整えてくれる恋人
桜川町。
私はそれに出会った。
ある日、服が触って、ペンを落としてしまった。
一人きりの自室。
けれど、目を離した隙に、ペンは元の位置に戻った。
ほっとした感覚。
私は首を捻った。
またある日、服を脱ぎっぱなしにして、ベッドに投げておいた。
服がハンガーに掛けられていた。
私は首を捻る。
よくよく目を凝らしてみた。
「……ひっ」
人型の何かがうっすら見える。
それは服の皺を、整えていた。
彼が手を離すと、ほっとした感覚。
あるべき場所に、収まったかのような。
それからも、私の部屋は整えられていった。
私は……慣れた。
害はない。むしろ助かっている。
「ねえ、いつもありがとう。助かってる」
私はその日、初めて何かに声をかけた。
それがゆっくりと振り返る。
男性だ。
性別を感じたのは、初めてだった。
友達の家に行った。
友達の家で彼女のものを落としても、彼は現れない。
それが、なんだか、嬉しかった。
私の部屋は、それからも綺麗だった。
彼が、私の投げ出したもの、ちょっとずれて置いたものを、直してくれるから。
ある日、彼がカップを差し出してきた。
どこから出したのだろう。
安心した。
私のものが、あるべき場所に戻った。
「一緒に飲まない? あなた飲めるの?」
言えば、彼はもう一つカップを出して、飲むふりをした。
優しい。胸がきゅんとした。
「ねえ、加奈、最近趣味変わった?」
友達に聞かれた。
「え……? 変わってないよ。なんで?」
「だって前はそんな女の子らしい格好しなかったじゃん」
首を傾げる。
「そう?」
友達がヒソヒソと話をしている。
感じが悪い。
私は家に帰った。
振り返れば、怯えたように、友達がこちらを見ていた。
「ねえねえ」
置き直してくれる彼は、どこからどう見ても人間の男性だ。
私は思いついて、ぎゅっと抱きついてみた。許してくれる気がして。
彼の腕が背中に回り、うっとりと目を閉じる。幸せだ。
私と彼は、同居している。
欠けている世界は、彼がいると完璧になる。
桜川町で怪異が出るらしい。
「ねえ、知ってる? マシマシ様、理想の女の子を探してる怪異らしいよ。」
私は首を傾げた。
「いろんな怪異がいるんだね」
私は置き直してくれる彼の手を握った。
人がこっちを見て、気味悪そうに逃げていった。




