39.僕の日常
姉に、出入船待機ロビーの話をしたらすぐ理解してくれた。ちょうど、執行部会議をしていたみたいで、そのままで全員で出入船待機ロビーに向かったようだ。
似たような未来だけれど、少しずつ細部が異なっている。
今回僕は現場に行かないから、この後どんな結果に進むか全く分からないんだけれど。
「どうなると思う?」
「たぶんまたイブキは、話で聞いたキジンさんと遭遇するんだと思うわよ」
「ふむ。前回は我はこの場にいなかったのだな? 少し、楽しみではあるな」
「それならこのあと辺りかな?」
『ダンジョンへの新規入場者を確認。入場処理を開始します』
「お、始まったみたいだ」
そんなわけで、引き続き植生調査をすることにした。
マシキのリアルタイムでの報告が続く。二度目だから、何となくこのあとの経過が読めるのが面白い。……いや、面白いのか?
『魂を確認しました。各個人の通信端末を確認。端末に魔式を導入しました。標準言語として、日本語を魂に直接書き込みました。方舟住民データベースに、個体情報を仮登録しました。本登録は入船管理局で直接処理をお願いします』
「ふむ、方舟に入ってきたみたいだな」
ミモザと一緒に、本当に適当に植樹したって分かるバラバラな植生をデータ化していく。ある程度植生データが揃ったところで、マシキ経由で入れ替え処理をすると、パソコンのデータもリンクしているみたいで、自動的に情報が書き換えられていた。地味に便利だな、マシキ。
『停泊所に入場した船10隻の解析が終了しました。対消滅機関を主動力に、局地的な重力場制御で推進していることを確認。データベースにある船舶に、システムの一部が類似しています』
「あら、イブキの知っている前回と、何か違うみたいね」
「そんな感じだな。前はゴブリンだったけれど、今回は別の種族なのかな?」
時計を見ると昼の12時をまわっていた。フィールドワークをしていると時間が経つのが早く感じるんだよな。上を見上げると梢の隙間から、相変わらずドームに烏賊が張り付いているのが見える。
携帯電話のストレージからお出かけマットを取り出して、木陰に敷いてお弁当を広げた。
風が流れていく。
ここで、川のせせらぎとか聞こえたらいいよな。そういえば河川が何も無かったような気がする。どうだったかな?
「川って、無かったよね?」
「雨水用の排水路ならあるけれど、川は無かったはずよ」
『方舟には河川は敷設されていません。計画的に雨を降らせるように天気計画はありますが、その結果ある程度は自然に流れてもいいように地形は作られているようです』
「川、作ろっか」
『地形加工は、DCミモザ経由でお願いします』
パソコンに表示された地図を見ながら、みんなでどこに川を作るか考える。感覚は、クラフト系ゲームのノリだ。関東っぽい地形なんだけど、川が無いのはやっぱり不自然だよな。最低でも、荒川と多摩川くらいは欲しい。
マシキとのリンクは結構便利で、どこに人がいて地形変更のタイミングなんかも分かりやすかった。結果、荒川、多摩川に加えて、利根川を江戸川につなげるイメージで新東京湾に流し込んだ。
『クラーケン系の悪性ウィルス感染を検知しました。被験者の治療、及びエリクシルに抗体情報を登録。方舟全体への散布を開始します』
空気が変わる。
視界が一瞬、紫色に変わってすぐに元に戻った。
森を歩いていて、結構疲れていたのかな。噴霧化されたエリクシルが体を通過した直後に、体がびっくりするほど軽くなった。すごいなエリクシル、霧だよね?
ミモザを見ると、首を傾げている。
「ミモザには効果無い感じ?」
「だってエリクシルって、この体と同じ黒紫蝶が元だもの。でもマシキが散布したものだから、何か違う効果があるかと思って期待したけれど。やっぱり何も無かったわ」
「じゃあミモザには、エリクシルの生体治療効果が無い感じなの?」
「無さそうね。この体だって、イブキからの魔力パス経由で魔力を受けている限り、絶対的に不死身だし」
「知らなかった事実だよ……!?」
それだったら、もうちょっとたくさん魔力持って行って欲しいけれど。さすがにそんな都合よく魔力減らないか。
そもそも僕の魔力器官って普通と違っておかしいらしくて、基本的に1時間で完全回復する。そのまま使わないと、当たり前のようにオーバーフローするんだよな。今までそうやって溢れ出ていた魔力が、空間に対して影響を及ぼしていたわけなんだ。
今は、魔力結晶が余剰分を吸い続けてくれているから、世界エラーは起きなくなったんだけれど。
「普通の人はね、ダンジョンコアに対して常時魔力供給なんて不可能なのよ?」
「そもそも供給しているって今日、知ったんだけど」
「イブキはダンジョンマスターなんだから、当たり前じゃない」
「そうかな。そうかも?」
「イブキよあまり言いたくないのだが。当たり前ではないぞ」
そんな話をしながら、森の小径を横切る時にふと横を見て足を止めた。思わず苦笑い。
「いたよ」
「確かにいるわね」
「ふむ。前もこんな感じだったのかね?」
「タクシーで移動していて、そのタクシーがいきなり止まったんだよね。降りて確認したら、あんな感じだったかな」
道の真ん中に、アンドロイドっぽい女(?)の人が倒れている。服とか着ていないからすらっとした金属質なシルエットが女性っぽく見える。今ならこの人が『機人』なんだって分かるんだけど、あの時は姉かと思ったんだよな。
よく見たら今度は、髪色が白銀っぽいぞ。前回は金髪だったから、こんな細かい差異が出るんだな。びっくりだ。
違うな、そもそも僕が経験した時間より未来の時間軸だから、結果が近い別の事象なんだろう。
「それで、どうするのだ? 我が車になって乗せればよいのか?」
「この間はさ、重くて持ち上げられなかったんだけど、その辺何とかなるのかな」
「イブキが何か魔法使えば軽くならないかしら」
「いや正直迷ってる……」
だってさ、前回と同じパターンだったらこの人、半分くらい不法侵入なんだよな。確かマシキの生き物センサーに引っかからなくて――
『データベースを照合。仮登録のナナナシア星系宇宙船。その船員のうち、魂の照合ができなかった個体です。どうやら透過系の機械により、背景と同化して各船の船員と同時に下船した模様。その後に第1階層にて、下船したナナナシア星エルフとは別行動しています。対象の機人10名を、住民データベースに追加で仮登録しました』
あ、今回はエルフなんだ。携帯電話の画面を追って、情報を斜め読みする。あの日と同じように姉が対応して、都市部へ引率していったようだ。
それよりも、知らない単語が出てきたぞ?
「なあマシキ。ナナナシア星って何だ?」
『星系の座標を調べた結果、現在方舟が向かっているゴブリナ星の座標データと同一のものとなります。また場所は、現在いる銀河系中心点から見て、地球の正対角に位置する星系と思われます』
「ちょっとイブキ見て、動いたわよ」
携帯電話から視線を戻すと、ちょうど上体を起こしたところで、起き上がろうとしてそのまま崩れ落ち、また動かなくなった。
ミモザと顔を見合わせる。
いや、どうしようか。




