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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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2.待ってこの僕、誰なの?

「知らない天井だ……」

 真っ暗なのによく見える部屋。

 扉の隙間から筋状に差し込む光で、少なくとも今が昼間だってことがわかった。


 いやまあ、他人の家だし当然知らない天井だよね。

 疲れていたのかな。昨夜、防護服を脱いでから床に座ったところまでは覚えている。気がついたら多分朝になっていたパターンだと思う。


 起き上がって周りを見回すと、僕が脱いだ防護服が転がっていた。


「え……マジか。お腹と背中完全に穴開いてるじゃん」

 重い防護服を持ち上げて、愕然とした。普通ならこれ絶対に死んでるパターンだよ。正面から見ると開いた穴から反対側の壁が見えるもん。


 見下ろして自分のお腹を見ると、シャツにも同じような穴が開いていて、この感じだと背中側も穴あきだと思う。気づいたら妙にスースーするし。

 前途多難に、思わずため息が漏れた。


「食料品と水の確保が最優先だけれど、難しいかなぁ……」

 使い物にならない防護服を床に置くと、僕は家の中を探索することにした。




 廃村。

 日本各地で、市町村のほとんどが無人化しているのは誰もが知っている。

 各地の主要都市に巨大地下シェルターが作られて、地上から人がいなくなったのが3ヶ月ほど前。既に現金系の貨幣経済も破綻しているから、家屋の大半は基本無人で泥棒すらいないのが今の日本。世界中どこも同じだってこの前携帯ニュースで言っていた。

 実際、電気を始め上下水道とか、ほぼすべてのインフラが壊滅しているしな。


 地上で活動しているのって、僕みたいな特定の研究者とか、あとは日本だと自衛隊とか本当に少数の人間だけだったと思う。


 あとあれだ、東京湾。

 大規模移民計画とやらで、ものすごく大きな都市型の宇宙船を建造しているってニュースで聞いてる。ちょっと前に、移民の募集も始まっていて、僕も応募しているんだけど。


「お。水のペットボトル」

 山奥の村にあって、割合最近建てられた家なんだと思う。キッチンの床に地下貯蔵庫があって、はしごを下りた地下にまだ食材が残っていた。大半は乾いていて食べられそうに無かったけれど、段ボールの一つには水のペットボトルが残ったいた。


 ちょっとだけ罪悪感を感じつつ、見つけたペットボトルで喉を潤す。


 災害用に備蓄してても普段意識に無いから、今回みたいな災害時にあって結果的に忘れられちゃったんだと思う。

 あとは、桃缶と乾パンが入った缶詰、災害用の持ち出し用リュックもあったから、貰っていくことにした。




「服のサイズは、ちょっと大きいかな」

 寝室のクローゼットには、結構な数の衣類が残されていた。それなりに年齢が高めの夫婦が住んでいたんだと思う。ちょっと古めかしいデザインの服に両親の顔が浮かんで、ちょっと目頭が熱くなってきた。


 思えば、去年のお盆以来、一年くらい会っていない。

 バスで2時間の距離は、災害で交通の便が完全不通になった今となっては、遙か遠い場所になってしまった。


「電話の声は元気みたいだったけれど。顔、見せた方がいいよね……」

 シェルターまで戻れたら、ちょっと無理して移住という名の帰郷しようかな。お金とコネがあれば、多分何とかなるはず。

 それにはまず、大学の研究室まで戻ろう。

 ガスマスクに、あとタオルかなんかで頭を巻けば、次の廃町まではいけるはず。


 そう思って、タオルを巻こうと何の気なしに洗面所に行って、動きが止まった。


「えっと……誰?」

 真っ白い髪。

 ガスマスクのガラスの奥に見える瞳の色も、青みがかった白。


「いやいや、待って。過度のストレスとかで髪色が抜けるとか聞いたことがあるけれど、さすがにこれは違うよね? 待って待って」

 慌ててガスマスクを外すも、余計に事態が悪化した。


 ほんと、誰これ?


 そもそも僕は純血日本人だから、黒髪黒目のはずなんだよ。顔だっていわゆるフツメンでぱっとしない顔だった。ほら、人混みに紛れたら探すの不可能みたいな、ほんとにザ一般人の顔。……自分で言って悲しくなってきた。


 それがどうだろう。

 洋風の甘いイケメンフェイス。このままハリウッドデビューすれば、人気上昇まっしぐらの顔。まあ、そのハリウッドも壊滅しているんだけど。


「君は誰? いや僕か。ちょっと何言ってるかわからなくなってきた……」

 思い立って携帯電話のミラー機能で見る。


 同じ顔。


 隣の部屋に駆け込んで、窓ガラスに映った姿を見る。


 やっぱり同じ顔。

 いや、何この細マッチョボディ。腕と足がめちゃくちゃスリムなんだけど。てか、足長っ。


 再び洗面所に戻って、そこでふと気がつく。


「なんで耳が尖ってるの……?」

 いわゆるエルフ耳。長さはアニメで見たエルフより短い気がするけれど、人間の耳じゃ無くなっている。


 変わっていたのは人相だけじゃ無くって、種族だった件について。

 大きなため息が漏れた。


 まあいいか。いくら頭抱えてても僕が変わるような気がしないし、そもそもここから移動することを優先した方がいい。

 頭にタオルを巻いて、その上からガスマスクをしっかりと装着した。念のため、首回りにもタオルを巻く。厚手のジャケット(拝借品)を着て、靴を履いた上からビニールをかぶせて、膝の上を紐で縛った。しばらくは火山灰の侵入を防げると思う。


 ふと思い立って、防護服の膝下を『エアカッター』で切断。履いてみたら、即席の長靴ができた。想定以上の履き心地に、思わず笑みが漏れ


「いや待って、そうじゃない。今の何? 何で防護服が切断された? 自然にやっちゃったよ、何これ。手からふわっと何か出た!?」

 本日2回目のプチパニック。


 思えば色々と思い当たる。

 廃村に着いて、鍵がかかっているドアを普通に開けていた。鍵に手をかざしただけで。

 そもそも防護服に穴が開いているのに寒くなかった。火山灰で気温が相当に低下しているはずなのに。今も全然寒くない。

 暗闇で視界が確保できたのも、何ならおかしいよね。


 そして今。


 頭に浮かんだのはエアカッター。

 魔力で風の刃を飛ばして、対象を切断する。使用時に込めた魔力の量によって、威力や飛距離が変わる。イメージ次第でサイズも変えられる。


 いや普通に魔法じゃん。

 この感覚だと、イメージ次第で簡単に魔法が使える気がする。


「ってことは、つまり明かりの魔法ってライトとかなのかな」

 上に向けた手のひらから、案の定光の球が飛び出して、暗かった洗面所が一気に明るくなった。

 呆然と光の球を見つめて思う。


 どうしてこうなった。


 悲報。23歳にして僕は、魔法使いになったらしい。

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