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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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18/38

18.外宇宙移民船、方舟

「はい、イブキ様ですね。ようこそ方舟へ。船員一同、歓迎いたします」


 受付のお姉さんからマイナンバーカードを受け取った。と、そこで視線が、僕の腰元に向けられる。


「可愛い、お人形さんですね」

「姉のを預かっているんですよ」

「大丈夫ですよ。趣味は人それぞれですから」


 そんな温かい視線に見送られて僕は、方舟の中、外部アクセスロビーに向かうエレベーターに乗り込んだ。

 全体的に水色や青が使われた、ちょっと未来的なデザインに何だか楽しくなってくる。ちなみにまだ、防護服は着たままなんだ。自宅に着いたら、専用の収納があるからそこで脱ぐようにって、説明受けた。


 僕が向かう自宅は、姉さんが住んでいる一軒家らしい。あとで父と母も来るって話だから、久しぶりに一家揃うことになる。ちょっと楽しみ、でもちょっと心配。

 何せ娘と息子が、既に別人というか、人間やめてるもん。


「あのね。イブキのお父さんもお母さんも、ちゃんと分かってくれると思うわよ」

「うん。ミモザのこと、どう話そうかと……」

「……えっ? そっちなの?」


 そんなことを話しながらロビーを抜けて、足が止まった。


 緑が視界を埋める。

 僕らが降り立ったのは、一番外側のおそらく外周一周道路の縁。その道路を挟んだ向かい側に、一面森が広がっていた。小さな小道が、奥に伸びているのも見える。

 街はまだ見えないけれど、何だろうちょっと感動する。


「おう、篤……じゃねえや。イブキよ、立ち止まってどうした」

「郷田さん。見てよ、緑。いっぱいじゃん、すごいよ。なにこれ、緑が」

「いや、ちょっと落ち着け」


 一緒に並んでいた香津美さんにも笑われた。

 でも緑。自然植生学を研究してる身としては、半年ぶりの本格的な緑。興奮しないわけがない。

 森とか林とか、結構あるって聞いていたけれど、実際に見るとやっぱり違う。


 子供みたいにキョロキョロしていたら、車が一台走ってきて僕たちの前に止まった。


「イブキよ、タクシー来たぞ。乗るんだろう?」

「なんで?」

「いやなんでって、これから自宅に向かうんだろうよ。どの地区に行くか知らんが、かなりの距離があるぞ。乗っていかんのか?」

「緑があるんだ、歩かないと失礼だよ」

「……あー、なら俺らが乗らせて貰うぞ」


 郷田夫婦を見送って、道を渡る。小道を入ると、周囲が一面、緑だ。


「ねえ、ミモザ。この防護服さ、預かって貰うことできる?」

「いいわよ」

「よしきたっ」


 脱いだ途端に、肌を刺すような強烈な違和感。

 首を捻るも、そんな違和感なんて、鼻に吸い込んだ緑の薫りに一瞬で吹き飛んだ。

 足下のミモザに防護服を渡して、気分はるんるんスキップ。


 ここは見渡す限り、全ての樹木が広葉樹だ。

 方舟建造の過程で植林してるから、色々な種類の木がほんとバラバラに雑多に植えられている。この状態だとまだ僕の出番はない。だけどこの先、10年20年経って植物のバランスが安定したら、どうなるんだろう。すっごくワクワクする。


「――イブキ? イブキったら、ねえっ。ちょっと聞いてよ」

「ごめんごめん。考え事して……た……?」


 驚愕。ミモザさんが、大きくなっていた。


「あのね。イブキの防護服を収納したでしょ?」

「うん。ちょっと前に入れて貰ったよね」

「それでその、入れたら消えて無くなっちゃったの。代わりに体が大きくなったっていうか、その……ごめんね」

「えーと、何か吸収したっぽい感じ?」

「うん、たぶん」


 ニューミモザは、ちょうど僕と同じくらいに視線が並ぶ。あらためて見ると、すっごい美人さんだ。小さい時は可愛らしい感じだったのが、すっごく大人っぽくなってて何だか緊張してきた。


