素だけど決して貧乏臭いわけじゃない。
あまり上等ではないソファにアタシ達四人は座り、テーブルを挟んで反対側に村長が座った。
「おぬし達、名前は?」
「アタシはルンミイ。で、イパスルにサグアにシュウド」
「ルンミイにイパスルにサグアにシュウドか。先程は魔物を退治してくれて助かった。ありがとう」
村長は深々と頭を下げた。
「いや。アタシらは別に…」
「つかさ、なんか頼み事、あんじゃねぇのか?」
シュウドが言う。
相変わらず口が悪い。
「察してらしたか。実は魔物供の事なんだが」
村長が語るりだす。
ここ、ニシノ村は半年前までは『ヒヒイロカネ』という特殊金属の産地として潤っていた。
それで造った武器や防具は、他の追随を許さないほど素晴らしいものだったそうだ。
今はニシノ洞窟と呼ばれる洞窟がヒヒイロカネの採掘場。
しかし、いつの頃からか魔物が住みつきだし、近付けなくなってしまった。
それでも魔物が村まで来たのは初めてだそうだ。
「…え?じゃあ秘宝の伝説は嘘?」
アタシは思わず口を挟んだ。
「いや、それについては罪悪感がある。強い冒険者が噂に惹かれてやってきたら、魔物の駆逐を頼みたかったのだ」
「な~んだぁ…。アタシは伝説の剣ってのに興味をひかれたんだけど」
「剣は、ある。このニシノで一番と言われた名工が造った剣があの洞窟の奥に眠っている」
村長は語気を強めた。
「その名工は、その剣に相応しい使い手しか手にできないように封印をかけたという」
おお、なんかクエストっぽくなってきたんじゃない?
「もし魔物の駆逐して頂ければまたヒヒイロカネが採れる。そうすれば貴方達にも相応な謝礼が支払える。なんとかお願いできないか?」
村長は床に頭がつかんばかりに頭を下げた。
「一つ質問。その剣、もしアタシが手にできたらもらっていいの?」
「あの剣は持ち主を選ぶ。もしルンミイが手にできたのなら持ち主として選ばれたという事。その時はルンミイが持てばいい」
アタシはニッと笑った。
「じゃあ噂はあながち嘘じゃないじゃない。この件、引き受けた!!」
アタシが叫ぶと村長は溢れんばかりの笑みを浮かべた。
宿屋。
あの後、村長の家から宿屋に迎い、これからの相談中。
「ったくルンミイはよ。独断で決めやがって。ちったぁ話し合いとか頭をよぎらねぇか?」
シュウドは不機嫌に足を組んでドカッと椅子に座っている。
「だって楽しそうじゃない。謝礼くれるっていうし」
「まぁ決まっちまったもんは仕方ねぇ」
内心、シュウドだってワクワクしてるのだ。
最近はクエストらしいクエストには挑戦してなかったしね。
サグアとイパスルを見ると「いつもの事だ」と、こちらは気にせずお茶なんか飲んでいる。
「でもルンミイさん。先程村に来たのはゴブリンでしたが、洞窟にはボスがいると考えるのが自然です。私達でいけるでしょうか?」
イパスルが小首を傾げながら言う。
「確かにな。だがクエストが未知なのはいつもの事だ。やってみなければわからない」
「そうだよサグア!良い事言うね!!」
「ま、俺達も装備だってここらでランクアップしたいしな。謝礼くれるっていうし、金稼ぎ金稼ぎ」
アタシ達がノーテンキに考える中、イパスルだけは不安そうな顔をしていた。
「今日の所は各自装備品の点検だけして明日出発しよう」
アタシの言葉にみんなは各々返事をして自分の部屋に帰って行った。
不安がないと言えば嘘になる。
未知の場所。
そこには沢山のワクワクと少しの恐怖がある。
知らない場所。
今までの場所じゃないどこか。
でもアタシは怯まない。
死ぬんだったら前向きに。
やりたい事をやりたいように、やる。
クエストに挑戦する前の夜は眠れない。
それは遠足の前の日のような気分の高ぶり。
そして、ほんの少しの弱気。
早朝、ニシノ洞窟入口。
「それっぽいじゃねーの」
シュウドが誰となしに言った。
骸骨が折り重なるように落ちている。
以前チャレンジした冒険者なのか、襲われた村の人なのかわからないけど。
「いくよ」
アタシは静かに言って入口をくぐる。
隊列はアタシ・シュウド・イパスル・サグアの順番。
中は以外と広くて、大人が横に三人は並べそう。
まぁそうだよね。
採掘したヒヒイロカネを運び出してたんだから。
それに中は明るかった。
「これは…ケイコウゴケが壁一面に生えてるせいですね」
イパスルは壁を調べながら言った。
アタシには壁が光って見えたけど、確かに良く見るとコケ状の物が生えている。ケイコウゴケというのは暗い場所で発光する苔の一種。
自然にも自生しているが、主にこういった現場などで明かり代わりに使われる。
ランプとかの燃料代に比べたら格安。
環境が合えば勝手に増えるし。
ケイコウゴケのお陰で足元もしっかり見える。
よかった。
松明の値段だって馬鹿にならない。
しばらく進むと広い場所に出て、下に降りる階段が見える。
と、階段から音がした。
皆が一斉に身構える。
「グルルルル」
身長2メートルくらいの巨体にガッシリした体の魔物が現れた。
手には棍棒を握締めている。
ゴブリン…?
