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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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19/38

19.家族

 姉さんにお願いして自宅から、僕の名前をイブキと篤輝の両方を登録して貰った。

 方舟住民の時点でもう、日本とは住民登録が違うらしくて、他にもけっこう改名する人が居るらしい。


 ちなみに、柏崎イブキ篤輝。

 自分で言うのもなんだけど、ヘンテコな名前になった。ミドルネームとか、絶対に漢字と合わない。まあ、できたからやった。後悔はしていない。


「それで本当に、ミモザ君は苗字を黒紫蝶にするのかい?」

「ええ。それでお願いしたいわ」

「もう最初から、柏崎ミモザでもいいのだが……」

「そそそそ、それは。まま、またそのうちというか、機会があったらというか……」


 何だかミモザは体が大きくなってから、妙に人間らしくなった気がする。

 今も、姉さんにからかわれて顔を真っ赤に染めている。今までも会話には参加していたけれど、いつも一歩引いた位置っていうのかな、掴めそうで掴めなかった。


 すごく喜ばしいことなんだけど、ちょっと複雑。

 船で話してくれた前世界の記憶は、たぶん消えているんだと思う。何とか僕だけでも忘れずにって思うんだけど、そもそも細かい内容知らないからなぁ。


「そんな悩ましげな弟に、いい知らせと、悪い知らせがある。まあセオリー飛ばして悪い知らせからだな」

「いや普通、どっちがいいか聞くよね!?」


 床面積が二十畳はあるだろうリビングで、僕らはお茶を飲んでいるんだけど、この何ていうか広さに落ち着かない。

 隣にミモザ。対面に姉さんと、その相方の百瀬さん。名前は知らない。


「ははは、相変わらずの桃華だね。そういうところは人間やめても変わらないな。ところで弟君、初めましてだね、百瀬幸彦だよ。まあすぐに、柏崎姓になるんだけれど、よろしくお願いするよ」

「ああ、そうだね。悪い知らせの前に百瀬だ。三日後に弟たちと合同で結婚式をする。父も母も明日には到着するから。なに、時間的には間に合うだろう」

「はっ? なな、なんのこと?」

「――ブーっ」


 ミモザが、お茶を吹き出した。

 いやなんだよ。自由すぎやしないかな、姉さん。


「今日の午後は、わたしとミモザ君は式場で衣装合わせ。男衆は適当に、まあ仕着せがあるだろう。それで本題だな、まずアメリカ筋から観測情報で、いま海底火山が活動を停止している。大噴火予測が早まって、一週間後になった」

「え、半月後じゃなかったの?」

「元々が噴火が続いていて、の予測でな。噴火が完全に止まったのが昨日だ。次だね、このままだと、方舟は飛べない」

「そもそも駄目じゃん」


 どうやらまだ、重量の問題が解決できていないらしい。

 宇宙空間、無重力状態においての推進制御は完璧にシミュレートされている。でも出来ているのがそれだけで、現状は地球の重力を振り切るだけの加速力が足りないんだって。

 エリクシルの登場で、基礎エネルギー問題は解決しつつあるものの、そもそもエリクシルの数が圧倒的に足りていない。原料の黒紫蝶を確保しようにも、大噴火が目前に迫っていて時間も足りない。

 そして日本政府は、外宇宙移民船計画の方舟から、完全に手を引いた。


 次の大噴火で地球には、本格的な氷河期が来る。

 これは確定らしい。


 もう、本質的に駄目な件について。


「あとはまあ最後に、いい知らせだね。津田芳宏教授が、方舟の船体全部を謎金属に変換した。これで、方舟を壊せるのはドラゴンブレスくらいのものだろう。また津田多実子教授の樫の木の種を、船底外部に装着した。急成長させることによって船体を持ち上げられる」


