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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
宇宙編

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29.魔式使い桃華

「我が左手よ、地獄の業火を、ここに顕現させるのだ。ヘルフレイムっ!」


 庭では、何故か黒のロングコートを着た姉が、右手を腰に、そして左手を上に伸ばして謎の呪文を唱えている。詠唱の途中から左手の平の先の空間が揺らぎ、詠唱の終わりとともに漆黒の焔が吹き上がった。


 なんだか嬉しそうに震えている姉を横目に、僕は縁側でお茶を飲んでいる。僕の横ではミモザが、姉の魔法に感嘆の声を上げている。すごいよね、確かに魔法だ。

 ネットの掲示板とかでも、喜びの声(?)みたいなのに『魔法っ、うおおおぉ』みたいなのが書かれていたし、どうやら今のトレンドになっているっぽい。


「ところで、いつの間にこんな『魔法アプリ』作ったの?」


 朝起きたら携帯電話の画面、その一角に『魔』のアイコンの魔法アプリが鎮座していた。昨日寝る前には確かなかったんだけれど、今朝気がついたら入っていた。そんなアプリも、僕はエラーで起動すらできなかったんだけど。

 そっとアンインストールしようと思ったけれど、システムアプリ扱いで消せなかったんだけどさ。嫌がらせかな。


「わたしが魔法を使えるようになったあの日さ。ミモザ君と徹夜で考えて、翌朝には方舟の全携帯電話端末に強制インストールしたよ」

「内容はね、基礎の生活に使える簡易魔法から、応用魔法や上級魔法辺りまで基礎詠唱文も含めて表記済みよ。現在の魔力量なんかも表示される、親切設計なんだから」

「詠唱は必須なの?」

「もちろん。携帯電話を介して魔法を使うから、魔法の起動に詠唱は不可欠よ。詠唱と言えば、アプリ内に『僕が、私が考えた魔法』のコーナーがあって、投稿した魔法アイデアにみんなが『いいね』したら、魔法登録されたりもできるわね」

「なにそれ、僕もそれやってみたいんだけど」

「あー、弟は無理だろうな。ミモザ君も言っていたけれど、それこそこの魔法システムは弟の下位互換だから、そもそもがアクセス不可能だろう。ただ他の機能アプリ、ステータス表記や携帯ストレージなんかは使えるはずだぞ」


 僕だって、詠唱すればちゃんとした魔法が使えるんだぞ?


 庭に下りて、未だ左手を上に伸ばしている姉の横に並んだ。ちらっと顔を覗くと、ちょっと嬉しそうな姉と目が合った。金属質の肌が、光り輝いている。


「ほう、弟もこのヘルフレイムを使ってみるのかい」

「そうだね。若干、詠唱が厨二っぽい気はするけれど。いや、意識したら恥ずかしいな」


 未だにゴウゴウと黒焔を吹き上げてる姉に倣って、右手を腰に、左手を上に伸ばした。この時点で何だか自分の姿が滑稽に思えて、腹筋が震えだした。やばい、笑わないようにするにはどうしたらいいんだ。


「さあ、弟よ唱えるのだ!」

「我が左手よ、地獄の業――駄目だっ、くふふふふっ、無理だって。ふふふっははははっ」


 そして詠唱の途中でもちゃんと発動するのが僕の魔法。虚空に出現した2メートルほどの真っ黒な蛍光管を、慌てて左手で掴んだ。その途端に、黒色に発光する僕のヘルフレイム(?)。

 いや、相変わらず謎魔法だな。見た目は普通より明るいブラックライトに、みんなで大笑い。


「うふふふ。ちょっとイブキ、それ何の魔法なのよ? あははは」

「ぐふっ、どうやって魔法を使ったら、そんなのになるのだ。ふふふふ」

「はははは、でも僕の魔法はいつもこんな感じだけどね」

「いや、実際何なのだその、イブキの魔法は?」


 何って、何だろうねこれ。

 ブラックライト自体は紫外線を照射するんだけど、似ているけれどどうも違う感じ。ほら、ブラックライトってちょっと青みがかった色とか、紫色とかじゃん。これ、本当に黒く光っているんだよ。

