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初恋  作者: 木嶋 稔
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5#教官室

「今日の授業はこれで終わる!」

その言葉と同時にクラスの人が動きだした。

私も桃香と歩き始めた、その時に後ろから呼び止められた。

「新垣。約束忘れたわけじゃないだろうな」

振り返るとニヤっと笑っていた。

思い出してみると、授業の最初に、教官室に来いとかなんとか……

「放課後、ちゃんと来いよー」

それだけ言うとボールの片付けを始めた。

私は行く気もないまま返事だけ返しておいて、そのまま歩いていった。

「放課後、ちゃんと行くんだよ?」

「嫌だ」

すると後ろからペシっと桃香に叩かれた。

「先生の真似」

舌を出して可愛く笑っている。 今この場に男子が居たならば一瞬にして惚れるであろう。

「最近、頭叩かれまくりなんだよ。 馬鹿になるよ」

「そんな簡単に馬鹿にはなりませんよー?」

光治くんに出会ってから、笑う機会が多くなった。





「みなさーん。気をつけて帰ってくださいよー」

担任の先生の高い声が響く。

「桃香、帰ろう」

「えっ!行かなくていいの?」

「どこに……あぁ!そうだった。 私、行く気ないから」

そう言って教室をあとにした。

玄関に行っても、桃香はあの事が気になるらしい。

ずっと、いいの?って聞いてくる。

私が軽く流して、玄関を出ると、目に飛び込んできたのは光治くんの姿だった。

「あーらーがーきー!!」

「げっ!! 桃香、先帰ってて!!」

その言葉を残すと、回れ右をして学校へ逃げ込んだ。

「ちょっ!逃げんな!!」

光治くんは職員専用の玄関に向かって走っていった。

そのころ、私は一年生教室の廊下に居た。

「なんで居るんだよ…」

呟きながら、上がった息を整えていた。すると後ろから頭を叩かれた。

「体育の教師をなめんなよ」

そういう光治くんも息が上がっていた。私はその場にしゃがみ込んだ。

「なんで追いかけてくるのー?」

光治くんも私の前にしゃがみ込んだ。

「お前が逃げるから…だろ」

「あんな名前を呼ばれて。逃げない人が何処に居るのか教えて欲しいよ」

すると光治くんは自分を指指した。

「此処に居る」

その顔が真顔だったことが可笑しかった。

笑っていると、腕を摑まれた。


光治くんはそのまま歩いていった。

「ちょっ!」

腕を振り払おうとするけど、男の人の力は強い。

「――痛いよ…」

その言葉を呟くと、少し力を弱めてくれただけで離してはくれなかった。


そのまま、教官室へと入っていった。

そして入ったところで手を離してくれた。

「何?」

聞くと、振り向いて私を見下ろした。

「罰」

「は?」

いきなり発した言葉が「罰」なんて誰でもは?ってなりますよね

「なんて言ったけど、することねぇんだよな」

いきなり気の抜けた声になった。

くくく、と笑うと光治くんが口を尖らせた。

「本当、光治くんって面白いよ」

教師だと思えないほどに…………

ふと思った、教師だと思えないほどじゃなくて教師だと思いたくないんじゃないかって…

「で、何すればいいんですか?先生」

珍しく敬語を使ってみた。光治くんは驚いているようだ。

その顔が自分より年上とは思えないほど可愛かった。

「そうだなぁ」

腕を組んで考え始めた。

「今日はいいや。 また今度な」

そう言うと、にっこりと笑った。


光治くんは玄関まで着いてきた。

「じゃーな」

その声で後ろを向くと、ひらひらと手を振っていた。

「ばいばーい」

私も手を振り返した。



その事がとても嬉しかった。

理由は何故だか解からない。

解からないまま、家へと向かった。


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