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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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6/12

6.現場検証に行くってよ

「でも結局ね、柏崎くん容姿が変わったのが何故なのか。謎が残ったままなのよ」

「自分でもよくわかっていないんです。記憶は繋がったままですし、他人の記憶をトレースしている感じもないですよ?」

「そこなのよね。何でかしら……?」

「難しいところだな。となると、やはり現場検証が必要なんじゃないか?」

「芳宏さんもそう思う? 予算申請しましょう。二、三日中に実現させてみせるわ」

「機材の手配は任せなさい。防護服も最新のものを人数分用意させよう。もちろん、柏崎くんの分もだ」

「えぇ、マジで……?」


 はい。第三の人物が参戦しています。

 夜半に、旦那さんが迎えに来て、津田教授をドナドナするかと思いきや、そのまま話に参加。ただいま徹夜のテンションで、大人二人がはっちゃけています。


 もうね。現場に向かうのが確定だと。なんてったって、教授二人がその気になっているんだから、学長――もとい、県の知事やその上、国会の承認レベルの何かが動くはず。

 方や自然植生学者、方や鉱石学者。ものすごく強力なタッグだったりする。


「東京大学の楢崎も呼ぼう。物理学の検証も必要だろう」

「いいわね。それならわたしは、京都大学の柏崎さん呼ぶわ。今話題の、工学部と医学部の超が着く権威よ。絶対に必要だと思うわ。柏崎くんも、身内がいてもいいわよね?」

「……えっ、誰?」


 大人二人の暴走を聞いていたら、いきなり話を振られた。

 と言っても誰だろう。姉さんが関西の大学に行っているのは知っているけれど、さすがに教授なんて年齢じゃない。僕と少し歳が離れている32歳だけれど、そんな話聞いたことがないんだよね。

 父さんと母さん、何も言ったいてなかった気がするんだけど……?


「誰って、柏崎桃華さん。柏崎くんのお姉さんなんじゃないの?」

「はあっ? ね、姉さん教授なの!?」


 衝撃の事実。

 実は知らないうちに、姉が超絶ハイスペックになってた。


「そりゃそうでしょ。なんたって、エリクシルを開発したんだもの。今じゃナノ工学と、ナノ医学の最先端を牽引してるんだから。すごいのよ?」

「なんだ、柏崎くんの身内だったのか。なら参加確定だろう」


 何それ。それも初耳なんだけど。


 こうして、現場検証の計画が僕を置き去りに加速していった。




 てなわけで三日後。

 大学の教授が4人、それぞれの助手合わせて大学関係50人。エリクシル電子からは、研究社員32人。自衛隊からも44人も派遣される、謎の大型現場検証ツアーが始まる。らしい。

 僕の場違い感が半端ない。当人なのに。


「で、弟よ。何だか面白いことになっているではないか」


 信濃大学構内が人で溢れかえっている。

 入り口のロビー。その端っこの方でぼーっと椅子に座っていたら、もうすごい笑顔の姉が歩み寄ってきた。

 会うのは確か、正月の帰省以来じゃないかな。そのあと、数ヶ月で海底火山が噴火して、地上の交通網が完全に麻痺して、終末世界の様相になったんだよな。


「姉さん久しぶり」

「話には聞いていたが、本当に見た目が別人なんだな。よく見てみれば動きや雰囲気で、ああ篤輝なんだなってわかるが、いやしかし見事なものだ」

「僕も、何でこうなったのかわかんないんだけどね」

「そうなのか? 整形したにしては人相が違いすぎるとは思ったが」


 僕の周りを左から見て、右から見て。最後に対面の椅子に座った姉は、やっぱりいい笑顔で。


「いやしかし。まさか黒紫蝶の出所が弟だったとは。感謝しかないぞ、この歳で教授になれたのは弟のおかげだ。どうやって見つけたんだ?」

「一緒に送った古文書だよ。ここの大学の書庫にあってさ、植生条件が色々と書かれていた中で、今の環境に合致したのがたまたま黒紫蝶だったんだけど」

「おや、弟よ。あれはどこの文字なんだい? 読めないし、解読も難航してるんだが」

「…………はい?」


 そう言って姉は、脇の鞄から本を取り出した。

 見覚えがある。僕が黒紫蝶と一緒に大学に提出して、研究のために別の大学に送られた古文書だ。日本の古書によくある、紐綴りの和書。

 表紙には『奇跡の植生。神秘薬草図』って書かれている。作者は寝過田玄黒。古書なのに杉田玄白をもじった作者名に、思わず吹き出した覚えがある。


「ほら。何かの曲線文字? 津田教授は、異世界文字だって喜んでいたが、いざ解読しようとすると法則が掴めなかったんだ。これが、素で読めると?」

「読める、けど? どういうことだろう……」

「さあね。少なくとも、弟が読めたおかげで人類は救われたってことだ。それは誇っていい」


 テーブルの上。古文書を僕の方にスライドさせると、手を振って立ち去っていった。


 残された僕と古文書。

 細かいことは聞く気が無いんだ。姉のことだから、もう少しこう何か突っ込んでくると思っていたんだけれど。

 でも古文書。あの時もそうだけれど、今でも書庫には同じ文字で書かれた古文書が、いっぱいある。ジャンルも作者も全部バラバラで、その中でたまたま僕の琴線に触れたのが、この古文書ってだけで。


「やあ。君が柏崎教授の弟君だね」


 古文書から顔を上げる。

 誰だろう。この金髪イケオジ。黒縁眼鏡が似合いすぎてて、何だか敗北感が半端ない。着ている作業着でさえ、周りと違って見える。

 いやほんと、誰?


「ああ。楢崎ライオネットだ。今回の探査責任者を背任した。よろしく頼む」

「あ、楢崎さん。東大の?」

「そうだが。いやしかしさすがだな。マスコミが機能していないから昔ほどではないが、それでも君は今や時の人だ。災害以前の世界なら誘拐もあり得たが、心配無用のようだな」


 え、そうなの?

 誘拐とか。なんで僕が?

 ただの大学助手だよ。別に有名じゃないし、


「大学に寝泊まりしていたことが幸いしたな。ところで、現在エリクシルに実際に調薬された黒紫蝶は、たったの五株だ。君ならこの意味がわかるだろう」

「……それって、僕が持ち込んだもの……だけってこと?」

「そうだ。世界的にはギリギリ足りているが、今後のことを考えたら圧倒的に足りない。さあ全体ディスカッションの時間だ。行こう」

「え……マジで?」


 人波が講堂に移動していく。


 二人からの情報が多すぎて、現状の把握が追いつかない。

 そのまま呆然と人の流れを眺めていた。


 僕の知らないところで、僕が知らない誰かに知られている。


「そうだ。大規模移民計画『箱船』は知っているかね? 応募名簿の中に柏崎君の名前があったから、承認しておいた。地球を出れば、間違いなく安全が保証されるだろう」


 人はそれを、フラグが立ったという。


「柏崎くん、行くわよ」

 このままどこかへ……なんて、無理だった。

 津田教授にドナドナされて、僕は講堂へ。黒紫蝶探索ディスカッション会場は、もう既に白熱していた。




 そして翌日。


 何故か僕は、一人。この間のルートを歩いていた。


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