 いや黒く光るって何だろう。


「ところで姉さん。その黒焔の魔法って、何か効果あるの?」

「いや、何もないが? わたしの、かっこいい魔法使いのイメージがこれなんだが。実体があって、炎と同じように周りの空気が揺らぐけれど、燃えない。熱くないからほら、手を入れるても何かが撫でていく感じだけの無害魔法さ」

「それで、再現した僕のも光っているだけの何かか。納得」


 黒焔に手を突っ込んでいる姉を真似て、僕も姉の黒焔に手を入れてみた。うん、確かに熱くないし、何かに撫でられている感覚だけがある。つまり確かに魔法なんだけれど、そのエフェクトだけを楽しむ魔法ってことか。


「他にも、そんな感じの無害な魔法ってあるの?」

「そうだな。おすすめは生活系魔法の代名詞であるクリーンか。これに関してはだね、直接プログラム書いたからね。けっこうな自信作なんだ」

「へぇ…………待って、プログラム書いたって、何?」

「言葉通りだよ。そもそもクリーンなんて、そのままだとかなりアバウトな魔法だったからね、条件を絞らないと消費魔力が莫大な量になる。それを回避するために、今回だと例えば体に作用するのは病原菌とウィルスの除去のみ。衣服なんかには、記憶を参照した初期状態への回帰だけを指定して、効果を絞り込むことによって、消費魔力量を少なくしたのさ」

「いや、魔法だよね?」

「もちろん。魔法だ」


 もちろん。魔法だって、いやマジで?

 僕の魔法も大概規格外なのに、この新しい携帯電話経由の魔法の、なんとも自由なことか。魔法としては、共通の規格を作ってみんなで運用するようになってはいるものの、そこまでの過程がぶっ飛んでいる。

 そもそも、魔法をプログラム化している時点で魔法じゃなくね?


「あのさ、それで魔法って呼び方は何か違うと思うんだけど」

「ふむ、確かにイブキの言うとおりだな。既存の魔法とは、モノが違うかも知れぬ」

「ならば、何と呼ぶ?」

「えぇ……じゃあさ、プログラムを漢字だと程式とか書いた気がするから、『魔式』とか?」

「ではそれで」

「えぇぇ……」


 黒焔を止めた姉は、縁側でゆっくのしていたミモザを伴って家の中に入っていってしまった。

 思わず僕は、オルフェナと顔を見合わせた。


 どうしてこうなったんだろう。




 結果的に、ちょっと前まで魔法アプリだったものはあっという間に、魔式アプリに変わっていた。

 ネットの声が気になって見に行ったら、概ね好評なのには驚いたかな。使用者参加型の魔法ってところが元々良かったところに、魔式の呼び名は何だかかっこいいらしい。


 厨二の人、多いんだなあ。

 そもそもが保守派だったら地球に残っていただろうし、わざわざ危険を冒して方舟に乗り込んだ人なんて、大抵が子供心ある大人なんだろうな。とっても、納得した。




 さて、それはそうと僕らはまたあの『空間の揺らぎ』まで来ている。


「いやしかしまさか、最初の抽選に父と母が当選しているなど、思いもしなかった。ちなみに、家族だからって特別に便宜を図るなど何もしていないぞ? ほんとだぞ?」

「もう、桃華ったら誰に言い訳しているのかしら」

「そうだぞ。俺たちは運だけはいいと自負している。まあ実力だろう」


 バスでの突入から2週間。一番先頭の一人がバスと融合して謎種族になったトラブルはあったものの、無事に全員戻ってきた。その結果をもって、方舟乗組員全員の空間の揺らぎの通過計画が、正式に始まった。

 ちなみにそのバスと融合しちゃった人。どうやらバス化すれば揺らぎを再通過できるようになったみたいで、専属の運用バスになった。いいんだか悪いんだか。


 そうして正式に『空間の揺らぎ昇華ツアー』が始まって、最初の100人が空間の揺らぎに出発した。何だろうね定員100人のバスって。見た目は普通の大型バスなんだけど、外から覗いたら通路が3列あった。謎すぎる。


 そしてバスが全て空間の揺らぎに吸い込まれた直後、揺らぎが激しく波打った。

 同時に発生したスパークが弾けて、ついたてに当たって爆発する。


 全員が、息を呑んだ。


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