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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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15/41

15.地震と液状化

「広志さん……もう、二度と会えないかと思ったわ……」

「ああ……香津美。心配かけたな、だが篤輝……もとい、イブキと居るなら絶対に生還できる。そこは確定した」

「……それほどまで?」

「ああ。自衛官の勘が、間違いないと言っている」

「ところでイブキって?」

「篤輝がな、名前を変えた結果だ。これからはイブキと呼ぶらしい」

「マイナンバー時代にそれって、すごくない?」

「だな。規格外なんだよ、あいつら」


 なんて運転席と助手席の謎の会話を聞きながら、僕らは全員で改めて一台の車に乗って、移動を開始した。

 ちなみに屋根が破れたRV車は、楢崎教授が転がして立体駐車場から落としていた。意味が分からない。


 そうそう津田教授の芳宏さん。分かれた時は歩けなかったはずなのに、もう改造防護服で普通に歩いている。研究室に寄った際に、パパッと作ってきたらしい。チートめ。

 ほんと、僕だけが平凡だと思うんだけど。まあ、平凡の方がいいか。


「柏崎教授の情報から、移動ルート策定に閉鎖された道路を除外して、今一度地図でルートを確認した。現在地が、練馬区があった辺り、そのやや東寄りだ。ここから一旦、足立区まで東進。そこから南下して、浦安から西に向かう必要があるらしい」

「直に東京湾には向かえないと言うことか……」

「徒歩ならね、まっすぐが可能だね。どちらも全行程は2日、だがしかし、徒歩だとルート選定が難しいのさ」

「休息場所と、あとはまるで道がないからよね。逆に自動車が通れるルートは、ある程度の整備がされていると見るべきかしら」


 僕は後ろでうなずき役に徹している。

 もうね、頭脳は集団がいると話が早いんだ。僕ならきっと、まっすぐ歩いて途方に暮れるまでが安定コースだろうし。


 その間にも車はゆっくり走行を続けている。

 体感時速は20キロ位かな。路面の状況や、タイヤの反応からこの速度が限界なんだろうね。火山灰とか汚泥とかで均されているけれど、時折ある瓦礫で車体が跳ねる。

 今、走っているのは多分、住宅地だった地区なのか、降灰で霞んでいてもけっこう遠くまで見通せる。時折あるビルの高さから見るに、普通の住宅なんかは全部足下に埋まっちゃってるんだろうな。

