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整えてくれる恋人

作者: 絹ごし春雨
掲載日:2026/01/01

 桜川町。


私はそれに出会った。


ある日、服が触って、ペンを落としてしまった。


一人きりの自室。


けれど、目を離した隙に、ペンは元の位置に戻った。


ほっとした感覚。


私は首を捻った。



またある日、服を脱ぎっぱなしにして、ベッドに投げておいた。


服がハンガーに掛けられていた。


私は首を捻る。

よくよく目を凝らしてみた。


「……ひっ」


人型の何かがうっすら見える。

それは服の皺を、整えていた。


彼が手を離すと、ほっとした感覚。

あるべき場所に、収まったかのような。


それからも、私の部屋は整えられていった。


私は……慣れた。


害はない。むしろ助かっている。


「ねえ、いつもありがとう。助かってる」


私はその日、初めて何かに声をかけた。


それがゆっくりと振り返る。

男性だ。


性別を感じたのは、初めてだった。



友達の家に行った。

友達の家で彼女のものを落としても、彼は現れない。


それが、なんだか、嬉しかった。


私の部屋は、それからも綺麗だった。


彼が、私の投げ出したもの、ちょっとずれて置いたものを、直してくれるから。


ある日、彼がカップを差し出してきた。


どこから出したのだろう。

安心した。


私のものが、あるべき場所に戻った。


「一緒に飲まない? あなた飲めるの?」


言えば、彼はもう一つカップを出して、飲むふりをした。


優しい。胸がきゅんとした。



「ねえ、加奈、最近趣味変わった?」


友達に聞かれた。


「え……? 変わってないよ。なんで?」


「だって前はそんな女の子らしい格好しなかったじゃん」


首を傾げる。


「そう?」


友達がヒソヒソと話をしている。

感じが悪い。


私は家に帰った。


振り返れば、怯えたように、友達がこちらを見ていた。


「ねえねえ」


置き直してくれる彼は、どこからどう見ても人間の男性だ。


私は思いついて、ぎゅっと抱きついてみた。許してくれる気がして。


彼の腕が背中に回り、うっとりと目を閉じる。幸せだ。


私と彼は、同居している。


欠けている世界は、彼がいると完璧になる。



桜川町で怪異が出るらしい。


「ねえ、知ってる? マシマシ様、理想の女の子を探してる怪異らしいよ。」


私は首を傾げた。


「いろんな怪異がいるんだね」


私は置き直してくれる彼の手を握った。


人がこっちを見て、気味悪そうに逃げていった。

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