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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
地球編

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10/15

10.空間の揺らぎ

「あらためて、ミモザよ。アツキのパートナーね。よろしくお願いするわ」


 さてミモザさん。

 早速人気が出てて、彼女を中心に教授4人で取り囲む形になっている。逆に僕はと言えば、テントの端に追いやられて完全に蚊帳の外だ。

 まあ、ちょうど喉が渇いていたからね。コーヒーに、いつもよりクリームを多めに入れたはずなのに、何だか苦い気がする。


「妖精……という、存在なのかね?」

「どうかしら。概念的には、そうかもしれないわね」

「ミモザちゃん、お腹すかない? 食事は何が食べられるの?」

「食べられないことはないけれど、必須ではないわ。今はアツキから魔力を貰っているから、特に何もなくても活動できるわね」

「マリョク……ああ、魔の力と書いて魔力か。ふむ、なら弟は魔法使いと言ったところか」

「そうね。その認識で間違いないわ」


 全員が一斉に僕の方を向いた。

 しばらく耐えたものの、耐えきれず視線を横にそらす。


 ……あの、ミモザさん? 僕、誰にも魔法が使えること、言ってないんだけど。その辺の情報は、本人の許可取ってからにして欲しいな……って無理か。


「あの揺らぎの先にある世界を、ミモザ殿は知っているのかな?」

「一応、認知はしてるわ。ただ、どうなったかまでは分からないわね。混沌の最中だった、としか言えないし。世界が崩壊して、紅に飲まれて、そしてわたしはここに来たの」

「安定していない、と。ならば、逆に今がチャンスなわけだ」

「えっとナラサキさんだっけ。わたしの話、ちゃんと聞いていたのかしら?」

「ふむ。エネルギーのベクトルが全て外向きの確率が高いから、吸い込まれずに通過する。それこそ、弟が生還した理由なのだな」

「そういうことだ。残りの仮説は移動しながらだ、津田。行くぞ」

「鉛が金になるか。それとも、オリハルコン。ヒヒイロカネすらもあり得るな。行こう」


 こういうとき、教授クラスの頭脳はヤバい動きをする。

 4人が全員、真剣な目でうなずき合うと、ミモザなどもう意識の外とばかりに立ち上がり、一斉にテントを出て行った。

 残されたミモザが複雑そうな顔で机の端まで歩いてくると、机の縁に腰を下ろす。


「ねえ、アツキ。これ、どういうことなの?」

「あー、何て言うのかな。今現在地上で活動している大学教授ってさ、基本的に頭がおかしいってネット界隈では通説だったんだ。あの中二病の教授たちには、あの空間の揺らぎが金銀財宝に見えるんだろうね」

「ネット? そもそも、ネットが何なのか分からないわ」

「ああ、大学に戻ったら説明してあげられると思うよ」


 外に出るために、手間だけれど再び防護服を着る。

 既にミモザの定位置になりつつある容器を腰に下げて、そっとミモザを移した。


「じゃあさ、アツキ? さっきの話からすると……もしかしてアツキも頭おかしいの?」

「…………否定できないかも」


 気づかないふりしていたのに。

 トボトボと、色々な意味で重い足をテントの外に向けた。




 騒然。

 いま見えているキャンプ地は、その一言で言い表せると思う。


 助手たちが駆け回り、哨戒している自衛隊員たちも何だか落ち着かない感じだ。

 また何か顕れたのか――そう警戒して見回すも、そういった感じではないようだ。見方を変えればお祭り騒ぎにも見える。

 キャンプ地の真ん中辺りには、いつの間にか大がかりな足場が組まれていて、300メートルくらい上に踊り場があるのが見えた。ワイヤーで崖上と繋がれた足場は、今も猛烈な速度で上へと組み上がって行っている。


 おかしいな、周囲に楢崎教授も津田教授夫妻もいない。と思ったら、防護服姿の姉が相変わらずいい笑顔で歩み寄ってきた。

 ただ、少し違和感。いつもより離れた位置で止まった?


