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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
宇宙編

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36.機人とロボット

 都心部の病院に着く頃には、既に辺りは暗くなっていた。

 アクセスを考えてか、病院は住宅地と都市部の境目くらいにあって、周辺に明かりがほとんどない。ギリギリ都心というか、考え方によっては郊外の方が合っているかなぁ。まあ代わりに病院が明るいから、目立って分かりやすいんだけど。


 サイレンを止めた救急車が、救急搬送口に止まった。

 降りようとすると、機械の人の意識が戻ったのか、薄目を開けていた。救命救急士さんにお願いして、ミモザと2人で顔を覗かせた。


「取りあえず病院に入るわよ」

「もしかしたら意味がないかも知れないけれど、検査してもらうことになるよ」

「ありがとうございます。自分でもどうしてこうなって……いるのかわ……からな……」


 本当にエネルギーが足りないんだなぁ。

 担架の後について、病院に入って一旦待合室に分かれた。しばらく待っていたら、処置室から医師が出てきた。


「体の構造上の問題なのですが、おそらく放射線不足の可能性が高いですね」

「え、それって有害なんじゃないの?」

「生物にとっては有害ですが、あの機械の人にとっては放射線。正確に言いますと、宇宙線なのですが、動力源が恐らく宇宙線由来の放射線であろうことが分かりました」


 つまり、どういうことなんだろう?


『マスター、恐らく体表で宇宙線を浴びると、体の内部に対して放射線として変換されます。変換された放射線そのものが、動力源なのでしょう』

「へー」

「イブキ、絶対に分かっていないわよ……」


 つまりあれだね、宇宙空間にぽいーすれば、元気になるってことだね。ともあれ困った時の桃華えもん。取りあえずまた、電話してみた。


『やあ、弟よ。何か分かったのかい?』

「えっとね、宇宙線を浴びたら放射線になるらしい?」

『つまり体内にエネルギーとして作用する放射線種を特定して、その放射線を体内で発生させることができれば、通常活動が可能と言うことか。現時点で9体の機械人がそれぞれ別の場所で保護されている。その検査結果はありがたいな』

「どうしてモモカさん、イブキのこの説明で分かるのかしら……」


 僕の予想は違ったらしい。

 まああとは、姉に任せておけば大丈夫だろう。


 処置室から、機械の人が車椅子に押されて出てきた。そのままミモザが受け取って、外に向かって歩き出す。ちょっと待って、どういうことなの?


「病人じゃないから、入院できないのよ。大型タクシーの人が手配されているみたいだから、一旦帰宅するわよ」

「あー、なるほど?」

「もう。イブキってもっと賢かった気がするんだけど。こんなにお馬鹿だったかしら?」

『確かに少しおかしい気がしますね。携帯電話経由で、少し診察してみます』


 ちょっとだけふわふわする頭のまま、ミモザに続いて大型タクシーに乗り込んだ。なんだろう、視界も定まらない。


 椅子に座った途端にとても眠くなって、意識が切れるように遠退いていった。




 見えた景色が、方舟の外部カメラだって分かった。


 大気圏に突入した直後に、外装が大気の摩擦で真っ赤に燃え上がる。その様子を、当たり前のように眺めていた。

 それは、在りし日の地球の姿。


『地球は青かった』


 ガガーリンが見た景色が目の前にあった。なるほど、確かに青い。

 でも何でだろう。その地球が僕がいたあの地球じゃないことに自分の意識が理解している。理解しているんだけれど、僕の頭には理解ができなかった。


 同じようで異なる地球。


 青い海は知っている青だ。でも、地上部分が知っている地球と違う。

 砂漠が、一切ない。ちょうど日本に向かって降下しているみたいなんだけど、アジア大陸の特にゴビ砂漠とか、タクラマカン砂漠とかあったはずの場所に砂漠が一切なくて、陸地の全てが緑に覆われている。

