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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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8/13

8.妖精とか、意味不明

 食事をとって、その他いろいろな処理をしてから、再び防護服を着込んだ。


 こっちから通信をかけてみる。ただ、コールは鳴るものの誰も出る様子がない。相当状況が切迫しているのだろうか。ちょっと心配になる。


「どうしよ。動けないや」

「そうね。しばらく待機だと思うわよ」


 ……今なんて?


 はっと、空を見上げて見るも、相変わらず墨色のどんよりとした空からは、火山灰がしずしずと降り続いている。朝の天気予報では、来週まで雨は降らなかったと思う。

 何だろう。多分空耳だよな。


『こちら根津よ。しばらく時間かかりそうなの、柏木君は大丈夫かしら?』


 油断していたら、唐突に通信が入った。

 思わず飛び上がって、バランスを崩して尻餅をついた。


「もう。痛いわね。びっくりしすぎよ」

「待って待って、誰?」

『誰って、わたしよ。津田多実子は知っているわよね? 何か異常事態かしら?』

「いや、ごめんなさい。そうではなくてですね……」

「ちょっと、聞いてるの? 落ち着いて行動しないと、また崖から落ちるわよ」

「うわあぁぁ……」

『ちょっと、柏崎君? ほんと、大丈夫なの?』


 空耳じゃなかった。

 ヘルメットの外から声が聞こえるんだけど、単独行動中だからそもそもそんなところに他人はいない。

 もしや、さっき下に現れた白いオオカミなのか!?


 立ち上がり周りを見回す。

 枯れた立木の林、地面に積もった火山灰に、切り立った崖。

 僕が歩いてきた足跡がその林の中に伸びてはいるものの、他に目立ったものが見えない。灰より白いって言っていたから、きっと目立つはずだけれど、違うのか?


『ねえってば。柏崎くん、いったいどうしちゃったの? 幻でも見え始めたのかしら』

「いえ、すみません津田教授。大丈夫なんですけれど、大丈夫じゃないと言いますか……」

『待って違うわ。駄目よ、柏崎くん。芳宏さんが一緒にいる時は、多実子さんって呼んでくれないと』

「それこそ待って。そこは普通、逆でしょうに」

『全然違わないわ。ねえ、芳宏さん』

『そうだぞ柏崎くん、同時に私のことは妻と同じように、芳宏さんと呼ぶように』

「うわぁっ、属性増えてるしっ!?」


 まさか、無線の向こう側に津田教授が夫婦で揃って居るとは、誰が想像するもんか。


「そそそそ、それで。どど、どうなりそうなんですか?」

『落ち着きなさい柏崎くん。さすがに一人で行かせたのは危険だったと、楢崎と反省したところだ。楢崎だが、今は全体に指示出ししていて近くに居ないが、話はまとまっている。柏崎くんはそのまましばらくそこで待機。待っていて欲しい』

