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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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21/40

21.ありがとう、さようなら

「ミモザ、待ってってば!」


 ミモザが破壊した扉が散らばるメインエンジンルームはものすごい熱気だった。

 警報が鳴り響く中、立ち止まったミモザをしっかりと抱きしめた。


 上がった息を整えようと、ちょっと息を吸った瞬間に力が抜けたんだと思う。ミモザが僕の腕から抜け出した。


「待って。ほんと止まってよ!」

「早くしないと、全部が無くなっちゃうから、だから――」


 広大な室内には、数百の補助エンジンが建ち並び、その全てが過熱で揺らいでいる。

 その中心にある巨大な建造物が方舟のメインエンジンなんだと思う。確か、ミモザが見ていた方舟の紹介用ホームページにも載っていた。


 駆けるミモザを追おうとして、限界だった僕の足がもつれて転ぶ。

 一瞬、止まって振り返ったミモザが、すぐに離れていく。


「ミモザっ! せめて、何がどうなんだか、説明してよっ!!」


 叫ぶ。

 数百メートル進んで、ミモザが止まった。


「言ってるじゃない、間に合わないのっ! この船の外装は津田さんに強化されて、それでもドラゴンブレスを超えるエネルギーには耐えられないのよ!!」

「だけど、なんで――」

「思い出したのよ。このままじゃ方舟が、消滅しちゃう」


 それを何とか出来るのがミモザだけだって、僕の魂が震える。


 知らない景色が、誰かの記憶が僕の頭に流れ込む。




 傍観者だった。

 その記憶の僕は、違う僕の人生を見ていた。


 そこにはかつての僕がいた。黒髪に黒目の僕。何の力も無い僕は、今日と同じように必死にミモザを追っていた。そして同じ場所で足がもつれて転ぶ。


 見えているのは、全く同じ景色。方舟のメインエンジンルームだった。

 その僕を、僕が俯瞰して見ている。そんな僕の記憶。


 手を伸ばして叫ぶ。

 でもミモザは既にメインエンジンに着いていて、その灼熱して限界を超えつつあるメインエンジンの壁に両手を付けていた。


 過稼働に耐えられなくなった補助エンジンが一つ爆発、炎上した。連鎖して次々に、補助エンジンが爆発していく。

 警報音が消えた。同時に照明が落ちて暗闇と、過熱したメインエンジンが赤く周囲を照らす。補助エンジンが爆発する度に、周囲が紅く輝き照らされる。


 ミモザが紫色に輝き始めた。

 体が足下から結晶化していく。


 手先まで結晶化したところで、前倒しにミモザがメインエンジンに沈んでいく。メインエンジンに顔が付く、その直前で床が、メインエンジンが、そしてミモザが下から突き上げる灼熱に呑まれた。