 山脈の形が記憶の地図と同じだから、地理的に間違っていないはず。


 そして何よりの違いが、上空をドラゴンが悠然と飛んでいることか。

 体躯が恐らく方舟と同じか――いやもっと大きな個体がいて、方舟に気がついて大きく息を吸い込んだのが分かった。


 そして、吐き出されるドラゴンブレス。


 ダンジョン壁すら、不壊のはずのダンジョン壁の概念をも破壊したドラゴンブレスは、方舟の後部を貫いた。

 各国の移民船が格納されていた後部が吹き飛び、移民船がバラバラに空中にばらまかれて落ちていく。


 動力を失った方舟前部が、真っ逆さまに日本に向けて落ちていく。


 迫る東京湾。

 形こそ同じ東京湾だけれど、そこに文明の形跡がない、全てが緑に覆われた平原の端に方舟は減速できないまま突き刺さった。大地が、海が吹き飛んで、吹き飛んだだけで最後に何かの力が働いて、関東平野の端に斜めに埋まった。


 意識が混濁して、やがて真っ暗になる。


 それはいつかの未来。ずっと先の、でもそんなに遠くない、確定された運命。

 僕はまた、この未来を覆すことができるのだろうか。僕はこの未来の夢を、憶えていることができるのだろうか。




「……キ、イブキったら。家に着いたわよ」


 夢を見ていた気がする。

 それがどんな夢なのか朧気にしか思い出せないけれど、未来が危ないことだけは理解できた。魔力が八割くらい減っている。ヤバい夢だったんじゃないかな、どうしよう思い出せない。


「もう、イブキ。呆っとしてないで、タクシーから降りるわよ」

「ごめん、降りる降りる」


 慌ててタクシーから降りて、ミモザが車椅子を降ろす補助をする。機械の人は眠ったままで、体が重いから車椅子がキシキシと悲鳴を上げている。金属の塊なんだろうな。そういえば似たような素体の姉は、重いのだろうか?


「ちなみにわたしの体組織は、金属に見えて金属ではないのだよ。逆に父と母は金属素体だから、重さは相当だがね」

「あ……姉さん、帰ってこられたんだ」

「ああ。暇な執行部の面々が、続きを喜んで引き受けてくれたよ。実際、わたしが権力を持ちすぎだって言う声があってね、わたしとしては権力なんてお断りなんだが。そんなわけで、ありがたくお任せしてきた次第さ」

「他の人(?)たちは大丈夫なの?」

「大切な未来の住民候補だからね。お互いに言葉が理解できるというのもあるが、ゴブリンや機人の方が恐縮するくらいには、お持て成しに勤しんでいるよ」


 どうやらこの車椅子に乗っている機械の人が、機人らしい。そういえば、ゴブリンと邂逅した時に姉のことを、機人って言っていたっけ。

 ミモザと変わって、代わりに姉が車椅子を押していった。


「ちなみにだが、科学研究所の奴らがね。保護した機人の許可を得て、体全体をスキャンしたらしい。そして地球の技術で機人の複製にチャレンジしたらしいんだが、ロボットしかできなかったようだ」

「え、人型なんでしょ? ロボットってそんなに簡単にできるものなの?」

「弟も知っているだろうが、ここ方舟は既に人外魔境だ。こと、科学研究所の奴らは特に、アンドロイドとサイボーグが混成した種族チームでね、ロボット工学なぞ昇華前より洗練されている。どうやら片手間だったらしい」


 外見は全く同じ。

 ただ機人の動力メカニズムがどうやっても再現できなくて、さらに人工知能も機人の知能に遠く及ばずなんだって。まあ、逆にエリクシル電源で稼働自体はロボットに分があったみたいだけれど。まあ、電源ユニットとしては優れてるもんね、エリクシル。


『イブキの診察結果が出ました。異常あり、精密検査をおすすめします』


 驚くミモザと姉。

 当然だけれど何の自覚もない僕は、大きく目を見開いた。


 どういう、こと?


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