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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
宇宙編

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27/38

27.ただいま、イブキ

 魔法が使いたい。

 そんなことを、まさか姉の口から聞くとは思わなかった。


 いつもの夕食のテーブル。

 父、母、姉。幸彦さんに、オルフェナ。そこに僕を含めて、ほんとうに普通の夕食だった。


 母にしては珍しく、おかずの野菜炒めをフライパンのままテーブルに出していた。そういう時に限って、父に電話がかかってきて、父の分だけ残して食事が終わった。

 で、冷めた野菜炒めをもう一度温めようとなった時、ふと思い立って僕が魔法でフライパンの下から炎で温めた。


「統計の話なのだが、ほぼ全員に『権能』的な能力はあるのだがね。弟のように魔法を使える者は、全体の一握りしかいないのだ。現時点、70名の昇華者のうち3人だけだ」

「権能とか、人外の能力が使える時点ですごいと思うんだけれど」

「だが、しかし。わたしは、魔法が使えないのだ。そして、魔法が使いたい」


 父と母に目を向けるも、黙って首を横に振っている。幸彦さんなんて、苦笑いで僕から視線をそらしている始末。

 そういえば姉は、昔から一度何か目標を定めたら、絶対に突き進むタイプだったか。今回は、それが魔法だったと言うだけなんだけれど。


 少し昔なら、そんな非科学的なことは絶対に信じていないし、何なら否定していたクチだったはずなんだけどなぁ。


「何か当てはあるの?」

「ないな。強いて言えば、弟が何とかしてくれるはずだと信じている」

「いや、そんな無茶な。僕だって何でどうして、自分が魔法を使えるのか分かっていないんだけど」

「むう、弟の限界はもっと上のはずなのだが」

「……ねえイブキ。多分だけれど、何とかなると思うわよ」

「なにっ、ミモザ君その話、詳しく――」


 そうして翌日。僕は再び、件の警察署に向かうことになった。




 オルフェナはやっぱりタクシーだった。

 何を言っているか分からないかも知れないが、僕も何を言っているか分かっていないんだよね。


「さあ、我の中に乗るが良い。別世界の我も、別種の車だったからな。なに、走ることは慣れておる」

「…………もこもこ?」


 昔のアニメに『となりのトトロ』って言う有名なアニメがあって、その中に『ねこバス』っていう乗り物(?)があったと思う。イメージはあんな感じで、その羊バージョンというか、六つ足羊の背中に屋根付き空間があって、そこに椅子がある。乗車定員は6人の小型タクシー。


 出かけるために外に出て、姉がタクシーを呼んだから待っていた。その直後かな、オルフェナがムクムクと大きくなって、謎生物タクシーに変化したわけなんだけど。


「その……どうなっているの?」

「我の感覚的なものなんだが、権能がタクシーで、本質が獣。だからこういう姿なのであろうな。初めてだが、悪くはない」

「タクシーの機械要素が、全然ないんだが。原理としては有袋類のイメージを拡大解釈した感じか。面白いな」

「魔法的な要素もないわね。不思議だわ」

「あ、タクシー来た」


 姉が呼んだタクシーをキャンセルして、二人と一機でオルフェナに乗り込んだ。あ、一機はミモザのことだね。

 オルフェナタクシーがぬるっと走り出す。音もなく滑るように駆ける様は、なるほど生き物なんだろう。ただ何というか、背筋にぞわぞわ来るものがある。これは、慣れそうにないんだけど。どうしよう。


 ただ、あっという間に警察署に着いた。

 いったい、どのくらいの速度が出ていたのだろうか。考えてみたら、塀を跳び越えて屋根の上とか走っていなかったか?


「久しぶりだね。元気にしていたかね?」

「あれ、野田さん? 何でここに」

「私が所属していた自衛隊はね、日本の組織なんだよ。だから地球を出た時点で正式に解体させて、それぞれ好きな仕事に就いたのだが、私はみんなに推されてね。ここの署長をさせて貰っている」

「野田殿、メインエンジンルームに下りたいのだが、許可をいただけるだろうか」


 姉の問いに野田さんは頷きつつ、カードキーを姉に手渡した。


「形式上、本日のみの許可になる。まあ、柏崎君は本来許可なんていらないんだけれどね」

「そうなんです?」

「ああ。暫定だが、この方舟の船長だ。一月もすれば、許可もいらないだろうが。待てなかったと言うことなのだろう」


 え、姉が船長とかマジで?


