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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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3/4

3.自衛隊の出張所

 あれから小一時間。

 出発するのを延期してまで色々と検証した結果だけど、魔法っぽい力についていくつかわかったことがあるんだよね。


 まず、超能力じゃなかった。


 ほら、テレパシーとかテレキネシス、テレポートみたいな定番能力あるよね。そう言うのとは全く違ってて、あくまでこれは物理変換なんだ。

 手のひらから火を出したり、水を溢れさせたり、物理的な結果が伴う現象しか起こせないみたい。

 ちなみに明かりの球、触ったら手が痺れた。たぶん電気的な何かなんだと思う。

 じゃあ魔法でいいよねってなった。


 次なんだけど、別に詠唱とかいらないみたい。


 何となくこうしたいって意思だけで、色々と使えた。

 ただ問題はあって、さっきの『ライト』は、唱えると球体のいわゆる魔法の明かり、みたいなちゃんとした魔法になるんだよね。だけど、ふわっと『明かりが欲しいな』で使ったら、電球が出てきた。

 光っているリアルな電球が床に落ちて、カランって音がした。

 なんで電球?

 まあ、割れないっぽかったから電球っぽい何かなんだと思うけれど。


 他には、水が欲しいって思ったら蛇口だけ出てきた。取っ手を捻ったら普通に水が出てきたから、蛇口の形の何かなんだと思う。

 火はライター、ファイヤーボールっぽいのイメージしたら火炎放射器が出てきたから、恐らく詠唱しない場合は深層イメージが反映されるっぽい。


 あとは、消費の検証もしてみた。


 1ポイントをイメージしながらライトを唱えたら、フラッシュライトみたいに一瞬だけ弱く光って消えた。ウォーターは何となく湿った程度。ファイアは失敗したマッチの火でわかるかな? 詠唱魔法の最低レベルは100くらいだと思う。

 逆に例の電球は、1ポイントで作ったら10分くらい光っていた。基準がわからない。無詠唱魔法が違う意味で最強なのかもしれない。




「こちらは自衛隊木曾出張所です。当出張所を利用するには、身分証明書の提示が必要になります。公的な施設のためご理解、ご協力のほどよろしくお願いします」

 廃村を出発してから3時間。国道に出たところで、運良く自衛隊の除灰車両に居合わせた。

 好意で後部座席に同乗させて貰って、夕方にここ自衛隊の除灰ベースに着いたわけだ。途中で通過した廃町に、徒歩だとさらに1時間ほどかかる予定だったから、かなり運がよかったんだと思う。


「マイナンバーカードで?」

「問題ありません。お借りいたします……はい。お待たせいたしました」

 内心ドキドキで手続きを待つも、あっさりと手続きを終えて安堵のため息が漏れた。


 もうね、無理だと思った。

 だって違う人だし。ここに顔認証とかあったら、絶対に違う人扱いになっていたよ。本人なんだけどね。


「滞在に特に制限はありません。移動をご希望であれば明日は、伊那シェルターと松本シェルターに除灰予定があります。中津川シェルターであれば休日を挟んで月曜日を予定していますが」

「松本でお願いします」

「かしこまりました。担当に連絡を入れておきます」


 階段を上って二つ目の部屋に入り、たくさん並んでいたベッドの一つに腰を下ろした。

 夕暮れ時らしく、窓から見える灰色の景色がうっすらとオレンジ色に染まっている。部屋の角に置かれたテレビには、週間天気予報が表示されていた。

 どうやら明日は雨が降るらしい。


 元々は小学校か中学校の校舎だったんだと思う。

 天井から鎖でつり下がっている蛍光灯が懐かしい。十数年前は、まさか未来で、世界が滅亡の危機に瀕するなんて、想像すらしていなかった。


「柏崎さん。すみません」


 哀愁に浸っていたら、先ほど受付をしてくれた女性から、食事の時間を教えて貰った。

 しきりに頭を下げて戻って行ったけれど、無理も無いと思う。今時、地上で活動している人なんて、自衛隊か頭がおかしい研究者だけだから。ちなみに僕は頭がおかしい方なんだけれど。