 ぼーっとミモザを眺めていたら、ミモザの眉毛がハの字になった。困った顔も何だか可愛い。おかしいな、僕どうしたんだろう。


「ほんと、ごめんね。防護服はちゃんと買って返すから……」

「いや、いいっていいって。たぶんもう、いらないと思うから。それよりさ、家に行こうか」

「うん、ありがとう」


 無意識に手を伸ばしていたんだと思う、ミモザの手が僕の手をそっと握ってきた。思っても居なかったから、一気に顔が熱くなる。

 

 無言のまま、二人で小道を歩く。

 なんだかその沈黙さえも心地よくて、気がつけば森を抜けていた。




 計画都市。ミモザの見ていたホームページで、そんな見出しを見た覚えがある。

 森の小道を抜けた先は丘の上だった。


 見下ろした先、中心部に真っ赤な『新東京タワー』を配置して、旧東京都をイメージしているのか東京湾が配置されているのが見える。新東京タワー周りには高層ビルが建ち並び、すり鉢状の外周に向かうにつれて、マンションが、さらに戸建て住宅が建ち並んでいる。そんな、デザイン都市だ。

 しかしこれは、広い。一億人都市を謳うだけあって、きっちりと区画分けされているんだと思う。


 僕たちの家は、さて何処なんだろう?


「モモカさんがね、マップアプリに自宅を登録してくれてあるのよ。こっちよ、案内は任せて」

「姉さんが? いつの間に」


 ミモザに手を引かれるまま、森を出てすぐの住宅地を歩く。

 この辺りはまだ、住民が配置されていないのか、どの家にもカーテンがない。ただ家の形とか庭の造り、色合いが全部違うのは、きっとデザイナーのこだわりなんだと思う。何一つ同じ家がないのは、なかなかに見ていて楽しい。

 途中のコンビニは無人だったけれど、商品は配置されていたから飲み物を買った。もちろんキャッシュレス、ニコニコ携帯電話払いだ。


 遙か上空には透明なガラスドームがあって、火山灰の侵入を防いでくれている。一番てっぺんには疑似太陽なんだと思う、照明が光り輝いていた。

 なるほどこれは、すごい技術だ。


「どうしよう、徒歩だと家まで二時間半かかるわ」

「やっぱりタクシー、呼ぼうか」

「ここまで広いの、想定していなかったわよ……」


 30分くらい歩いたけれど結局、諦めてタクシーを拾った。

 無人タクシーに乗って、やっぱり無人の街並みが窓を流れていく。方舟が地球外に出るって考えると、やっぱり躊躇する人が多いんだろうな。


「この街で暮らして、子孫代々命を繋いでいく。それでね、いつか昔の地球と同じ環境の星が見つかったら、そこに移住するんだって」

「壮大っていうか、遙か未来の話なんだね」


 タクシーは、マンションが立ち並ぶ地域を抜けて、再び戸建て住宅の地区に入った。この辺りは、人が居る。庭でバベキューをしている人もいるし、途中の公園では子供たちが走り回っていた。

 人が居ることがこんなにもホッとするなんて思わなかった。


 やがてタクシーは、何だか豪邸の門の前に止まった。

 いやこれは、何だろう。想像していた自宅と意味不明なくらい乖離しているんだけど。


 そして門には、姉さんが腕を組んで仁王立ちしていた。


「遅いじゃないか弟よ。わたしが送った防護服はどうした、どうしてミモザちゃんが大きくなっているんだい、何だかいい雰囲気に見えるがまさか……?」

「ちょ、姉さん。ちょっと家に入ろうか。ご近所迷惑になると思うよ!?」

「そうよモモカさん。イブキは何もないんだからね」

「ふふふ。そういうことにしておこう」


 姉さんが笑う。

 僕もミモザも何だかおかしくなって、顔を見合わせて笑う。


 ずっと手を握っていたのが、何だか自然すぎて。結局、玄関で姉さんに指摘されて二人して顔が真っ赤になったのが、落ちということで。


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