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杏の思い出  作者: 神井
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そのころ、美笛は教会の祭壇の前にひざまづいて祈っていた。




(これから彼女とのレッスンです。


主よ、私を試みにあわせず、悪よりお救い下さい!


悪魔の誘惑から私をお守り下さい!)



彼女は組んだ指に力を込め、一心に祈っていた。



そのとき




「アグネス美笛。」





…突然教名を呼ばれ、振り向いた。



そこには白い装束を身に纏った司祭がいた。



この司祭は美笛が洗礼を受けたときから、彼女を温かく見守っている。



「司祭さま!」




「今日も礼拝に来てるなんて。貴女はこの教会で一番熱心な信者ですよ。」




司祭は美笛に優しい微笑みを向けた。




「もったいないお言葉です。」




美笛は深々とお辞儀をした。



「しかし、最近の貴女は熱心を通りこして必死な気もする。

何か悩みでもあるのですか?」



「いえ…別に何もないです。」



美笛は気まずそうに顔をそらせた。



司祭はそんな美笛を見つめて、ため息をついた。



「気づいていないのですか?



今だって親を亡くした子供のような顔をしていますよ?」



「……!」



美笛は拳を握りしめた。




「言いたくないなら構いません。


…しかし、私は懺悔聴聞僧です。アグネス美笛。


私に隠しだてすることは神を欺くのと同じこと。」



美笛は悩んだ。



言いづらい、



とても言いづらい。



しかし、このままずっと自分の胸に秘めておける自信もない。



何より、クリスチャンとして、どうするのが正しいか。




…覚悟を決めた美笛は



言葉にできない彼方への想いを



何とか無理矢理言葉にして司祭に伝えた。





「司祭さま、私は罪人です!


大切な親友をこんな汚らわしい目で見るなんて!


私にはクリスチャンでいる資格なんてありません!


心の中からこの邪な感情が取り去れないのなら、


私は死ぬ覚悟です!」




美笛はそう言うと、司祭の足元に身を投げ出した。






「…『そんなこと』で自ら命を断つ方がよっぽど罪ですよ?

アグネス美笛。

神から授かった命をそんな粗末に扱うものではありません。」



司祭の厳かな声が天から降ってくるようだった。




「司祭さま…!」




司祭はしゃがみこんで美笛と目線を合わせた。




「イエスさまは私たち一人ひとりを愛しておられます。



私たち人間の弱さもきちんとご存じなのです。



何があっても、貴女は神様に愛された存在なのですよ。



ましてやそんなことでクリスチャンでいる資格を失うわけではありません。」



司祭は美笛に力強く言い聞かせた。



司祭は美笛の言葉以上のことをわかっていたようだ。



「司祭さま…!」



「愛は形を変えるものです。


今のような性愛(Eros)から


無償の愛(agape)に。


弱さは誰にでもあります。


だからこそ排除するのではなくて、認め、包むのです。」




司祭は美笛の肩に手をおいた。



「司祭さま…。」



「貴女は充分、立派なクリスチャンですよ。


神のご加護を…。」




司祭は立ち上がると



美笛の頭に手を置いて祈った。



美笛の心は少し救われた。













続く。


※私は聖公会の司祭とは話したことありません。

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