「魔法使いだぞ、待つわけがないであろう」

「ところで私も、その……君のように、昇華はできるのかね?」

「空間の揺らぎの通過だが、来週の後発チームの帰還をもって、一般に開放される予定ではいる。正式にアナウンスされた後は、恐らく抽選にはなるが全員昇華させたいというのが、上層部の考えだな」

「そうか、楽しみに待つことにしよう」


 いつの間にか、姉は上層部になっていたらしい。


 野田さんと別れて、警察署内の下層エレベーターから、最下層へ降りていく。

 農業層、工業層、海洋層を通過して、最下層である機関層に下りる。連絡通路を歩き隔離扉の前に辿り着いた。

 確かあの時はこの扉を破壊して、中に入ったんだっけ。もう、懐かしい思い出だ。いや、全然懐かしくないな。必然だったとは言え、もう一回って言われたら躊躇する。


「ここは何処なのだ?」

「この隔壁扉の先に、メインエンジンルームがあるんだ。今あるのはエンジンじゃなくて、ダンジョンコア。ミモザの本体なんだけどね」

「エンジンはエンジンで、私の周りにちゃんと残っているわよ?」

「ミモザっていつも僕の携帯の中にいなかったっけ。何で知っているの?」

「意識は携帯の中だけど、情報の共有程度はできるわよ。イブキが携帯をテーブルとかに置いた時限定だけど」


 壁のに認証機器に差し込むと、隔離扉が奥に向かって一つずつ開いていく。

 僕と姉、そしてオルフェナはゆっくりと通路を進んだ。


 そして僕は、一月ぶりくらいに、メインエンジンルームに入った。


「さあ、まずは目的を果たそうではないか。さあ、さあ、さあ!」

「待って姉さん、まずミモザの本体まで行かなきゃ」

「実際のところなのだが、何をするのだ? ダンジョンコアでできるのなんて、ダンジョン改修程度だと記憶しているが」

「そういえばミモザ、何するの?」


 あの日と同じ、真ん中のメインエンジン――もとい、巨大ダンジョンコアを中心にして、周囲を円形に囲むように数百機の補助エンジンがあって、静かに稼働音を立てている。

 中心まで進んで僕らは、ダンジョンコアの前で立ち止まった。


 綺麗な紫水晶だ。

 最後に見た時は普通に、エンジンとして稼働していたはず。でも今は、あの時と同じエンジンの形のまま、その全てが紫水晶に変わっていた。エネルギーさえ送れればいいんだと思う、回転はおろか振動すらしていない。


「携帯電話、掲げて」

「うん、わかった」


 画面を、紫水晶に向ける。

 細い紫の糸が、画面から紫水晶に向かって伸びていって、触れた時に少しだけ白く光った。光は紫水晶の中に波紋のように広がって、波紋が幾重にも重なっていく。


 僕たちが見ている前で、ゆっくりと白い光に向かって紫水晶が集まっていく。エンジンがもとの鋼色に戻っていき、光に集った紫水晶はやがて、人型になった。

 頭から徐々に、ミモザに戻っていく


 呆然と僕は眺めていた。

 あの日失ったミモザが再び、僕の前に立っていた。


「ただいま、イブキ」


 視界が滲んで、言葉が出てこなかった。そっと手を伸ばし、ミモザの体を引き寄せた。体温が、心臓の鼓動が、感じられる。

 まさかここでミモザに再び会えるなんて、想定していなくて、後で思い返すとすっごく恥ずかしいんだけれど、泣いた。胸がいっぱいになって、大声で泣いた。


 涙って枯れないんだなって、そんくらい泣いた。


「よかったな、イブキ」


 足下で僕を見上げていたオルフェナも、目が潤んでいたのに。


 やっぱり姉は、姉だった。


「それで、だな。ミモザ君、わたしの魔法は……?」

「それは、地上に戻ってからよ」

「………………えっ、わたしの……魔法……」


 もう、台無しだよ。


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