005 入学!魔法学校!!
———4月某日 白桜学園
私立白桜学園、アンヴィラドにある日本の領地、御山市に建てられた魔法使いの高校。箱崎の母校でもあり、今日から俺が通うことになった学校だ。
入学式を終えて教室に帰ってきた。これから最初のホームルームが始まるそうだ。
異世界の魔法学校といいつつも、ここは日本の領地にある日本の学校な訳で特別変わったことはなかった。強いていえば新入生の代表として月島さんが登壇していたことくらいか。それも箱崎によれば彼女は超がつくお嬢様で既に優秀な魔法使いらしいので、代表に選ばれるのも納得だ。
あれから俺は1日だけ実家に帰り家族に別れをつげてから、ここの学生寮に入寮した。実家に帰ったときも機密だとかで魔法に関することは一切口止めをされ、少し後ろめたい気持ちになる。それでも父さんや母さんは俺が元気なことと高校に通えることを喜んでくれた。異世界にいるからそう簡単に帰れないし連絡もとりにくいが久しぶりに家族に会えてほっとした。
「よーし、みんな席についてくれ。ホームルームをはじめるぞー!」
若い男の先生が入ってくる。1-Aの担任の犬養先生とさっきの入学式で紹介されていた気がする。短髪で体格がいい先生で体育の先生っぽい。
「とりあえず今日は簡単なホームルームとオリエンテーションで終わりだ。まずは簡単な自己紹介からだな、俺はこのクラスの担任の犬養尚毅。担当教科は防衛魔術だ。一年ではレベル2までの自衛魔術を覚えてもらう。ケガのないように頑張ってくれ、以上だ。」
教科として魔術の授業があるのか。急に魔法学校ぽいな。まぁでもここに通うのは、産まれも育ちもアンヴィラドの魔法使いの子どもばっかりだもんな。
「このような感じで順番に自己紹介をしてくれ。わかっていると思うが、自分の魔法や得意な魔術等は重要な個人情報だからな。たとえクラスメイトといえど簡単に言うなよ。では、まずは相川から。」
そうか自分の魔法は明かさないのが普通か、転移魔法が使えることは誰にも言うなと厳しく言いつけられている俺にはありがたい風潮だ。
「あ、相川愛伽です!え、えと、趣味は読書です!よ、よろしくお願いします!」
いきなり自己紹介のトップバッターにされた相川さんは、眼鏡をかけた素朴な女の子で、耳まで赤くしながら自己紹介を終える。多分人前とか苦手なんだろう、緊張してるのがよく分かった。人が緊張しているのを見ると自分の緊張がマシになった。次は俺の番なので彼女には感謝だ。
「宇山悠紀です。好きなことは食べることとアニメをみることです。よろしくお願いします。」
うん、無難に終えれたと思う。苗字があ行だとこういうとき早めに順番が回ってきて損だよな。
「宇山殿もアニメをみるでござるか!?これは是非とも仲良くしてもらいたいでござる!」
「うぇ!?あ、えと、よろしくお願いします」
順調に自己紹介が続く中、隣の生徒に声をかけられびっくりした。ボサボサの髪と牛乳瓶の底のような厚いレンズの眼鏡に、一昔前のデフォルメされたオタクみたいな口調で話す嘘みたいな人物だ。あんな口調で話す人なんてフィクションの世界にしかいないと思っていた。
さすがに自己紹介中に会話を続ける気はないようで、ニッコリとサムズアップされただけでその場はおさまる。そしてその彼に順番が回ってくる。
「拙者の名前は風間陣之助、日本一の声優になる男でござる。好きなアニメは星の数ほどあるでござるが、あえて1つを選ぶとすればマジカルキュートきららちゃんでござるな、あの作品は拙者のバイブルといっても過言ではないでござるよ。特に7話のきららちゃんの変身が解けるシーンなんかは・・・」
「よし風間、お前の好きなアニメについてはわかったから次の人に変わってくれ。」
先生に止められて渋々着席する風間くん。自己紹介であんなに喋る人を初めてみた、てか後半は早口過ぎて隣の席の俺でも聞き取れなかった。
やはり魔法使いの学校とあって風間君のように変わった人が大勢いるのかと思ったが、どうやら変わっていたのは風間君ぐらいで、その後はつつがなく自己紹介は終わり、オリエンテーションという名の学校案内がありその日は帰宅となった。
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「宇山殿は通いでごさるか?」
寮に帰ろうと荷物をまとめていると隣の風間君に声をかけられる。
「いや、寮だけど。」
「なんと!それは奇遇でござるな。拙者も寮生なのでござるよ。よかったら一緒に帰らないかでござる。」
「あ〜、うん。一緒に帰ろうか。」