『ピッ……ああ、弟よ。お前も理解しているだろうが、仮説は先ほどの通りだ。いつまであれが存在しているか不明だが、あとは検証だけだな。なに、数ヶ月かかるが、ここまで来ればもう結果は明白だろう』

「……そ、そうなんだ」


 いや、何にも理解できていないよ。

 なに『お前も知っている』ルールで会話が進むのさ。


『だがどうする。もう、弟がいなくても問題ないが?』

「一応、津田教授の助手だから、普通にサポートとしている予定だけれど……その、津田教授は?」

『そうだろう。半日、歩き通しだったからな。郷田さんに帰りの送迎をお願いしてある。疲れただろうから、帰ってしっかり休むといい』

「うん? 待って、会話がかみ合っていない?」


 何だか笑顔の姉さんが、プルプルと小刻みに震えている気がする。


『また結果が分かったら連絡する。少し忙しいから、またな……ピッ』

「ちょっと待ってよ――」


 歩み去ろうとした姉の肩を掴もうと手を伸ばすも、猛烈な速度で走り去っていく。あっという間に、少し離れたテントの中に消えていった。

 思わず、腰元のミモザと顔を見合わせる。


「ねえ、アツキ。これって、何かのお約束?」

「うん。イヤな予感しかしない」

「さっきのは、いったい誰だったのかしら」


 正直、姉(?)が消えたテントに行くか迷う。間違いなく別人だろうし。言い訳を、多分姉の助手から聞くことになる予感しかしない。


 どうしたものか悩んでいたら、後ろから車の音が聞こえてきた。僕たちのすぐ側に止まった車から、神妙な顔をした郷田さんが下りてくる。


「すまん。彼らを止めることができなかった……」

「ああ、うん。4人は中に?」

「帰還予定は13日後だと聞いている。本当にすまん」

「いやいいって。さすがに僕も、速攻で揺らぎに飛び込んでいたなんて、想定外だし」

「……すまん」


 どうやら4人は、最低限の準備と現場への指示出しだけで、旅立ったらしい。

 そりゃ、現場騒然となるし、ある意味お祭り騒ぎにもなるわな。


 ついつい大きなため息が漏れる。


 いつもより小さく見える郷田さんの案内で、足場の上にある踊り場に向かった。

 確かにそこには、何か陽炎のような球状の揺らぎがあった。ここに嬉しそうな顔で飛び込んでいった、4人の姿が脳裏に浮かぶ。

 しかしだよ、二度と帰ってこられないって思わなかったのかな?


「待つしか、ないか」

「そうね。アツキのこと、頭おかしいって言ってごめんね」

「篤輝……ほんとに、すまん……」


 そのまま夕方まで待って、テントに戻った。


 翌日は雨だった。ミモザのために、防護服を着たまま傘を差した。

 

 キャンプ地に携帯電話の出張基地局が開設されて、ミモザにネットの使い方を説明したりもした。想定以上に夢中になったミモザのために、新しい携帯電話を手配して貰う。


 突然、揺らぎから二足歩行の豚が出てきて、騒然となった。響き渡る銃声。逃げようと立ち上がった時には、事切れていたけれど。

 多分、ファンタジーな話によく出てくるオークだったんだと思う。ただ簡素ながら、しっかりとした縫製の服を着ていた。

 もしかしたら対話、できたんだろうか?


 正式に、超大型宇宙移民船『箱船』の乗船案内が来ていた。三名まで家族が移民として登録。乗船できるとあったから、両親とミモザを登録しておいた。

 姉さん? 知らない。たぶん、ほっといても乗船券入手すると思う。


 最初、大型テント5張だったキャンプ地は、どんどん建物が建っていき、10日もすればもう、一つの集落規模にまでなった。

 相変わらず重機の代わりに、パワードスーツタイプの防護服が活躍していた。あれ、いくらするんだろうか? 間違いなく僕の防護服より高いはず。

 自衛隊仕様なのかな。




 そうして、13日目の朝を迎えた。


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