 予測では上空20キロまで持ち上がる。


 でも足りない。


「あとはそうだね。取っ手をあの新東京タワーの横に設置した。ベストなタイミングで、楢崎教授が取っ手を掴んで、船体ごと持ち上げるだろう」

「それはさすがに無理があるんじゃないかな」

「そうでもないさ。彼の持つ、概念『力』は、そんな無理すらも覆すよ」


 試算では、それで上空50キロ。成層圏は越えられるらしい。


 でも、まだ足りない。


「あとはそうだね。噴火のエネルギーを推進力にする……かな」

「えっ、なにを……」


 まさか、そんな夢物語。


「明日未明をもって方舟は、太平洋中央。海底巨大火山に向かう。そう決まったのさ」




 午後。

 予定通り姉とミモザは、衣装合わせのために式場に出かけていった。思った以上にミモザの背中が弾んでいて、嬉しそうだった。

 招待状も出すって張り切っていたけれど、そもそも方舟にいる知り合いなんて、人数知れてるだろうに。ちょっと笑った。


 そして思わず、一人の時間になった。ここしばらく賑やかだったから、何だか静けさが染みる。まあ家の中に幸彦さんがいるから、厳密には一人ではないけれど。


 庭にあったベンチに座って、ぼーっと天井ドームを眺める。


 海底火山の大噴火に、方舟を合わせる。そして宇宙へ。

 どう考えても無茶だし、現実的じゃない。いまの方舟を運営している責任者たちだって、そのくらいのことは分かっているはず。

 それでも無茶をしてでも、宇宙を目指すって言う。いやほんと、無茶だろうよ。


 だからといって所詮、僕個人なんて何にも出来ないんだけど。


「悩んでるね、弟君」

「幸彦さんも、僕のこと弟呼びなんですね」

「ははは、桃華が篤輝君の話をする度に弟呼びだったから、僕も普段の会話で弟君って呼んでいたんだ。嫌だったかな? でも、何かしっくりくるんだよな」

「いえ、問題はないですよ。僕も姉さんは姉さんですし」


 マグカップが二つ、ベンチの前のテーブルに置かれた。

 紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。


「これで失敗したらね、方舟は二度と飛べないんだって。桃華が言っていた」

「いやだって、黒紫蝶いっぱい確保出来れば、いずれは飛べる――」

「でもそれが現実不可能だって、弟君が一番知っているじゃないか」

「あっ……」


 そうだ、植生。それから氷河期か。

 氷河期になると、黒紫蝶の植生条件が変わる。全く生えなくなるんだ。

 そうじゃなくても、あと一年でピークを迎えるってレポートに書いたの、自分じゃん。で、そこから平均気温が下がる予測が立っていて、間もなくして黒紫蝶も生えなくなる。


「このあとの海底巨大火山噴火をもって、方舟は国際的な固定都市として北極に安置される計画なんだって。だから、今回の日本の対応もそれありきらしい」

「じゃあこのままだと」

「そう。完全に方舟計画自体が夢物語で終わる」


 それでもいいじゃないかって、心のどこかで思う。

 でもそれは、何かが違う。それじゃあ、何か大切なものが失われてしまう。


「まあ今回の火山噴火に乗せる計画、桃華の完璧なプレゼンの結果なんだ。すごいよねあの頭脳、スパコン100基分の演算能力あるみたいだし、世界ネットワークすら傍受しているらしいし。だから絶対に成功するさ」


 飲み終えたマグカップを持って、幸彦さんがリビングに入っていった。


 そうだよ。

 姉が、家族が頑張っているんだから、それを僕が応援できなくてどうするんだって話。

 流されたとはいえ、ミモザと夫婦になるんだ。今さら色々思い悩んだってしかたないし、どうせなら僕だって……魔法で、何が出来るんだ?


 悲報。考えてみたらハーフなエルフの僕は、何も出来ないらしい。


 魔法って、何なんだろう?


 魔法の可能性、本気で探ってみないとだな。

 本気で思った。


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