 時計を見ると既に夕食の時間が始まっているみたいで、ガスマスクやタオルを外して身軽になってから、早速食堂に向かった。




 家庭科室な食堂に、思わず笑みが漏れる。壁に貼られた案内書きによると、各固定テーブルで自炊とかもできるらしい。材料なんかは時価だそう。

 僕はトレーで本日のおすすめを受け取ると、あえて窓際にあった折りたたみテーブルについた。温かいお茶が身に染みる。


 世界、変わったわけじゃ無かったんだな。

 ここまでの車内から、施設にいる人たちまで、みんな普通の日本人だった。詰まるところここは日本で、遭難する前に知ってる景色のまま。

 そうなると僕は、一体何者なんだろう。


「おいっ、遭難してた篤輝が戻ってきたんだって?」


 生姜焼きの絶妙な味加減に感動していたら、食堂の入り口から大声が聞こえた。いやこの声聞き覚えがあるぞ。

 昨日だ。防護服姿の僕を、除灰ついでに山の麓まで送ってくれた郷田さんだ。


「郷田さんっ」

「2週間も音沙汰なしでどこにいた……って、誰だおまえ?」


 手を上げた僕の方を見た郷田さんが、眉間にしわを寄せて固まった。僕も手を上げたまま固まる。

 いや、まずい。

 別に悪いことをしているわけじゃ無いのに、思わず目を反らしていた。


「あー、なんだ。ちょっと待ってろ」


 ゆっくりと手を下ろす。

 どうしよう。まさかここで知り合いに会うなんて思ってもみなかったよ。もっとも郷田さん、松本シェルター近郊の除灰担当だから、ここにいても別におかしくは無いんだけれど。


「新しい防護服はどうした? 戻ったら値段、教えてくれるんだったよな」

「あ、ちょっと待って。多分メール、来てると思う」

「…………ああ」


 テーブルの向かい側に、夕食のトレーが置かれた。椅子に座った郷田さんは、訝しむように目を細めて僕を見下ろしてくる。そういえば別れ際にそんな約束をしたっけ。


 ポケットから携帯電話を取り出して、電波が届いていることを確認する。癖で音を消していたから気づかなかったけれど、メールをはじめメッセージアプリに結構な数の通知が来ていた。

 買った防護服の連絡はEメールだったかな。

 リストをスライドさせていくと、購入先からメールが来ていた。


「えと、825万かな」

「阿呆か。防護服なんざ、噂のエリクシル付けたって10万も出せば十分だって言っただろうに」

「宇宙服とほぼ同性能だって、僕言ったよね? モノホンは15億とかするから、逆に格安に決まってるじゃん」


 いつもの会話。

 見上げた郷田さんの眉間からしわが消えていた。


「何があった。おまえが柏崎篤輝だってことはわかった」

「あ……」


 視界が滲む。

 気がつけば、昨日からの。少なくとも僕の中では昨日崖から落ちてからの、思い出せる限りの話をしていた。もちろん『魔法』の話は除いて。 


 食事の時間が過ぎて、窓の外が暗くなる。

 話の途中で郷田さんのお腹が鳴って、二人して大笑いした。すっかりと冷め切った食事は、でもなんだかとっても温かく感じた。

 やがて僕たちがいる近くの明かりだけを残して、部屋の明かりが落とされた。テーブルにそっと置かれた魔法瓶に、優しさを感じる。


「つまり、何もわからないと」

「うん」

「2週間経っている。昔から聞く、神隠しみたいなもんかもしれんな」

「どうかな。少なくとも異界には行っていないかな」

「戻ってきた人は、だいたいそう言っているらしいぞ」


 トレーを洗って、食器を伏せる。

 あとは、特に関係の無い話をしながら、階段を上がってベッドがある部屋まで歩いた。郷田さんはこのあと、事務室に戻って日報だけ書いてから寝るらしい。


「まあこんな時勢だ。遭難しても完全に自己責任だし、実際半年前からかなりの人が遭難から行方不明になっている。だが、よく還ってきた」

「うん……」


 大きな手が僕の頭に乗せられた。


「大学に戻るんだろう? 明日は俺の除灰車だ。まあゆっくり休め」


 そう言って、郷田さんは階段を下りていった。


 ゆっくりと息を吐く。

 ベッドに横になると、安心したのかな。すっと眠りに落ちた。


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