表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杏の思い出  作者: 神井
8/32

7


彼方への想いを自覚してからというもの、



美笛はこれまでに増して神に祈るようになった。



今まで朝とたまに昼と夕方くらいしか祈ってなかったものの、



今では朝、昼、夕と欠かさず祈っている。



さらに通常15分程度で済ませる祈りを1時間以上行っている。




( 主よ



私を罪から救って下さい!



彼女は私の大切な人です。



彼女には無垢な愛を捧げたいのです。



私は主の婢として、純潔を守らなくてはいけない身。



主よ、どうか私からこの邪な感情を取り去って下さい。)



美笛は十字架の前にひざまづき、一心に祈っていた。






「あの…美笛を見ませんでしたか?」




彼方は、美笛のレッスンを担当している講師に尋ねた。



「ああ、多分聖堂で祈ってるわよ。

このごろ可笑しいと思わない?彼女。

元々信心深いのだろうけど…。

宗教センターの人も心配していたのよ。今年の春あたりからなんだか思い詰めたように祈ってるんだって。」



講師は疲れたような顔で語った。



「…そうですか。」



彼方は不安になった。



美笛は何でも自分に話してくれているはず。



悩み事があったなら、自分に相談してくれてもいい。



それとも何だろうか?



自分には言えないことなのか?



「それにしても、彼女は声楽には向いてないわ。

喉の筋肉が弱すぎるの。肺活量もないし。

私も長いこと音楽を教えているけど、あんな音痴は見たことないわ。

まあ、それ以前に人間性もあるかもしれないわね。

祈ってる暇があったら練習すりゃいいのに。

どうしてこんな音楽の名門校に入れたんでしょうね。不思議でしょうがないわ。

類は友を呼ぶって言うけど…

本当に貴女の親友とは思えない。」



講師は呆れ口調でしゃあしゃあと美笛の悪口を並べた。



彼方はキレそうになった。



なぜそこまで言われなければならない?



この人に美笛の何がわかる?



美笛の何を見ている?



声量、音程などが声楽の全てなのか?



自分は美笛の優しい声が好きだ。



賛美歌を歌っているときの輝く瞳が好きだ。



それらは美笛の人柄と彼女のキリスト教信仰からであると信じている。




確かに周りをあっと言わせるだけの歌唱力はないかもしれないが、




彼女には彼女の歌い方がある。



なぜ、人間性がどうとか、



祈る時間があったら練習しろなんて言われなければならない?




この人の目は節穴なのか?





「……失礼しました!」




彼方は怒気を含んだ声でそう言うと、




バシンと戸を閉めて出ていった。




どうやら彼女は



怒ると口ではなく、態度に出てしまうらしい。









続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