自己紹介の時にアニメをみるのが好きと言ったからなのか、風間君に仲間認定されたらしくオリエンテーションの時からちょくちょく話かけられるようになった。アニメの話になると早口でうるさいが、それ以外は聞き上手で話しやすい。たくさんアニメをみているからか話題の引き出しが多く、コミュ力低い俺とでも途切れず会話が続けられる風間君は、もしかしたらコミュ力が高いのかもしれない。
「ところで宇山殿は部活はどこかに入るのでござるか?」
「いや?まだ全然考えてない。風間君は?」
「実は拙者、新しく部を創設しよう思ってるのでござるよ。」
まさかコイツ、アニメ同好会とか作るとか言い出すつもりか?話しやすくていいやつだとは思ったけど、さすがにそこまでは付き合えないぞ。
「その名も魔術研究同好会!」
「魔術研究同好会?」
「そうでござる。表向きは新たなる魔術の開発を目的とした同好会を予定しているでござるよ。」
「表向きはってことは別の目的が?」
教室を出て2人で歩き出す。他のクラスも解散となったようで廊下は生徒で溢れていた。
風間君はガヤガヤとうるさい廊下で声を潜める。
「ズバリ実戦的な魔術の習得でござるよ。」
「実戦的・・・?あれ、でもたしかそんななかったっけ。」
「魔闘部のことでござるか?あそこは話にならないでござるよ。」
「そうなのか?うちの魔闘部はけっこうレベル高いってきいたぞ。」
魔法使いは昔から力比べをする際に決闘を行う習慣がある。魔法使いの決闘で魔闘というのだが、昔は命を賭けての死闘だったらしい。さすがに現在ではルールや作法が決まっており、死人が出ることはまずない、と箱崎が言っていた。
「対外試合の成績はいいみたいでござるが、所詮は競技化されたスポーツの話でござるよ。そんなスポーツで使う魔術なぞ実際の戦闘ではなんの役にも立たないでござるよ。」
「いや、実際の戦闘って・・・俺ら別に戦ったりしないじゃん。」
「ではなぜ、宇山殿は鍛えているでござるか?」
「えっ・・・あ、いや」
俺は確かに鍛えてる。箱崎に最低限自衛ができるようにとトレーニングメニューまで渡され、律儀に毎日頑張っているわけだが、そのことを知っているのは箱崎と月島さんくらいだ。なんで風間君が知っている?いや、見破られたのか?
「そ、それはほら、夏に向けてだよ。水着になったとき腹がたるんでるとしまらないだろ?」」
「なんだ、そうでござるか。てっきり宇山殿も悪の組織との戦闘に備えて日々精進しているかと思ったでござるよ。」
「いやいや、悪の組織ってなんだよ。てかなんで俺が戦う前提なんだよ。」
「そりゃあ、男子ならみな一回は考えるでござろう?授業中にテロリストに襲われてみんなを助けるやつ。拙者もいつでも戦えるように鍛えているでござるよ。」
どうやら風間君は中二病が治ってないらしい。そして、仲間認定された俺も中二病前提で鍛えていると思ったのか。なんというか、焦って損した。
箱崎が「当然だけど、学校の友達にも君が転移魔法を使えることは言っちゃダメだよ。拉致られないように鍛えてるのがバレても怪しまれるから、鍛えてるのも内緒で。」なんて言うもんだから、初日で鍛えてることがバレて内心ヒヤヒヤしてしまった。
「テロリストに襲われるって・・・この学校襲う理由ないじゃん。そもそも襲われたとして俺たちが戦うことなんて絶対ないでしょ。うちの先生めっちゃ強いって聞いたけど?」
「はぁ〜宇山殿は全然わかってないでござるな。真の強者とは準備を怠らないものでござるよ。」
「はいはい。」
「でも宇山殿も興味はあるでござろう?禁術とか。」
禁術、だと?かっこいい響きだ。正直ぐらっときた。でもここで話に乗ったら中二病認定までされそうだ。そもそも放課後は魔力トレーニングで部活をしている暇はない。
「いーや、全然?・・・・・・ちなみにどんなのがあるの?」
「ふふん、宇山殿も男子でござるな。まぁ、色々あるでござるが、拙者が目をつけているのは軍用魔術でござるよ。」
「軍用魔術・・・?」
「左様。各国が開発した対人・対魔物を想定した魔術の総称でござるよ。これを習得することで、戦闘向きの魔法を持たない人でも戦えるようになると言われているでござる。」
「な、なるほど。」
軍用魔術、戦闘向きの魔法を持たない人でも戦えるようになる魔術か。確かにそれが使えればわざわざボディーガードについてもらう心配もないのか?
いや、でも放課後は自主トレで部活なんかしている暇は現状ない。あれ?でも魔術研究会とやらに入ってしまえば自主トレしてても別に変じゃないか。ちょっと痛い奴みたいにみられるかもしれないけど、コソコソ隠れて自主トレをすることはなくなるのは魅力かもしれない。うーん、悩ましい。
そんなことを話しながら歩いていると寮に辿り着く。
「ではまた夕飯の時にでも。」
「ん、あぁ、また。」
颯爽と寮に入っていく風間君。なんというかキャラが濃すぎてよくわからない人物だ。
まぁ、うまい具合に解散できたのはちょうどいい。とりあえず自主練に行くか。