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第2話「ミルクか牛乳?僕は断然オリーブオイル」

「おーい、おーい!」

「ん……なんだよ……」

「『いい』、貴様朝は起きないのか?そんな体で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題……大有りだ!学校!!」


俺は跳ね起きた。

時計を見る。しかし時間は5時を指していた。


「……なんだよ、まだ5時じゃねぇか。早すぎるよ……」


俺は再度布団にもぐりこんだ。


「疾兵!!なにやってんの!!」


遠くから伊予奈の声がする。

改めて時計を見る。5時。携帯を開く。7時。

見る見るうちに俺に眠気と言うものが過ぎ去っていった。


「げっ、遅刻だ!!」


昨日のうちに家に忍び込んで(この言い方は何だか語弊があるな……)持ってきていた制服を引っ掴み、階段を下りる。

食卓には既に伊予奈としゃもじが腰かけていた。


「しゃも……メッシ、お前さっきまで俺の部屋に」

「軍鶏?あれはとてもうまいのであ~る。それがどうかしたか?」

「いやなんでもない」


今は遅刻しそうなんだ、俺はしゃもじを適当にあしらい卓に着いた。

しかし……


「いただきます」

「なぁ伊予奈……」

「なによ」

「これはなんだ?」

「トーストよ」

「この真っ黒に焦げた板をトーストと言うのか」

「ちょっと失敗しただけじゃない」

「3年前も同じこと言ってたぞ」


だが今は文句は言えまい。俺は真っ黒に焦げたトーストにかじりついた。

……真っ黒焦げだが一応トーストだ。バタートーストだ。


「……めしいま」


食事を終えた俺は無意識にそうつぶやくと、鞄を取りに2階へと走った。

背後から伊予奈の声がする。


「先外で待ってるよー」

「おう」


伊予奈の家を出る。ふと右を見ると、まだ記者たちが俺の家に張り込んでいた。ご苦労なこった。




俺の通う上京区立具留天高校は全日制の至って普通の公立高校だ。

なにか特別な行事や伝統があるわけではないし、

ラノベやエロゲのような一風変わった制服なわけでもない。

本当に極々普通の一般進学校だ。


「おーい!疾兵!」


伊予奈と並んで歩いていると後ろからよく聞く声が話しかけてきた。

俺の腐れ縁、クラスメイトの3人だった。


「おう、大尼田じゃないか。それに山内に寺門も。おはよう」

「おいっす!なんだぁ?今日は今井と並んで来るなんて珍しいなぁ」

「たまたま朝同じタイミングに出たのよ。じゃあ後でね、疾兵」


伊予奈はそういうとさっさと駆けて行った。


「なんだぁ?喧嘩でもしたのかぁ?」

「いや……」

「まぁそんなことはどうでもいいんだ。今日放課後我々OBSの会合があることは分かってるな?」

「大尼田、それが決まった時飯田はいなかったぞ!」

「おお、そうだったか!?すまんすまん!」

「あの集まりに会合があったのか……」


俺の背後で髪を引っ張るやつがいる。しゃもじだ。


「『いい』、OBSってなんぞや?」


はぁ……仕方ねーな。OBS、それは大尼田曰く「おっぱいを爆発的人気地位まで昇華させる組合」の事であり、この具留天高校の乳フェチを集めて趣味について話し合おうという集団だ。無論学校には申請していない無許可団体だ。

かくいう俺も乳フェチであるが為半ば強制的に参入させられた。んでだ。この3人……俺はこいつらを3代目B(馬鹿)ソウルブラザーズと呼んでいるが、この3人がOBSの創始者であり、最高権力者だ。

……なんてしゃもじにくだらない説明をしていると校庭に鳴り響くチャイム音。


「やっべぇ!始業の時間だ!」


俺達4人は教室へと猛ダッシュで向かった。






授業を受けている間、俺の背後ではしゃもじが授業の内容を理解しようとしていた。俺は俺で今日の夕飯に誰かから奢ってもらわないと米になってしまうという意味の分からない危機感に苛まれ、誰と夕飯をご一緒するか考えていた。


「『いい』、『いい』!」


さっきからしゃもじが俺の耳を掴み耳元で声を響かせる。なんだようるせぇなぁ……


「吾輩の言葉は周りに聞こえないが貴様の言葉は普段通りだから気を付けるであ~る」


知ってるっての。この類のラノベはよく読んでるからそうだろうと思ってたよ。

ところで、本当に親父御袋との繋がりをみんなが忘れ、俺は俺として認識されてるんだろうな?


