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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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16.東京湾の浮島

「こんなに人が、いるの?」

「想定外だな。一体どうなっているんだ……」


 東京湾。大黒ふ頭は、酷い有様だった。

 少し前から緩やかな下り坂になっていて、その途中にコンクリートの台地があった。ふ頭までが瓦礫と火山灰で埋没しているんだ。

 そしてそこから続いている遠浅の海岸は、元々海に面していたはずの大黒ふ頭を、陸の孤島にしていた。いや、これはさすがに想定外なんだけど。


「ふ頭からのびる桟橋があって、その先の浮島に、方舟への輸送船が停泊しているのは聞いていた。だが、多数の船と乗船待ちの人が、順番待ちをしている? のか?」

「防護服の仕様からすると、自衛隊か。原因は、わたしたちの最初の通信だろうか?」

「いやこの距離で、見えるんかよ!? ……まあ間違いなく『あと半月』の、あの連絡だろうな。元々が自衛隊の上層部なんかは、除灰自体に懐疑的だった。俺もやるだけ無駄だと、何度も上申はしていた」

「だとすれば地上の除灰をやめて、国策である方舟に派遣する方向に、舵を切ったということかもしないわね」

「そこに追加で今回の地震。まあ、判断基準としては妥当だろう」


 そんな会話を聞きながら僕は、メロン大のコンクリート塊を、念動力を模した魔法で浮かしている。

 ほら、ミモザにさ、魔法を使わないと『僕の魔力が飽和する』って指摘されて、移動の道中も何らかの魔法を使おうと試行錯誤していたんだ。

 で、結果的にこの魔法で落ち着いた。見た目に反して、かなり複雑な制御しているんだと思う。実際の魔力消費量がエグいんだよな。とはいえ、感覚的な総量からすれば微々たるもんなんだけど。


「む。むぐぐぐ……」

「ほんとにそれ、魔力使うの? 普通に極大炎魔法バーン、の方がいい気がするわよ」

「いやいや、何その脳筋魔法。普通に二次災害まっしぐらじゃん」


 まあ、既にやってるんだけどね。

 実際に最初は、上空に向かっていわゆるファイヤーボールを打ち上げてみた。自分でもびっくりした。赤色ボディのミサイルが、炎を噴きながら上空彼方に消えていったんだ。

 いやさ、確かに無詠唱でファイヤーボール思い浮かべたけどさ、ミサイルなんてどこにボールの要素あるんだろう。


 ちなみに調子に乗って、ストーンバレット。砲丸の玉が飛んで、少し離れた地面に埋まった。次、ウォーターフォール。大型のシャワーヘッドが、ゴトリと地面に落ちる。持ち上げて横にあった突起を押すと、ヘッドから水が吹き出した。違う、そうじゃない。

 まあ他にも調子に乗って色々試したけれど、相変わらず魔法(物理)なんだよ。何だろう、僕の魔法?


「それ普通によ、イブキ。詠唱すればいいじゃないの」

「そもそも詠唱って何?」

「えっと、そこから?」


 いや実際だよ、詠唱って何だろう。

 肝心のミモザに聞いても、ミモザは魔法使えないから知らないと。


 前の、廃村での検証を思い出した。あの時は、詠唱したのって『ライト』の一言だけで、そのときだけはちゃんとした魔法になったっけ。

 そういえばファイヤーボール、火炎放射器じゃなかったか?