いや、ゴブリンよりデカい。
「始めから随分と。ヤマジンだ」
サグアが呟くように言う。
それと同時に、ヤマジンはいきなり棍棒を振り上げて襲いかかって来た!
「うらぁ!」
まず行動に出たのはシュウド。
振り下ろされた棍棒をよけ、ヤマジンのミゾオチ辺りに蹴りを叩き込み、前屈みになった所で顔面を蹴り上げる。
ヤマジンは血をまき散らしながらのけ反った。
が、すぐに態勢を立て直し棍棒を振る。
「さすがに防御力高ぇな!」
棍棒をかわした勢いで間合いを取りながらシュウドが叫ぶ。
そして、一気に間合いを詰めると体重が乗っている左ひざに渾身の蹴りを入れる。
骨の折れる独特の音。
人間だったら倒れ込んで転げまわるだろう。
しかしヤマジンは気にした様子もない。
「なんだぁ?なんでひざイッてんのに歩けんだ??」
「ぬん!離れろシュウド!!」
サグアは掌を合わせて力を込め、押し出すように両掌をヤマジンに向けた。
無数の光の矢がヤマジンを貫き、その穴から血が吹き出す。
さすがに効いているのか、ヤマジンは体を押さえて前屈みになる。
「今だ!」
アタシは剣を振り上げヤマジンの首を、はねた。
ボトッと首が落ちる。
ワンテンポ遅れてヤマジンがひざから地面に倒れた。
「ルンミイはいつもオイシイとこ持ってくな」
「まぁ、リーダーだし?」
アタシとシュウドが軽口を叩き合っていると、
「ルンミイさん!」
イパスルが叫んだ。
「!!!!!」
見ると、ヤマジンが立ち上がったのだ。
首がないヤマジンが。
体から血を吹き出しながら。
しかし頭を失ったからか動きがおかしい。
やたらめったらに周りに棍棒を振り下ろしている。
と、錯乱しているヤマジンがこちらに背を向けた時、ヤマジンの背に羽根のようなものが刺さっているのが見えた。
「…なるほどな。シュウド!あの羽根だ!」
「お?おぉ!」
シュウドは素早く近付き、羽根を抜いた。
すると、ヤマジンはそのまま倒れ込んだ。
「サグア、どーゆーこと?」
「あのヤマジンは何者かに操られてたんだ。その羽根でな。いくらヤマジンが化物でもひざの骨が折れれば動きは止まるしあれだけ血が出れば死ね。まして首をはねられてるんだ。奴はとっくに死んでた。だがその羽根で」
シュウドが抜いた羽根を指差し、
「操られてたんだよ。人形だ。人形に痛みはないし、人形は死なない。」
サグアは短く呪文を唱えた。
瞬時に羽根が燃え、灰に変わる。
「これは先が思いやられますね」
「いきなりこんな化物だかんな」
「ま、とりあえず進んでみようよ。こんな化物操ってアタシらを殺ろうとしてきたんだ。奥にはなんかあるよ」
アタシ達はとりあえず先に進む事にした。
さっき入口でみた骸骨はヤマジンに殺られたのかなぁ。
願わくばああなりたくない物だね。
アタシ達は少しビビりながら、階段を降りた。
「ヤマジン、撃破されました」
「…ほう?」
「普通のヤマジンなら即死。あのヤマジンはジェネラルホーク様の術が掛かっておりましたゆえ、死してなお戦いましたが、術羽に気付かれ術を解かれました」
「今までの雑魚とはひと味違うようだな」そう言って、ジェネラルホークと呼ばれた男は声高に笑った。