 まさに、大災害だよ。


「……ん? なにか、地面が波打ってない?」

「嫌な予感だけはするわね」


 ぼんやりと外を眺めていたら、地面が波打ちながらものすごい速さで近づいてきて、


「うおおおっっ!」

「きゃああっ!」

「ふむ。液状化が進んでいるね」

「何だ地震かっ!?」

「ちょっと、危ないわね。窓開けて、種ぽいーっと」

「む、刺さった。今回は深いな……」


 車体が大きく跳ね上がった。

 忽然と生えてきた大樹に、車体が絡め取られて急停止。天井に頭を打ち付ける。


 いや違う、そうじゃない。

 とっさの会話が、どうもおかしい気がするんだけど。


「これ、リンゴの種だったのね。なら、もうちょっと成長させてっと――」


 津田教授の多実子さん……もう、多実子さんでいいか。多実子さんが、おもむろに窓の外に手を伸ばすと、枝に手を触れる。それから真っ赤に熟れたリンゴを収穫してきた。

 いや、リンゴって、なにそのユグドラシルの万能さ。


 枝葉の向こうで波打つ地面に対して、僕たちの乗っている樹上は凪いでいて、地面の揺れに合わせて幹を大きくうねらせている。

 ドギャン――なんて音を立てて、天井が破れた。安定の破壊神楢崎教授。開いた穴から緑が揺れているのが見える。


「おお、やっと頭が動かせる。しかし地震か。この辺ではしばらく起きていなかったが、何というタイミングか」

「この感じだと、経路の見直しが必要だね。ああ……でも情報取得は駄目だな、出動要請だけで、現場状況の情報は何もない」

「取りあえず先の地面を固めながら、ってわけにもいかんか。さすがに触らないと駄目そうだ」

「そうね。道ばかりは、植物でも無理だわ……」


 10秒くらい揺れたか、周りの揺れが収まった。

 同時に水が染み出したんだと思う、地面が一面濁った水で真っ黒になっている。さっき姉さんがつぶやいた地面の『液状化』だと思うけれど、規模がエグい。


 通常ならアスファルトなんかの堅い表面物質があって、その下が液状化して沈下する。それでもある程度すれば、地面が固定化されるらしいんだ。

 だけどここは、今の廃都東京の地盤は、言うなれば沼だ。火山灰を含む堆積土砂が約10メートル。当然津波の影響で多量の水分を含むから、やばい。


「足下が沈むな、下手すれば全身が埋もれるか。すまない……津田君、引き上げて貰ってもいいだろうか」

「分かった。切れんとは思うが、ゆっくり上げるぞ」


 地面に下りた楢崎教授が腰まで沈むことを確認して、巻き付けてあった蔦を引き上げた。


「沈む際に抵抗が無い。防護服があるから、重量ある分一気に沈むだろうな」

「水が引いて、地盤が落ち着くまで待機するしかないか……」


 何だか、手詰まり感でみんな沈んでいたら、肩に座っていたミモザが僕のヘルメットを叩いてきた。


「ねえ、イブキ? 多実子さんの植物って、きっと権能的な能力なのよね?」

「うん多分、そうだと思うよ。どうしたの」

「植物の成長って、限界あるのかしら。水分、吸い上げてるのよね。使えないかしら」

「ああ、そうか。植物の根圧。その手があったか」


 そんなわけで、試しに少し周囲の水分を吸い上げて貰ったらリンゴの木周囲1メートルが陥没。水分が消えた。窪んだ根元に水が流れ込むけれど、再び楢崎教授を下ろすと今度は足が付く。


「接触系の力だから、一本ずつしか処理できないわね。多少の時間がかかるかもしれないけれど。今は、これしかないわね」

「実は時間が押している。やろう」


 多実子さんがリンゴの木の幹に触れる。


「いくわ――」


 リンゴの木が激しく揺れる。

 地面が悲鳴を上げるように、甲高い音を発して軋む。放射状に地面がひび割れて、一気に水分がリンゴの木に吸い上げられていく。急速な乾燥に風が渦巻く。


 ゴオッ――――


 そして、爆ぜるようにリンゴの木が成長した。

 思わず僕は、尻餅をついた。


 瞬きする度に、幹が太くなっていく。樹高がものすごい速度で高くなっていき、広がる枝葉は瞬く間に曇り空を、視界を覆った。

 見える範囲恐らく、直径数キロの水を吸い上げたリンゴの大樹は、世界樹と見紛うほどに巨大化したリンゴの樹は、しかし次の瞬間。


「枯れ……た……?」


 真っ赤な実を実らせるも、実がしぼみ、色を失った葉が落ち、全て風に巻き上がった。そして白化。巨大な枯れ木となって、その瞬く間の一生を終えた。


 さすがにここまでは、想定していなかったな。

 多実子さんを見ると、首を横に振った。


「現状の最善手よ。木にはちゃんとお願いしたわ。お礼も言った、もちろんお別れの言葉も」

「僕が、提案したから……」

「そんな顔しないの。ちゃんと彼女は理解はしてくれたわ、もし思うなら、これ。食べてあげなさい」


 そうだよな。何だか一気に枯れたから、しんみりしちゃった。

 リンゴを大事に腰のポケットにしまった。


「さて弟……ではないな。呼ぶ時にはもうイブキのほうがいいか。この地震が、もしかしたら噴火の前兆かもしれない。確かに直線距離でも8000キロ近く離れているけれど、何だろう無関係だとは思えない」

「この間の半年は、最大猶予期間だ。それよりも期限が短くても不思議ではないな」


 やっぱりちょっと、枯れた樹に罪悪感を感じながら、僕らは徒歩で東京湾を目指す。




 直径で約5キロが、吸い上げでの乾燥の限界だった。

 現地までの距離の都合、4回の植物の急成長を繰り返して僕らは、予定通り二日後に東京湾、大黒ふ頭にある浮島に到着した。


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