「じゃあさ、『我が左手に宿れ、黒焔』とか唱えれば――」


 ボッ、と。普通に左手に真っ黒な焔が燃え上がり、揺らめく。

 固まる僕。ジト目のミモザ。


 まあ、そんなことも道中にあった。


「とりあえず、浮島へ行こう。ところでイブキ君、その……コンクリート塊を、持って行くのかね?」

「えっと、まずいですか? これで魔力を消費しているんですが……」

「……ああ、そういえばそうだったな。わかった、何とかしよう」


 その、何とかしないとまずいなら置いていくんだけど……。

 そう言おうと口を開きかけたら、姉さんが笑顔で手を振ってきた。いやしかし、見た目アンドロイドっぽくなっちゃったから、見慣れていないと無表情なんだよな、姉さん。


 いや待って、そういえばみんな容姿が変わっているけど、どうするんだろう。

 今は防護服を着ているからある程度はごまかしがきく……いや、楢崎教授はごまかしようがないか。

 いずれにしても、僕のコンクリート塊なんて、防護服を脱いだ時点で霞むか。


 あれ? 考えてみたら白狼、どこいった?


「――わふ?」


 考えたからだと思う。少し前を歩く楢崎教授の隣から、滲むように子狼が現れて、首だけ振り返って僕を見てきた。

 もしかして、ずっと認識阻害がかかっていた?

 郷田さんなんか二人してびっくりしているから、本当に全員の認識から消えていたんだって分かった。半端ないなフェンリル。




 桟橋を渡る。

 浮島と同じようにフローターが底に付いているからか、海面の上にさしかかると結構波で揺れることが分かった。

 連日の津波の影響なのか、何だかサビ具合がちぐはぐな感じだし。桟橋自体が伸縮仕様になっているけれど、それでも吸収しきれない津波も来ているんだと思う。所々新品の区間がある。


 しかし距離がまたすごいな。

 既にふ頭から桟橋に足を乗せて、20分は歩いているけれど、やっと半分と言ったところか。浮島がちょっとだけ大きく見えるようになった。

 先頭の楢崎教授が止まる。


「さてだ。乗船手続きはマイナンバー認証だっただろうか、そこは恐らく問題は無いだろう。輸送船の船内も基本的に防護服指定だから、まあいい。問題は現地、方舟に着いてからだと思う」

「どこの雑技団なんだって、感じだからな。いや実際、楢崎。何か妙案はあるのか?」

「いや、ないな。どこかに陸空海の幕僚長でもいれば、話は通しやすいんだが……」


 容姿がまともなのって、郷田夫妻だけだもんな。他は、もう人外だ。

 あ、僕はもしかしたらギリギリ大丈夫かもしれない。

 全員で車座になってく意見を出し合ったんだけど結局、対策らしい対策もないから、再び歩き始める。

 そのまま浮島まで辿り着いてしまった。


 浮島は相変わらず防護服姿の人々がひしめいている。

 一応、列があって並んでいる感じだったから、一番後ろに並んだ。


「しばらく時間がかかるぞ。まあ、人数制限なんかはないから大丈夫だろう」

「……おや。その、野太い声は、もしや郷田君かね?」

「なっ、幕僚長!?」


 そしてお約束の遭遇。

 みんなと同じように防護服を着ているから、顔を直接見ないと分からないんだよな。まあ少なくとも、この人混みのどこかにいるとは思っていたけれど。


「わたしが連絡したんだけどね」

「え、そうなの姉さん?」

「野田勇次、母の親戚にあたるね。我々からすれば、やや遠縁の叔父だから、会ったことはないが。調べて、連絡したら話ができた次第さ」

「……? 携帯電話、防護服で使えないはずじゃ?」

「何を言ってる弟よ。わたしが居れば、携帯電話なんていらないだろう」


 あぁ、機械神様でしたか

 郷田さんの肩に手を置いた野田さんが、姉さんと僕の方に顔を向けてきた。


「偶然にしては出来過ぎの演出だったかな。初めましてだね、陸自幕僚長をしている野田勇次だ。柏崎君の話を元に、幹部階級には話は通してある」

「ありがとうございます。助かります」

「まあ残念ながら、順番飛ばしはできないがな」


 取りあえず僕は、コンクリート塊を東京湾にぽーいした。

 一斉に、みんなが振り返る。


 みんなの視線が痛かった。


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