008 図書室の魔女
お久しぶりです。
珍しく働いてました。
また少しずつ更新したいと思います。
「図書室の魔女?」
「そうでござる、宇山殿は聞いたことないでござるか?」
登校して教室に入るなり風間君に話しかけられる。なんでもこの学校の図書室には謎の魔女がいて、怪しげな研究やら実験をしているらしい。
「初めて聞いたぞ、魔女なんて。」
「拙者も詳しくは分からないでござるが、この学校の図書室の本棚が隠し扉になっていて、魔女の研究室に繋がっているとか。」
「嘘くせ〜」
いくら白桜学園が魔法使いが通う魔法学校といえども、隠し扉に研究室なんてちょっと信じられない。
「ていうかさ、魔女ってなにをもって魔女なんだよ。ただの女性魔法使いのことを言ってるなら、この世の半分の魔法使いは魔女じゃん。」
「む、確かにそうでござるな。拙者も魔女の定義については知らぬでござるよ。」
そんなことを話していると、相川さんが教室に入ってきた。
「お、おはようございます。」
「あ、おはよー」
「グッドモーニングでござる。」
相川さんは、俺の前の席の女の子で今時珍しく髪を三つ編みにしている。プリントを回す時に必ず後ろを向いて渡してくれる優しい子だ。
「相川殿は知っているでござるか?図書室の魔女のこと。」
「あ、えと、聞いたことはある、よ。七不思議の一つとかって。でも、見たことはないかな。」
「へぇ〜七不思議なんてあるんだ。でもそういうのって七つ全部揃ってるの聞いたことないよね。」
「確かに。私も七つ全部は知らない。」
「もしかしたら上級生なら知ってるかもしれないでござるが・・・・・・そうでござる!宇山殿ちょっと聞きに行ってくれでござる。」
「なんでだよ!急にそんな都市伝説聞きに行くとか怪し過ぎるだろ!なにいいこと思いついた!みたいに言ってるんだよ!!」
「ツッコミが長いでござるよ。」
「俺がダメだしされるの!?」
そんなバカ話をしていると始業の鐘が鳴る。すぐに担任の犬飼先生が入ってきてHRが始まる。
「知っていると思うが、今日から部活動見学が始まる。魔闘部等の人気の部は見学枠に限りがあるから、昼休みまでに申請することを忘れるなよ。以上だ。」
それだけ言い残し教室を出て行く犬飼先生。
部活かぁ、最近は自主トレにもようやく余裕が出てきたし、どうせならやってみたい気持ちはある。中学の時はバスケ部に入っていたが、白桜学園にはバスケ部はないらしい。というか、魔法使いの中では地球で流行っているスポーツはほとんど流行っておらず、白桜学園にはバスケ部どころか野球やサッカーといった人気な部活もない。その代わり魔術を使ったスポーツが流行ってるらしい。
「お二人はどうするでござるか?」
「見学か?俺は全然決めてない。」
「私は人が多いのは苦手だから、部活には入らないつもり。」
「なるほどでござる。で、あるならば宇山殿、魔闘部に見学に行こうでござる。」
見学に誘われて少し驚く。魔闘部のこと、お遊びって言っていたのは風間君だったのに、どういうつもりだろう。
「いいけど、魔闘部には入らないって言ってなかったっけ?」
「入るつもりはないでござるよ。ただ、何も知らないでいるのは性分に合わないでござる。だからまぁ、敵情視察というやつでござるよ。」
「ふーん。まぁいいけど。暇だし。」
———放課後 魔闘用大グラウンド
「広い!」
俺と風間君は、魔闘部の見学の為に校舎の裏にある大きなグラウンドに来ていた。白桜学園は山を背に建っており、校舎からは木しか見えなかったが、実は校舎裏から階段が伸びており、その階段を登った先にこのグラウンドがあった。山を切り拓いて作られたグラウンドはとにかく広くて、サッカーコートなら2面はひけそうな広さのグラウンドだ。
「見学者はこっちに集まってくれ!」
集合がかかり、2人で人が集まっているところまでいく。見学者が集まると、前に紺色のスポーツウェアを着た女の子が出てきた。
「では今から魔闘部の部活動見学を始めます。実際に魔術を使用して訓練をしますので、見学者の皆さんは絶対に私より後ろに行かないでください。」
魔闘部についての説明を受けていると、女の子と同じウェアを着た生徒たちが、続々とグラウンドにやってきて、各々準備を始める。
魔力を起動し、強化術や防衛術を発動するまでが速い。そのまま走ったり跳んだりするのだが、魔力の流れに淀みがなく量も多いまま安定している。俺が真似しようとしても、絶対に途中で維持できなくなるのは明白だ。
「今練習してるの先輩たちだよな?やっぱレベル高いな。」
「そうでござるか?あれくらい誰でもできるでござるよ。」