「えっと、はい。わかりました」

『今後だが、君も知っている郷田君と、あと自衛隊員計6名がそちらに向かっている。その到着をもって下山。こちらのキャンプに合流してほしい』

『防護服のエリクシル生命維持装置があるから、万が一があっても助かるはずよ。でも柏崎くん、無理だけはしちゃ駄目よ』

「…………はい。ありがとうございます。芳宏さん。多実子さん」

『うん。よろしい』


 優しさだけおいて、津田夫妻は通信を切った。

 オオカミが現れて危険度が増した。その対策みたいな感じか。いずれにしても、今回の現場検証は中断なんだと思う。


 いやでも焦った。いったい何だったんだろう、さっきの声。


「優しい感じの人たちね」

「そうだね――――って、うわああぁぁぁっ」


 やっぱり聞こえた声に、驚いた僕はまたその場に尻餅をついた。




 一分ほど悩んで、再び簡易テントを立て直した。

 中に入って防護服を脱いでから、大きく息を吐く。


「久しぶりね、イブキっ」

「いや多分それ、僕じゃなくて別人なんじゃないかな」


 悲報。水晶化した黒紫蝶が、擬人化したんだけど。


 もうね、目を疑ったよ。腰に吊してあった保存容器の中に、小さな女の子がいたんだもの。そして冷や汗が出た。郷田さんたちが、こっちに向かってるし。


 隠す隠さないとか頭を巡るも、じきにバレると腹をくくった。

 今はまず、最低限の情報収集が必要だと判断して、女の子と直接顔を合わせることにしたんだけど。

 そっと保存容器の蓋を外すと、待っていましたとばかりに容器の縁に手をかけて、女の子が出てきた。


「イブキのね、魔力を感じた時にほんと嬉しかったのよ。もう、二度と会えないかもって思っていたし」

「えっと、そのイブキ? って、誰なの?」

「イブキはイブキよ。それ以外に言い様がないわね」


 どうやらこの女の子にとって、僕はイブキらしい。


 濃い紫色の髪に、同じ紫色の瞳が特徴の超が着く美人さん。薄い紫色のドレスを着ていて、今現在の身長は15センチくらいの、小さな妖精さんだ。

 見ていると、コロコロと表情が変わって、すごく可愛い。まあ、記憶にないし、全く知らない子なんんだけどね。


「ところで、名前。聞いてもいいのかな」

「……ミモザよ。そうよね、最後が壮絶だったし記憶をなくしていてもおかしくないけれど。そっか、それほどなのね…………」


 待って、勝手に納得しないで欲しい。

 多分だけど、人違いだと思うんだ。


 そうしてしばらくお互いの情報を交換し合った結果、わかったことがある。


 恐らくこの体は、ミモザの知っているイブキって人の体で、中身は違っていて僕だってこと。そのイブキは、世界渡りを何度も繰り返し、そのたびにその世界の『イブキ』の魂を救い続けた。

 そして最後に、自分の魂と引き換えに世界を救ったと。

 いや、なにそのおとぎ話みたいな話。


 そして僕の話。一週間前、ここの崖から落ちて、命を拾った際にこの容姿になっていた。魔法が使えることは、ミモザには言った。何か普通に知っているっぽかったし。

 今日は、事故当日の現場検証みたいな感じで同じルートを辿って、そしてキーアイテムである黒紫蝶を発見。途中から知っている顔されたけれど、再確認した。

 そうか、この子はその黒紫蝶本人(?)だった。


 ここまでの話で……何か、見落としがあるような気がするんだけど。


「じゃあ本当に、イブキじゃないのね」

「僕の認識では、だけどね。ちなみに篤輝。柏崎篤輝が僕の名前だよ」

「わかったわ、アツキ。もう二度と、アツキを失わないって誓うわ。絶対に」


 いや、重いよ。重すぎるって。

 それほどまでにその『イブキ』って人が、前世(?)で経験した最期が酷かったんだろうか。前世か。何だろう、前世って?




『篤輝! そこのテントに居るのか、返事しろっ』

「ちょっ、アツキ。なになにどうしたの?」


 慌てて立ち上がって、すぐにしゃがむ。ミモザに両手を伸ばして、すぐに引っ込めた。自分でもわかるほど挙動が不審になって、そんな僕に驚くミモザを見てちょっとだけ落ち着いた。


 いや篤輝よ。

 さっき自分で、そのまま見せるって決めたじゃないか。


「ここにいるよ。郷田さんっ。無事だよ!」

『そうか、ならいい。だが、慌てなくてもいいからな』


 自分を落ち着かせるために、数回深呼吸を繰り返す。

 そうして防護服を着て、しゃがんで保存ケースに自ら入ったミモザをケースごと持ち――


 ――――ドゴーーーン!!


 激しい地揺れにミモザケースを取り落としそうになり、慌てて抱え込んだ。


 ――――ドッゴーーン!!


 二度目の揺れ。

 しっかりと腰にケースをくくりつけて。


「蓋、いる?」

「大丈夫よ。縁にしっかりと捕まってるわ」


 念のためゆっくりとテントの出入り口を通過した。

 周りを見回す――までもなく、犯人を発見した。


「郷田さん、何してるんすか……?」


 思わず敬語になる。


「おう、篤輝。何って見ればわかるだろう。男のロマン、パイルバンカーよ」


 少し離れた場所に巨大な杭が二本。

 黒々とした鉄塊が、ギラギラと光り輝いていた。

 

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