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美笛は彼方にいつ真実を告げようかと悩んでいた。
黙って行ってしまおうかとも思った。
しかしあれだけ世話になったのに何も言わずに行ってしまうのは恩知らずなのではないか。
彼方なら応援してくれるとは思うが…。
礼拝の間中、ずっとそのことで頭がいっぱいだった。
「…どうしたの?じっと見て。」
つい彼方を凝視してしまっていた。
「う、ううん!何でもない!」
美笛は慌てて首を横に振った。
「美笛、今日も素敵な歌声だったね。」
「お父さん!」
美笛の両親が二人に歩み寄ってきた。
日本人の父と中国人の母。
父親はすらりと背の高い立派な紳士で
母親は目鼻立ちのはっきりとした美人だ。
二人とも美笛と同じ敬虔なクリスチャンで
柔和な雰囲気を持っていた。
実は彼方が美笛の両親と対面するのはこれが初めてだった。
二人は彼方に丁寧に挨拶をした。
美笛を見れば両親がどのような人物であるかだいたいわかりそうなものだが、
二人があまりにも礼儀正しく、上品なので彼方は少しまごついてしまった。
「美笛がいつもお世話になっております。
貴女はとても歌がお上手なのですね。まるで天使の歌声を聞いているようでした。
美笛は口を開けばいつも貴女のことばかり……」
「お母さん!」
美笛は顔を真っ赤にして母の言葉を遮った。
一方、彼方は何か違和感を感じたのか、美笛と両親をちらちらと見比べていた。
美笛と同じ温和な眼差し。
美笛と同じ柔らかい声。
だが…
「いえ、とんでもないです。私も色々と彼女に支えられていますから。」
彼方は器用に笑顔で返した。
「本当に素敵なお嬢さんね。綺麗でしっかりしてて。」
美笛の母は美笛にそうささやいた。
「では、私たちはこれで。」
美笛の両親は丁寧にお辞儀をすると、
そさくさとその場を立ち去っていった。
なんだか逃げるみたいに。
二人の姿が見えなくなると美笛はくるりとこちらを向いた。
「どう?私の両親。」
美笛が真顔で尋ねた。
彼方はドキリとした。
美笛は彼方が何を考えていたかわかっていたようだ。
「ど、どうって…。」
「似てないでしょ?」
「別に…」
思っていたことをズバッと言い当てられて気まずい彼方。
美笛は淡々と続けた。
「私ね、実は日中ハーフじゃないの。純粋な中国人なのよ。」
「!?」
「つまりあの二人の子供じゃないのよ。私は養女なの。」
続く。