レベルの高さに興奮して風間君に話かけると、風間君は思ったよりも冷めてた。
「そ、そうなの?」
「魔力の量でいえば宇山殿のほうが多いでござるよ。コントロールも勢いよく魔力を流しているだけで、ロスが多く雑なコントロールでござる。」
「へ、へぇ〜」
風間君て案外辛口なんだ。まぁでも言われてみれば、先輩たちよりも華憐さんのほうが魔力量も多いし魔力コントロールも精密な気がする。もっとも、華憐さんは同年代最強らしいので比較するほうがおかしいかもしれないが。
「私たち魔闘部はAチーム10名、Bチーム20名、Cチーム30名の60名で活動しています。各学年20名の定員で、新入生では既にSクラスから18名の入部が決まっています。」
もうそんなに枠が埋まっているのか。20人の枠で9割が特進のSクラス。普通科の俺には居場所は無さそうだ。まぁ、そもそも希望したところで受からないだろうが。
俺とは住む世界が違う人達がする部活だなこれは。そう思うといっきに興味がなくなってきた。最初は俺もよりも強化術や防衛術が上手い人たちばかりなので参考にしようとよく見ていたが、それなら華憐さんをお手本にしたほうがいいことに気づき、それもやめてしまった。
「帰るでござるか?」
俺が早々に飽きたことに気づいたのか、風間君がきいてくる。
「いいのか?」
「活動内容と部員の実力は大体分かったら、もう大丈夫でござるよ。」
———校舎
結局2人で抜けてきてしまった。今は教室に置きっぱなしにしていた鞄を取りに行く途中だ。
「どうする?とりあえずもう寮に帰るか?」
「それでもいいでござるが、どうせ時間があるなら図書室に行きたいでござるよ。」
「なんでだ?・・・・・・あ、もしかして図書室の魔女?」
ニヤリとメガネが光る風間君。
「さすが宇山殿、勘が鋭いでござるな。」
「本気かよ、いるわけないって。」
「それを確かめるでござるよ。いないならいないで、図書室で宿題を片付けてから帰るでござる。」
「お、いいねそれ。いつもと違う場所で勉強するのもたまにはいい気分転換になるしな。」
まぁ、まだ入学して1週間も経ってないので、いつもの場所もないのだが。そんなことを話しながら一旦教室に寄ってから図書室に着く。扉を開けて中に入ると意外な人物がいた。
「あれ、相川さんじゃん。相川さんも魔女探し?」
「あ、宇山君に風間君、こんにちは。えと、私は普通に本を読みにきただけ、だよ?」
「だよねー」
当然だが相川さんは魔女探しが目的ではなかったようだ。そもそもそんなことを信じているのは、風間君くらいのものだろう。
「ところで相川殿は、図書室にはよく来るのでござるか?」
魔女の存在を唯一諦めていない風間君は、早速聞き込みを開始する。
「う、うん。私本が好きでほぼ毎日来てるよ。それに、ここ放課後はほとんど人がいなくて居心地がいいというか。」
「なるほどでござる。ちなみにここで魔女らしき人物をみたことは?」
「ううん、ないよ。たまに上級生の人が本を借りにくるくらいかな。」
「わかったでござる。ご協力感謝でござるよ。」
「う、うん。」
困り顔の相川さん。きっと怪しげな噂をマジで信じてる風間君にちょっとひいているのだろう。
「うーむ、こうなると秘密の研究室にこもっている線が濃厚でござるよ。」
ブツブツと言いながら本棚を調べる風間君。一緒になって隠し通路を探す気にはなれないので宿題でもして待つことにする。
「1人でゆっくりしてるところに邪魔してごめんね。」
「ううん、別に邪魔なんて思ってないよ。」
相川さんに騒がしくしたことを謝ると笑って許してくれる。やっぱり相川さんは優しい子だ。
「ありがとう。あ、あとここで宿題とかしててもいい?うるさくしないからさ。」
「う、うん。どうぞ。」
相川さんから許可が降りたので、相川さんの斜め向かいに座り宿題を始める。横目でみると相川さんは再び本を読み始めたみたいだ。お互い喋るわけではないが気まずさは全然感じない。
春の陽気が窓から降りそそぎ、暖かい魔力が図書室を満たしていた。
「あれ〜、これでうまくまとまるかと思ったのに。」
せっかくいい雰囲気で宿題を取り組めていたのに、その宿題が難しくて春の陽気どころではなくなってしまった。一般科目なら問題なくついていけるのだが、魔術関連の教科はこれまでの積み重ねがない分本当に難しい。みんなが中学以前で習った基礎的なことを知らない俺は、授業で話についていけないことが多々ある。といっても元々地球の一般人だった、なんて誰にも言えないので一人で頑張るしかないのだが。