「吾輩の腕を信じるであ~る。昨日もそうであったが、吾輩の力は確かに効いていたであ~る」


確かに、俺の家に一旦帰った時は効力があった。しかしだんだん弱まっていくと言っているし……一体誰から飯をごちそうになればいいんだ。


「今日の夕飯の事か?吾輩が教えて進ぜ様」


そういうとしゃもじは俺の机の上に乗っかり、俺の斜め前の女子生徒を指差した。


「あのお嬢さんが『いい』、貴様の飯を作ってくれるであ~る」


しゃもじが指差した女子生徒、それはまったく話をしたことが無い女子だった。

名前は乙那……下は椎だったかな……

名は体を表す、というがその通り、無口であまり話しているのを見たことが無い。いつも本を片手に何かをしている。そして特筆したいのが彼女のスタイルだ。とてもいい。特にあの華奢な体に実るたわわな果実。本体がおしとやかで控え目なのにそこだけは自己主張が激しい。とても激しい。う~んマーベラス。そんな俺の視線に気づいたのか、彼女がふとこちらを見た。


「……!!」


俺は慌ててその向こうの空を見るふりをし、その場をやり過ごした。

彼女が黒板に目を戻したのを確認し、俺はしゃもじに頭の中で聞いた。


(あの子が俺に飯を?まさか!?)

「残念ながら本当であ~る。もしかして『いい』、あのお嬢さんが嫌いか?」

(まさかそんなまさか。いや、むしろ逆だけどよ……)

「吾輩の腕を信じるであ~る」

(さっきも言ったぞ、それ)

「とにかく、彼女に話しかければ今日はご飯を奢ってもらえるであ~る。タイミングを見つけて話しかけてみるであ~る」


……とは言ってもだな。

全く会話したこともない男子からいきなり、「今晩のご飯をご一緒してもいいですか?」なんて聞いてOKが出るわけがない。それが許されるのはヨネスケくらいだ。俺だってそれなりにコミュニケーション能力があることくらい自負している。女子と会話することだってわけない。だが、いきなりご飯を奢ってもらうというのは些かハイレベル過ぎやしないか……


「その辺は『いい』、貴様の技量であ~る」


はぁ、やれやれ……







そうこうしているうちに昼の時間になった。

昼飯は伊予奈が作った弁当があるのだが……


「おい疾兵、それなんだ?」

「分からん。俺にもわからん」

「モザイクかかってるが大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、問題だ」


伊予奈が作った弁当は直視できないレベルで混沌が蠢いていた。

最早どんな料理かはおろか元の素材さえわからない。


「作ってくれた伊予奈には悪いがこりゃ購買で買おう……すまんがちょいと購買に行ってくる」

「おう、行って来い」


教室を出ると、昼休みになったばかりで皆弁当を食べているからか廊下には人はまばらだった。


「おい『いい』、そこに呼んでおいたぞ」


しゃもじの声が耳元で聞こえる。振り向くとそこに乙那がいた。

きょとんとした顔であたりを見渡している。ふと、俺と目が合ってしまった。

目が合ってしまったなら仕方ない。俺は声を掛けた。


「乙那さん?」

「あっ……えと、飯田君」

「どうしたの?」

「誰かに呼ばれた気がして……」


しゃもじの仕業か……?

自分の目線より少し下にいる無言の乙那眺めていると、メッシの声が頭に響いた。


「今だ、『いい』」

「へっ?」


つい素っ頓狂な声を出してしまった。今?こんなタイミングで?

