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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
宇宙編

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23/38

23.小玉羊

 そろそろお昼になるかなと思って、森の中。携帯電話のストレージから、テーブルと椅子を取り出した。

 ふと、視線を上げて固まる。


「えっと……何で羊?」

「うむ。なぜと問われても、我は羊だが」


 何でだろう。羊がいた。


 まずその外見。

 大きさはマスクメロンくらい。まん丸な体につぶらな瞳。頭にはねじれた角が2本生えているんだけれど、そもそも自然界にこの大きさの羊は存在していないはずなんだ。

 羊毛は真っ白で、汚れ一つも見当たらない。


 そんな小玉羊が、ひょっこりと藪から出てきた。藪から棒に。何だっけ、藪から棒って。


「ちょっと、イブキ? どうかしたの?」

「ふむ。既にミモザ殿とも合流済みと……」


 父と母は、方舟の下層第一層で農業を始め、姉さんと幸彦さんはどうやら方舟執行部とやらに入って、本格的に方舟の運営に乗り出した。

 4人ともに、まあ妥当な進路だと思う。


 そんな中で僕は、一人で会社を立ち上げた。

 まあ、聞こえはいいんだけれど、実際のところ区役所に会社の登記申請をしただけなんだよね。社員は僕一人。実際にはミモザもいるんだけど、公にできないし、公式に人数カウントすることもできないから、そこも加味するとやっぱりぼっち会社なんだ。


「羊さんは、ミモザのことを知っているの?」

「無限にある因果の中で、3回ほど。見かけた程度だ。だがしかし、運命という流れで見たら特大の特異点ではある」

「えっと、じゃあ僕のことは?」

「知らぬぞ?」


 そう、羊だ。

 そしてなぜか喋る。


 実際のところ、見なかったことにして去ろうかな、なんて思ったんだけど、この、なんて言うのかな胡散臭い羊に思考が一瞬止まった。放置したら放置したで、なんだか誰彼構わず迷惑をかける予感がして、絶賛困惑中ってとこ。


 僕が森にいるのも、一応は仕事としてここにいるんだ。ミモザとの約束で一緒に植生の調査をしている。

 調査しながら話しの中で、方舟自体をダンジョン化しているから、ある程度、植生の調整なんかもできるって聞いて、詳しく相談しようとしていた。


 そこに、藪から棒。


 間違えた、藪から羊。


 僕の携帯電話が、腰元からからふよふよと浮かび上がって、僕の顔の横まで来た。

 最近はミモザも結構自由に動くようになって、今日みたいに周りに誰も居ない時とかは、僕の周り限定で自由に飛び回るようになったんだよね。携帯電話補が。

 どうやら、携帯電話のカメラ越しに視界が確保出来るらしい。


「え、なによこの羊。可愛いじゃない」

「確かに我は羊だが別の世界線では、オルフェナと呼ばれている」

「あ、やっぱり可愛くないわ。何で喋るのよ。意味わかんないこと言っているし」

「でもこの羊さん、どうやらミモザのこと知っているらしいよ?」

「えぇっ、ストーカーとか、キモい」


 お腹の空き具合から、そろそろお昼かも。

 目を離した隙に居なくならないかな――そんな思いで見た腕時計はジャスト12時。視線を戻しても、いるよね羊。知ってた。


「どうしようミモザ。姉さん呼ぶ?」

「モモカさんは、どうかしらね。万能に見えて、本質は機械よ? 使っているデータベースは地球のものだし、喋る羊なんて、データに無いんじゃないかしら」

「そうかぁ。だったら、楢崎教授はどうかな」

「物理学者だったわよね。でもあの人、属性が脳筋さんよ? たぶん何の役にも立たないわ」

「うわ、辛辣だなぁ。あとは、津田教授夫妻とか?」

「ヨシヒロさんは鉱石に詳しいみたいだけど、基本は鍛冶よ。タミコさんも、植物には強いけれど、そこの羊は普通に動物? 動物って、喋るのかしら?」

「いや、喋るのなんて人間だけだよ?」


 こうして僕らが話している間も、じっと何かを待っているように佇んでいるんだけど、正直言って嫌な予感しかしない。

 おにぎりを食べて、お茶で喉を潤したら、簡易テーブルセットを畳んだ。ミモザに一言断りを入れて、携帯電話を掴んでテーブルセットにかざす。ピロンなんて音とともに、テーブルセットが消えた。

 便利だよね、携帯電話のストレージ。


「幸彦さんとかはどうかな。確か、動物の研究していなかった?」

「無理だと思うわ。そこの羊が逆に研究対象になるだけよ。ゴーダさんたちも無理だって先に言っておくわ」

「だよね。知ってた」

「ふむ。準備ができたようだな、では行くとしよう」


 画面のミモザと顔を見合わせて、僕はため息をついた。

 羊、もといオルフェナは僕の足下まで来ると、そのつぶらな瞳で僕を見上げてくる。なんだか尊大な言葉遣いは、楢崎教授とキャラかぶりしてないかな。そんなどうでもいいことを考えながら、取りあえず仕事の続きに取りかかる。


 左手にノートパソコンを持って、見える範囲大体3メートル四方の植生をデータ入力していく。データにある周囲一キロの植生バランスを見て、木の差し替えをミモザにお願いしてみた。


「すごい、木が入れ替わった。ちなみに、動物とかを追加することってできるの?」

「そうね。ミノタウロスとか、オークとか出現するようにもできるわね」

「いや待って、それ動物違う」


 そんなことを喋りながら、バラバラだった植生を整えていく。地球でも、こんなことができたらさぞかし楽だっただろうな……なんて考えながら斜め後ろに視線を向けた。

 オルフェナがいた。僕の視線に気づいて、顔を上げる


 やっぱり、付いてくるんだ……。


「えっと、オルフェナさん? ちょっと聞いてもいいかな」

「ふむ。どうしたのだ、イブキ殿」

「どこまで付いてくるのかな?」

「まず、この世界に大きな歪みが生まれた。それが大前提なのだが、そこは理解いただけるかな?」

「いや全然。歪みってなに?」

「そこから、なのか……」


 なぜか、オルフェナに呆れられてしまった。

 いやだってね、何のことだかさっぱり分からないんだもの。そもそも、質問したのに速攻で話そらされてるし。


「まず歪み。今回の場合ならば、局地的に迷宮が生成された。そしてそれが定着したわけだが。それがこの世界の歪みとして、認識されたのだ」

「あもしかして、方舟とミモザ?」

「そうそう。言ってなかったけれど、イブキ。あなたがここのダンマスよ」

「……え。ダンマスって、なに!?」


 話を聞いて分かったことをまとめると、定着していなければ歪みにカウントされないんだと。例えば僕や姉さんたちが、あの木曽の崖の途中で通過した空間の歪みとか。あれはいずれ消える。

 さらに個人。僕がハーフなエルフなこととか。あと姉たちのチーム狂った教授の面々とかは、たとえ神がかった権能を持っていたとしても、そこまで世界に影響がないらしい。


 で、駄目なのがダンジョン『方舟』。完全にこの世界の理と違うから、観察者としてオルフェナが生まれたのだとか。


「世界羊の我は、観測しなければならない。であるからして、必然的にイブキ殿について行く。すまないが、理解して欲しい」

「ふーん、ならまあいっか」

「ええ。問題は無いわね」

「……かたじけない」


 てなわけで、オルフェナが仲間になった。


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