ふと、視線を感じて顔を上げると相川さんと目が合った。
「あ、えと、そ、それ浮遊の文言だけじゃなくて、軽量化と追従の文言があるとまとまる、かも。」
「あ、ありがとう。えーっと軽量化の文言が・・・・・・」
親切にもアドバイスをくれる相川さん。しかし、魔術に関してはなんの基礎もできてない俺は、その軽量化とやらの文言を知らないんだ。
「あの、ここに書いていい?」
「うん、お願い。」
「えっと、軽量化がこれで追従がこれ。」
相川さんが隣にきて、ノートのあいてるとこに書いて教えてくれる。俺の前に置いてるノートに書いてくれる為、体をよせられるような体勢になり、女の子特有の甘い香りがして少しドキッとする。
「あ、ありがとう。あ、そっかこれでここに繋がるわけだ。」
「そうそう、合ってるよ。」
そしてそのまま隣に座った相川さんが教えてくれてあっという間に宿題は終わってしまった。
「ありがとう相川さん。おかげで宿題がすんなり終わったよ。」
「ううん、気にしないで。でも意外だな、宇山君が基礎魔術苦手なんて。」
「そ、そうかな?元々勉強とかは得意じゃないし、ち中学の時は遊んでばっかりだったから。」
「あれ、でも国語とか数学の宿題はスラスラ解いてなかった?」
相川さん、よく見てるな。鋭い指摘だ。なんて答えようか一瞬戸惑ってしまう。
「二人とも!大発見でござる!これをみるでござるよ!!」
バタバタと風間君が走ってきて、机に一冊の本を置いた。図書室なんだから静かにしないと、と注意しようとしたとき、本の表紙が目に入り止まってしまう。
「これは・・・・・・」
『軍用魔術』とだけ書かれた本。というより教科書のようだ。
「おそらくは軍の訓練隊で使われるような教本でござるよ。」
軍って軍隊のことか?日本は軍隊がもてないんじゃなかったか?後で華憐さんにでも教えてもらおう。
「なんでそんな本が学校の図書室に?あ、これ管理タグがついてない!・・・・・・ていうことは誰かの私物ってこと?」
「ほぅ、これで合点がいったでござるよ。」
興奮している相川さんと妙に訳知り顔の風間君。どうやら話についていけてないのは俺だけのようだ。
「誰かの私物ってどういうこと?」
「図書室にある本は背表紙に管理タグがついてるの。」
周りの本棚をみると確かにずらっと並ぶ本の背表紙の下端にシールが貼ってあり、[H-3]のようにアルファベットと数字が書かれていた。なるほどH棚の3段目ってことか。
「それがないということは、図書室の本じゃないということ。」
「おそらくは・・・・・・」
「図書室では静かになさい。」
「「「わっ!」」」
突然後ろから声をかけられて三人で驚く。振り返ると40代くらいの綺麗な女性が立っていた。グレーの髪や瞳の色からして外国人なのだろうか。着ている洋服も珍しく、まるで魔女のようなゆったりとした黒いローブを羽織っていた。・・・・・・魔女のような?・・・・・・魔女!?
「か、風間君・・・・・・」
風間君もあわあわとこちらをみている。どうやら風間君も俺と同じ考えに至ったらしい。どうする?眼前の彼女が本当に魔女だった場合まずくないか?噂によればよからぬ研究をしているらしいし、このままじゃ実験の被験体にされていしまう。
「ごめんない!グリゼルダさん。」
二人して図書室の魔女からジリジリと距離をとっていると、相川さんがいきなり魔女に謝りだして更に驚く。
「あら、愛伽じゃないの。こんなちんちくりんとつるんでるなんて意外だわ。」
「えと、二人はクラスメイトで・・・・・・その、珍しい本を見つけたみたいで盛り上がっちゃいました。」
「まったく、図書室は本を読む場所ですよ。人がいないからといって、大きな声で騒いではいけません。」
「「すいませんでした。」」
どうやらこの魔女?のような人は、グリゼルダさんというらしい。相川さんとは知り合いで、注意は受けたが、非道な実験に巻き込まれることはないようだ。
「それで?珍しい本を見つけたって言ってたけど、そんな本、図書室にあったかしら?」
あっ、これはあの教本は取り上げられるな。まぁ、明らかに高校の図書室にあっていいものじゃないし、ましてや高校生が読んだらダメなやつだろうからな。仕方ない。
「そうなんです、グリゼルダさん。ぐん「これでござるよ!」」
話そうとする相川さんを遮るように、風間君がグリゼルダさんに本を差し出す。
「魔術大全?別にこんな図鑑珍しくないでしょう?」
風間君が差し出した本は、魔術大全と書かれており小学校とかにあった動物図鑑のような本だった。あれ?さっきそんな図鑑持ってたっけ?てか、さっきの本は?