乙那が不思議そうな顔をして俺を見上げる。


「早くしないとタイミングを逃すであ~る」


メッシの声が響く。……しかたない、言うとおりやってみるか。


「ね、ねぇ乙那さん……」

「……なに?」


乙那が不思議そうな顔をそのままに瞳孔を少し開く。


「今日の夕ご飯……俺に奢ってくれない?」




……沈黙。

かぁ~っ!!!言っちゃった!ついに言っちゃったよ!!

そんな同じクラスの男子ってだけの顔見知りに夕ご飯を奢ってくれだなんて言われて「いいよ~!オッケ~☆」なんて返事を出すはずが無い!断じて!それにこのクラスになら俺みたいな顔面偏差値42よりも60オーバーのイケメンならたくさんいるし仮にこの子が俺の彼女だったとしても彼氏の俺なんかよりもそんな奴に言われた方が幸せに違いないそうだ違うはずがないどうしてどうs


「いいですよ」

「……へっ?」

「今日の夕飯ですよね。いいですよ」


そういうと乙那は教室へと戻って行った。

廊下には状況がつかめず立ち尽くす俺と、窓ぶちに腰かけるメッシだけが残った。


「だから言ったであろう『いい』。吾輩に任せろと」

「だからって……」

「まぁ後は『いま』に夕飯の事を伝えておくだけであ~るな」

「あ。そうか」


俺は一応であるが現在置かれている立場は居候の身。

なんだかんだ言いながらも朝食も弁当も作ってくれた伊予奈の事だ、俺の分の夕飯も用意しようと考えているにちがいない。仮にそうでなかったとしても……帰りが遅くなるのだ、伝えなくてはならない。

俺はすきっ腹のまま伊予奈のいる隣の教室へ向かった。



「おーい、伊yフゴォッ!?」


教室に顔を入れ呼びかける俺よりも早く、伊予奈がショルダータックルをかましてきた。

その反動で俺は廊下の壁に叩きつけられる。


「ってー……なんだよ」

「なんだよって何よ。それはこっちの台詞よ」

「俺は伊予奈に用があって来たんだよ」

「私もあんたに用があってクラスを出たのに……」

「黄色の大蒜好きじゃあるまいしショルダータックルしながら出るなよ……それで?何の用だい?」

「私のクラスでは疾兵の両親が失踪したことはみんな知ってるんだけど、あんたがその息子だってことをみんな知らないわ。それが伝えたかっただけ」

「だったらもうちっと優しい方法があるだろ!?」

「はいはい。で?何か用があって来たんでしょ?」


伊予奈が腕を組み俺を見下ろすように見る。近い所為かスカートの中身が丸見えである。……パンツではなくスパッツだが。そのまま視線を上にやるとほぼ直線を描き伊予奈の顔まで到達する。何も阻害は無い。そこそこでもあるのならば俺の視点では伊予奈の顔は見えないはずなのだが……本当にぺったんこなんだな。


「……あんたまた私の胸の事考えてるでしょ」

「滅相もない」


考えを見透かされていたかのように伊予奈がズバッと言い放つ。うむ。その通りでございます。

後ろに下がってくれたためようやく起き上れた。


「それで?話ってなんなの?」

「ん、ああ。今日帰るのが遅くなるってことだ」

「えっ?部活ないのに」

「ああ。ちょっと用事があってな」

「……ふ~ん。じゃあ夕飯は作らなくてもいいわね」

「作る気だったのか?」

「当たり前よ。家に1人なんだし自炊くらいはするわよ」


どこか自信なさげに言う伊予奈。


「じゃ、そういうことだから」

「帰るときに連絡して。お風呂沸かすから」

「先入って寝てていいぞ。悪いし」

「いいの」

「そうか。じゃ頼んだ。連絡する」

「ええ」


伊予奈と別れた俺は、胃袋が本格的にエンプティを警告していた事を思い出し、購買へ急いだ。



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