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ゲーディアの栄光  作者: ノート
第一章 白のトーガ 
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1-1

 息を吸う。

 それが、とても懐かしい。

 俺はゆっくりと体を起こした。それから、静かに目を開ける。大きな部屋だ。茶色い壁には細かな絵が刻まれている。いや、壁だけではなく、絵は床と天井にも刻まれていた。

 立ちあがると着ている服が擦れ、小さな音を立てた。白いトーガだ。1枚の大きな布を体に複雑に巻き付けている。身につけているのはこの服だけだ。俺は慌てた。剣が、ない。

 もう一度、部屋を見渡した。壁に備え付けられた松明(たいまつ)のお陰で一定の明るさは保たれているが、窓もないため室内は暗い。少なくとも、探し物をするには適切ではない明るさだった。しばらく周囲を見回したが、この部屋には何もない。本当に何ひとつないのだ。俺は剣を探すことを諦め、部屋の外へ出ようとと扉へと向かった。

「あれ?」

 扉には鍵がかかっていた。扉には絵が刻まれていない。木製だ。しかも新しさを感じさせる。俺はしばらく考えたが、この扉には大した価値もないだろうと結論づけた。

「ちょっと失礼」

 押し倒すように足で蹴ると扉は大きな音を立てて倒れた。

 倒れた扉を踏んで外へと出る。明るい。窓から差す光が石造りの廊下に満ちている。松明の光とは比べ物にならなかった。

「あ……」

 喉に何かを詰まらせたような声。音源の方向には二人の女の子がいた。二人とも目を見開いている。二人とも青と白が入り乱れた同じ服を着ていた。あんな服、見たことがない。俺は彼女たちに話しかけようと一歩踏み出す。すると右側の背の低い女の子が更に目を大きくして――

 悲鳴。

 耳をつんざくような声だった。左側の女の子もその声に驚いたらしく、連鎖するように悲鳴を上げた。当然俺もその声に驚いて、小さな悲鳴が口から漏れた。悲鳴に重なるように足音が聞こえる。

「どうしたのですか!」

 二人組の女の子の後ろから、更にもう一人女の子が飛び出てくる。二人組の女の子より幼い。15歳くらいだろうか。ブロンドの髪を2つに結っていた。手に剣を握り、鎧らしきものを着ている。だが、俺はそんな鎧見たことなかった。

 彼女と目が合う。嫌な予感がした。

 予想通り、武装した女の子は問答無用で剣を振り上げる。俺はそれを避け、足払いをかけた。

「あっ!」

 態勢を崩す女の子。俺は右手で彼女の剣を奪い、左手で彼女の背を強く押した。鎧が派手な音を立てて女の子が転倒する。

 二人組の女の子が更に悲鳴をあげる。この子たちの肺活量はどうなっているんだ。その悲鳴に釣られたように、鎧を着た男たちが廊下を両側からやってくる。少なくとも10人はいるようだった。

「俺、怪しい者じゃないですよ!」

 男たちに包囲され、弁解を始める。だが、手には女の子から奪った剣があり、その子は床に倒れている。

「お前は何者だ!」

 男たちの中から一人が前に出てきて俺に問いかける。かなりの長身だ。体格も良い。年齢は50歳くらいだろうか。

「何者だって言われても……」

 俺は返答に困った。返答に困ったという事実に困った。とりあえず名前だけ告げる。

「アオイといいます」

「どこの国の間者だ?」

「間者じゃないですって!」

 首をぶんぶん振って否定する。こいつは無能なのだろうか。そんなこと、俺を捕らえてから聞けば良い。仮に間者だとしたら答える訳がないだろう。だが、男の目が俺を見ていないことに気付いて、彼の目的が別のところにあるのだと分かった。

 倒れていた女の子がそのままの体勢で俺めがけて足を蹴りあげる。避けようと思ったが、間に合わなかった。右の太ももをブーツで強打されて俺の態勢が崩れる。

「ヴェーテ!離れろ!」

 男たちが剣を構え、突撃してくる。ヴェーテと呼ばれた少女はさっと立ちあがり離脱する。まずい。俺は痛めた右足をなるべく使わないように、左足に重心をかけて剣を構えた。

 先陣を切って突撃してきた男が剣を斜め上から振るう。俺は彼が剣を振り落とす前に、剣の柄で顔をぶん殴った。彼はそのまま崩れる。

 二人目は隙の小さい突きで俺の首を狙っているようだった。その切っ先が首に届く前に剣を蹴りあげる。同時に後ろから斬りかかってきた三人目の顔を肘で打つ。剣を失い、拳を振ってきた二人目を蹴り飛ばす。後ろにいた男たちを巻き込むように転倒する。後何人だ?

「私がやる」

 先ほど俺に何者か問いかけた男が躍り出る。その動きは若々しく、年齢を感じさせない。白く染まりはじめた髪を揺らして、男が一歩踏み出す。

 男は俺に飛びかかりながらも、剣を構える様子はなかった。全身が隙だらけに見える。だが、不思議と攻撃することは躊躇われた。俺は男から距離を取る。男はそれを見て剣を下段に構えた。綺麗な構えだ。俺はそれを受けに入る姿勢を取る。来い。

 俺は男の斬撃を受け止めるつもりだった。男が目の前に迫る。だが、剣はまだ振られない。まだか? そう思う間にも男との距離が縮まる。男が背を向けるように体を翻した。そこで、ようやく男に剣を振るつもりがないことに気付く。

「うぁっ!」

 男の体当たりをモロに受けて吹き飛ぶ。石畳の上を滑り、着ていたトーガの一部が破れた。

「抑えろ!」

 男たちが俺の体を抑えつけて勝利の雄叫びを上げる。その下で俺は諦めて全身の力を抜いた。

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