「いやいや、最近は規制が厳しくてライセンスが必要な魔術が載っている本は、中学校からは撤去されているでござるよ。」
「あら、そうだったかしたら。」
相川さんがさっきの本について話そうとするが、風間君とグリゼルダさんの話に割って入れずオロオロしている。
「それでせっかくでござるから、これを借りたいでござるよ。」
「はいはい、分かりました。では、カウンターまで来なさい。」
結局相川さんが話をきり出す間もなく二人は行ってしまった。
「よかったのかな、グリゼルダさんにあの本のこと言わなくて。」
「さぁ、本当はしっかり報告しないといけないとは思うけど、あの本の中身も気になると言えば気になるし。」
「うーん、でも・・・・・・図書室の本じゃないってことは持ち主がいるはずだし・・・・・・」
確かにこのまま風間君があの教本を持ち出したとして、元の持ち主とトラブルになる可能性は大いにある。後から発覚でもしたらなんらかの処分が下りても仕方がない。
「ふ〜危なかったでござるよ。」
そこに風間君が帰ってくる。
「風間君やっぱりあの本はグリゼルダさんに預かってもらおうよ。」
「むっ、相川殿は心配性でござるな。大丈夫でござるよ。この本は元の持ち主に返すまで拙者が預かっているだけでござる。持ち主の情報を得るために少し中身は拝見させていただくでござるが、全ては持ち主への返却の為でござるよ。」
「そんなこと言って、ただこの本を読みたいだけだろ?」
「なっ、宇山殿までそっち側でござるか!?」
「ンンッ」
カウンターの奥のグリゼルダさんの目が細まるのが見えた。どうやらここは退散したほうがいいみたいだ。
俺たちは無言で荷物をまとめて図書室をあとにした。
———???図書室
「ここは関係者以外立ち入り禁止よ。」
「なんだい、つれないね。僕と君の仲じゃないか、マダムグリゼルダ。」
「あら、あなたとは司書と元生徒以外の関係になった覚えはないのだけれど。」
「そうだったかな?あ、それと僕は関係者さ。」
「はぁ、もうなんでもいいわ。はやく要件を済ませて出て行ってちょうだい。」
「僕としてはゆっくりお茶でも飲みながら話してもいいんだけど、エルザが言うなら仕方がない。・・・・・・それで、どうだった?会ったんだろ?」
「あぁ、そのこと。別に私から接触したわけじゃないわ、向こうから来たの。少し喋ってみたけどなんの変哲もない男の子って感じね。しいていうならば年齢よりも少し幼く感じたくらいかしら。それより気になったのは「彼の周囲の人、だろ。今年の新入生は粒が揃いすぎている。」」
「えぇそうね。愛伽もだけど、彼と一緒にいたもう1人の彼も、とてもAクラスとは思えなかったわ。」
「そうだね、それに関しては全く同意だ。」
「やっぱり彼が入学することで集まってきたのかしら。」
「たしかに、そう思うのも無理はない。でも、有り得ない。」
「有り得ないってどうして・・・・・・?」
「今年度の新入生で入学が最後に決まったのが、件の彼だからさ。だから、彼の入学がどこからか漏れたとして、その後に入学を決めた新入生はいない。彼の入学が選択肢に挙がった時点で、彼以外の新入生は既に入学を決めていたんだ。Sクラスも含めた全新入生がね。」
「じゃあ、自然にこれだけの人材がうちに入学したとでもいうの?」
「結果的には、ね。まぁ、元々入学が決まっていた生徒に、今頃なんらかの指示が入っていてもおかしくはないけどね。」
「なんだかやっかいごとに巻き込まれた気がするわ。」
「おいおい、しっかりしてくれよ。エルザがいるからこの学校に決めたのに。」
「わかっています、自分の仕事くらいはきっちりこなしますから。・・・・・・はぁ。」
終盤に登場したエルザはグリゼルダの略称です。