32.ダンジョンクリエイト
空間の揺らぎ昇華ツアーは順調みたいで、僕たちが着いた時はちょうど巨大門が消えたところだった。
本部棟に向かうと、入り口で待っていた姉が気がついて駆け寄ってきた。
「おや、父と母も来たのか。これから管制室に向かうんだが、一緒に行くかい?」
「俺たちが入っていいなら、是非」
「そうね。少しだけ気になるわ」
そんな、遠足に行くような3人のノリに、僕とミモザは目を見開いて顔を見合わせた。いいのかな、本当に。管制室だよ?
トテトテとオルフェナが歩み寄ってきたのを、ミモザが抱え上げた。
「イブキよ、どうしたのだその鳩が豆鉄砲で討伐されたような顔は」
「ちょっと待って、鳩。討伐されちゃうの!?」
「当然であろう。ここは日本ではないからな、法律はある程度準拠しているとは言え、害鳥なら普通に討伐するはずだ。まあ、ここにはいないようだがね」
「生物とか必要なのかな。考えてみたら、ダンジョンモンスター扱いで動物とか出せるんじゃない?」
「可能ね。コカトリスとかも、出せるわよ」
「いや、そんな危険な鳥出したらヤバくない?」
「大丈夫じゃないかしら。もうじきこの方舟、普通に人外の巣窟になるわよ」
確かにバスから下りてくる人たちに、ただの人間は一人もいない。ハルピュイアも普通にいるし、確かに方舟がファンタジーランドになっていく感じだ。
空間の揺らぎ突入用のバスも2台になっているし、この感じだと誰かがまたバス人になったんだろうな。
「オルフェナ君、済まないが5人乗せられるかね?」
「うむ、問題ない。だが幸彦氏は乗らぬのか?」
「あ、ごめん。6人だな」
そんな姉の凡ミスもあったけれど、家族が全員乗ったオルフェナタクシーは空間の揺らぎを離れて一路、壁際の道路を右回りで走っていく。旧東京都の地図で言うところの東側、そこに大きな扉があった。振り返ると、まっすぐ新東京タワーまで道が延びている。すごいな、ほんとにまっすぐだ。
一旦オルフェナタクシーから降りた姉が、壁際のセンサーパネルに携帯電話をかざすと、ゆっくりと扉が左右に開いていく。再びオルフェナタクシーに乗り込んで、そのまま扉の先の部屋に進んだ。
部屋がゆっくり下に下りていき、程なくして止まった。
「ここが管制室だが……」
「ほんとに、無人なんだ」
大量のモニターが方舟各地のリアルタイム情報を映し出していて、誰もいないにもかかわらず処理されて流れていく。全部の制御を姉が一人でこなしているとは聞いていたけれど、これはさすがにすごいな。
銀河図みたいなのもあって、今いる銀河系の中心に向かっているみたいだ。
その途中で、タコに捕まって、そのあと外宇宙生命体と通信待機していると言う状況かな。
「元は日本政府関係の搭乗員がたくさんいたんだがね。あの日、出航前に揉めてね、全員が下船したのだよ。そうすれば出航できないと思ったんだろうね、出航した途端に通信が鬼のような入っていたが全部無視した。どうせ、止まれとかそんな内容だっただろう」
「それでよかったの?」
「逆に弟よ、あのまま地球に残ってよかったのかい?」
「僕がもし魔法が使えていなかったら、あの時土壇場で間に合わなかったら、海底火山の噴火で方舟は消滅していたんだ。それを考えると、なんとも……」
「つまりあれか、複数の未来があって今はその結果の一つと言うことか。弟とミモザには、未来視があると言うわけだね」
「…………そういう捉え方もできるんだ」
「視えた未来を変えることができるって分かったのなら、恐れるものは無いだろう」
姉が男前すぎる。
そうか、未来視か。言われてみれば僕は、未来を書き換えられたことになるのか。
「目的を先に済ませよう。ほら、弟よ。こっちだ。みんなは適当に、その辺を見学でもしていてくれ」
「わかった桃華。俺たちはそうさせて貰う」
「僕は弟君と一緒に見ていようかな」
キャプテンシートに座った姉の左右から、僕と幸彦さんが画面をのぞき込む。
表示されていたのは、方舟の全体図だ。僕が見ているのを確認して、画面を触って全体図を回転させた後、拡大と縮小を一通り動かして、僕の方に顔を向けた。
「さて、どうできるんだい?」
「さっきの話だと、どこかに扉と部屋を増やせると思うんだけど。ミモザ?」
「後ろにいるわよ」
ミモザと手を繋いでから、再び画面に視線を向ける。
「場所は、どこがいい?」
「そうだな。海面上にあった入り口の一つ、たぶんここはわたしたちが最初に入った入り口だと思うのだが、ここならどうだろう。ここから割合近いはずだ」
「分かった。ちょっとやってみるよ」
横から画面に手を伸ばして、目的の扉を正面に拡大する。
扉の大きさを、ちょっとした戦艦級の宇宙船も通れるくらいまで大きく広げる。そして二重隔壁をその先に設置。中の空間は同じく戦艦級が横に並べるくらいの空間を確保。
可動式のタラップを左右に四基ずつ配置し、中央の奥に入り口を配備し、その奥に減圧室を設置。隔壁を二つ挟んで、やっとエレベーターロビーに繋がる。
こんな感じか――。
イメージを固めた直後、膨大な量の魔力が、ミモザに向かって流れていく。繋いだ腕が燃えるように熱く痺れて、慌ててもう片方の手をミモザに伸ばし繋いだ。
画面の中の扉が、あり得ないくらい大きくなって、その奥の部屋が同じくらいに縦に引き延ばされた。でも、変化はそれだけだった。
魔力の流れが止まる。
恐ろしいことに、魔力は1パーセントすらも消費していなかった。
「あのね、イブキ。普通の人だったら、さっきので10回くらい命落としてるわよ?」
「…………マジで?」
「いったい、どれだけの規模の部屋を作ったのよ」
「えっと、戦艦級2艦分かな」
「それを空間拡張して、実際に使った空間はその全体図の空間だけ。いやほんと、バカじゃないの? 外の、あの小さな宇宙船を数十隻乗せるだけなのよ。その50分の1でも十分じゃない。それで、どのくらい残ってるのよ、魔力。カツカツなんでしょう?」
「えっと……体感だと、99パーセント以上?」
「………………はあっ?」
この後、ミモザに思いっきり呆れられた。どれだけ魔力増えているんだ、と。
参考までに。
ミモザと姉がプロデュースした携帯電話の魔式。あの携帯電話でストックできる魔力の最大値が約1万らしい。
先日姉が使った黒焔の魔式。あれが一秒辺りの消費魔力が10らしくて、1分で600使用して、10分も使えば6000消費する計算なんだって。クリーンは一回で500だって言っていたかな。
ちなみにダンジョンコアであるミモザは、コアとしては10万の魔力保有なんだとか。つまりさっきだけで僕は、ミモザの最大値分の魔力を消費したらしい。
これは、異空間収納の拡張急がないとヤバい気がしてきた。
「ふふふっ、なんとも弟らしい」
「ははは、規格外だとは思っていたけれど、さすが僕らの弟君と言ったところか」
何て姉夫婦に笑われる始末。
ともあれ、あの外の異星人らしき人たちとの対話のため、新しく作った外宇宙用の隔離ドッグに向かうことにした。
さて、どうなることやら。