 世界の、時間の流れが引き延ばされる。


 ミモザが粉々に砕け散るのが見えた。

 灼熱の光線が天井を突き破り、爆発が一気に広がっていく。

 暴風に吹き飛ばされて壁に叩き付けられた僕は、追ってきた灼熱に呑まれて、熱さを感じる間もなく僕は、記憶ごと消滅した。




 視界が戻る。

 駆けるミモザはまだ、メインエンジンに到達していない。


「ちくしょおおおぉぉっ!!」


 全力で、魔法を展開した。

 魔力を冷気に変えて、部屋全体を冷却する。


 ミモザが駆けて、メインエンジンの前で立ち止まった。


 補助エンジンが急速冷却で逆破損しないように。メインエンジンが熱暴走で壊れないように慎重に、それでいて可能な限り早く冷やす。

 温度差で立ちこめる霧を、同時に消す。魔法が初めて、僕の思い描く動きをする。


 ミモザがメインエンジンに手をついて、そして体が紫色に輝き始めた。


 周囲の冷却と並行して、自身の体の治癒を進め、立ち上がった。駆ける。まだ間に合う。

 視界がさっき見た記憶の映像に重なった。急げ。急ぐんだ。


 そこでやっぱり、時間が引き延ばされた。


 ミモザが、足下から結晶化していく。

 紫水晶。父の書斎で見た、綺麗な宝石。いつかは欲しいと思った、子供の頃の思いが脳裏をよぎる。


 駄目だ間に合え。

 全然動かない体で、必死に駆ける。視界が涙でにじむ。


 首まで結晶化したミモザの顔が、僕の方を向いた。


『ありがとう。さようなら』


 そう、口が動いた気がした。

 間に合うように、でも間に合わないのが分かってでも、全力で手を伸ばす。


 指先まで結晶化したミモザが、倒れ込むようにメインエンジンに沈んでいき、僕の目の前でミモザが、メインエンジンに落ちていった。

 メインエンジンが紫色に輝き、そしてすぐに光は消えた。


 時間が、音が戻る。

 ゆっくりと減速した僕は、その場で膝をついた。


 灼熱には呑まれなかった。

 その後もメインエンジンは、全力で回り続けていた。


 そして僕は、ミモザを失った。




 方舟が地球の重力圏を脱出したことを知ったのは、独房の中で三日経ってからだった。


 あの後、呆然と膝をつく僕は、駆けつけた方舟のセキュリティに身柄を拘束された。

 一般人が進入禁止エリアの、あまつさえその最奥のメインエンジンルームいた。僕は当たり前だけれど、不法侵入者だった。


 両手足を拘束されて、さらに車椅子に厳重に縛り付けられた僕は、銃を突きつけられたまま真新しい警察署まで移送された。

 最初は警戒されていたけれど、無気力でまるで動かない僕に、最後には同情されたな。


 防犯カメラの映像で、扉を破壊していたのがミモザだって立証されていて、僕の罪状はただの不法侵入だけだったらしい。


 聞けば、ミモザが見つかるまでは拘置が続くと、申し訳なさそうに説明されたっけ。


 でもミモザは、もう居ないんだ。




 一週間経って、ミモザの捜索が中止されたって、看守さんが説明してくれた。その直後に僕は、拘置所から釈放された。

 待合室には、父さん母さん、それから姉さんと幸彦さんが僕を待ってくれていた。


「篤輝……」

「父さん、ごめん。ミモザを守ってあげられなかった」

「努力は見た。よく戻ってきたな」


 メインエンジンルームの監視カメラは、全ての一部始終を鮮明に残していた。転ぶ僕も、メインエンジンに手をついて、結晶化の後、沈んでいくミモザの姿も。

 その後の調査で、ミモザはどこにも見当たらなかったそうだ。


 当然、稼働中のエンジンなんて分解出来るはずもなく、メインエンジンルームの捜索は早い段階で中断された。

 時間がかかったのは、他のフロア。海洋層、工業層、農業層も探索していたからで、監視カメラの死角を中心に探索。当然見つかるはずがなく、捜索は完全に打ち切られた。


「篤輝ちゃんのね、持ち物は自宅に届けられているわ。ちゃんと自宅に……一緒に帰るわよ……ね?」

「当たり前だよ母さん。お迎えありがとう」

「よかった……」


 建物から出て上を見上げる。

 天井ドームの先には真っ暗な宇宙空間と、ものすごい数の星が煌めいていた。本当に、宇宙に出たんだな。話には聞いていたけれど、初めて実感した。


「まるでドラゴンブレスな噴火に持ち上げられてね、それでも地球の重力から脱出するのに、最後の楢崎教授の引き上げでギリギリだったんだよ。まあ、結果オーライだ」

「そんなに噴火、すごかったの?」

「ああ。温度からすると、下部マントルからの押し上げがあったんじゃないかとな。憶測だし、観測する余裕はなかったのが惜しかったか」


 自宅に戻り、静まりかえった自室に、その真ん中に腰を下ろした。


『イブキ、今度美味しいものを食べに行こう』


 テーブルを挟んだ向かい側で、楽しそうなミモザの幻が揺らめく。


『ねえどうかしらこの服。ちょっと似合わない気がするんだけど……』


 鏡の前ではにかむ姿。


『植生とか、教えて。一緒に共有したいわ』


 もう。いない。


「もう。いつになったら帰ってくるのよ、遅すぎるわよ」

「…………はっ?」

「ちょっと、イブキ?」


 幻聴か、声のした方。テーブルの上にある僕の携帯電話に視線を向ける。


「あ、イブキ」


 目をこすって、二度見した。


 画面の中で、ミモザが手を振っていた。


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