表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

001 プロローグ

「やぁ、はじめまして。宇山悠紀君だね?僕は箱崎慎一郎、ここで内科医をしている。ところで君は魔法を信じるかい?」


 頭がクラクラする。目の前には眼鏡をかけた白衣の男がいて、軽薄そうな笑みを浮かべながらそう問いかけてきた。


「いや…えっ?魔法?…っ!?」

「おおっと、起きるのはまだ待ってくれよ。処置が終わってない。」


 体を起こそうとすると、頭に鋭い痛みが走る。そこでようやく自分が見知らぬ部屋に寝かされていることに気付いた。みると腕には針が刺さっており、そこから伸びる管は大きな機械に繋がれている。


「あれ?…なんで?…てか、ここどこ?」


 なんで寝ているのか、ここはどこなのか、今がいつなのか、いろんな疑問生まれてはなにも分からず不安と恐怖に変わっていった。


「あぁ、すまない。まずは状況の説明からしようか。」


 そう言うと白衣の男は、にこやかに冗談みたいなことを話しだす。言っている意味は分かる。いや、むしろ分かりやすく説明されている筈なのに、体からすり抜けるように話についていけなかった。一つわかったことは、どうやら俺は高校入試に落ちたらしい。






———時は遡り3月某日、公立高校の一般入試当日。




 普段より1時間早起きして身支度を済ます。朝食はあまり食べられなかった。

 最寄駅から電車に乗り、試験会場の県立高校に向かう。車内には同じ目的地と思われる学生がちらほらいた。普段は徒歩で通学している為か、慣れない通勤電車のこもった匂いが気持ち悪い。単語帳のひとつでも見返すべきとも思ったが、余計に気持ちが悪くなるような気がしてずっと窓の外をみていた。2つ先の駅が途方もなく遠く感じる。


 目的の駅に到着し、人混みに流されつつも試験会場に辿りついた頃には、気分不良に加え頭痛もしてきていた。入試を受けるコンディションとしては最悪に近い。昨日、寝付けなかったことも影響しているのかもしれない。


(まだ時間あるしどこかで休憩してから行こう。)


 ちょうどよく中庭にあるベンチをみつけ、なんとかそこに腰掛ける。3月の朝の冷たい風が気持ちいい、少し目を閉じて気を紛らわそうとしたところで記憶が途切れる。



———時は現在に戻り、国立医療センター特別処置室




「と、まぁこうして君はここに運び込まれたわけさ。ここまではいいかい?」

「あ、えと…はい。」


 なにが面白いのか終始上機嫌で話す箱崎。現在進行形で頭痛がしており、それなりの声量で話されるのは中々にしんどい。話を早く切り上げたいが為にほとんど聞いていなかったがいいことにする。


「入試については残念だったが、心配はいらない。僕がとっておきの高校を紹介してあげるよ。」

「いや、でも日程が…」


 今日の試験を逃せば残っているのは私立の二次募集のみだ。二次募集を行うところは大抵定員割れしていたり、専願で選ばれなかった高校の為、選択肢は限られる。正直いきたいと思う高校はない気がする。


「そうだね、公立高校への入学は諦めるしかない。まぁ、もし仮に今日の入試に合格していても、君があの学校に通うのは不可能に近いと思うよ。」

「えっ…?」

「学力的な問題ではなく、身体的な問題でね。」


  話についていけていない俺をよそに、箱崎は滔々(とうとう)と続ける。


「今日君が倒れたのは、魔力の消化不全によって高魔力血症を引き起こしことが原因と考えられる。通常であれば、魔力の扱いが未熟な乳幼児に多くみられる疾患なんだけどね、君の場合は思春期に爆発的に魔力が増大した為にその処理が追いつかなかったんだろうね。」

「あぁ、安心してくれ、命に別条はないし後遺症の心配もいらない。ただ、魔力の処理方法を身につけるまでは継続的な治療が必要だけどね。」


 そう言いつつ俺の腕に繋がれた機械を指す箱崎。


「これはなんというかな、少し特殊な透析機とでも思ってくれたらいいよ。透析の仕組みは知ってるかな?」

「いや、えっと…」


 そもそも“透析”なんて言葉を初めて聞いた気がする。「知るわけいか、ごめんごめん」とへらへら謝る箱崎。


「まぁ、ざっくり簡単にいえば透析とは血液をキレイにする治療のことなんだけどね、これは血液から魔力を吸い出す機器さ。」


 さっきから当たり前のように“魔力”という言葉が使われているが、いったいどういうことだ?俺は気を失っている間に、異世界にでも紛れ込んだんだろうか?説明を受ければ受けるほど混乱は大きくなる。


「あの、すいません…魔力とか正直よく分かんないんですけど。」


 言ってることが現実離れしていて、ドッキリかなにかに思えてきた。


「あぁ、そうだよね。じゃあ、まずはそもそもの根本から話そうか。」


 そう言うと箱崎は、椅子に浅く腰掛け背もたれにもたれつつ、呪文を唱えるように語り出す。


「魔力とは、目に見えず変換するまでは質量すら持たない、この世で最もクリーンなエネルギーさ。魔力は世界中どこにでもあって、有機物・無機物問わず有している。その魔力を制御し扱う者を僕たちは魔法使いと呼ぶ。」


 箱崎が得意げに人差し指を立てると、それを中心に風が吹く。カーテンや白衣がばたばたと(なび)き、机の上にあった書類が舞い上がる。次第に舞い上がった書類たちが、箱崎の周りをグルグルと回りだす。そして指揮者のように指を振ればそれに追従する書類たち、最後は机の上にキレイに積み重なった。その間、箱崎は椅子に座ったまま一歩も動いてない。部屋を見渡すが先ほどの強い風を発生させる機器は見当たらない。そもそも扇風機や空調用のファンであんな動きをコントロールできるとは思えない。自分の目でみたことだが信じれない気持ちでいっぱいだった。


「そして君は、魔法使いの才能に恵まれたというわけさ。」


 俺も魔法が使えるかもしれない。そう言われるとワクワクが止められなかった。ドクドクと心臓の音が聞こえる気がする。しかし、どうやったらさっきの箱崎の様に、風を自在に操れるのだろうか。自分の右手を見ても当然なにも起きなかった。


「今はまだ難しいと思うよ。まずは治療からだね。」

「あっ、そ、そうですよね。すいません。」


 一人ではしゃいでいるところを見られてしまい、なんだか気恥ずかしい。


「とりあえず今後についてだが、今日から一週間程は入院になる。」

「えっ、入院?帰れないんですか?」


 話している間に頭痛もマシになってきた。もう少し休めば自力で帰れそうに感じるが。


「今はその機械で魔力処理をしているけど、それがないとまた今日みたいに倒れてしまうからね。この入院期間で君には自力での魔力処理を覚えてもらう予定だよ。」

「えぇ!?一週間でできるようになるんですか?」

「まぁ簡単な処理だけはね。本格的に魔法を使うとなれば年単位で練習は必要さ。」

「そうですよね。」

「あ、あと、入院については安心するといいよ、さっき君が寝てる間にお母様が来られて、僕から入院が必要なことは既に説明してある。今は一旦お家に必要な物を取りに行ってもらってるよ。」 

「あ、そっか、ありがとうございます。」


 そうか、入院するとなると親に連絡しないといけないか。さっきまでの話が衝撃的過ぎてそんな当たり前の事に気付いてなかった。


「とりあえず今日のところはこんなところかな。後はゆっくり休んでくれ。詳しい今後の流れはまた明日。」

「はい、ありがとうございます」

「僕はもう帰るけど、当直の先生や看護師さんがいるからね、なにか困ったことがあったら迷わずナースコールを押してくれ。あと、その機械だけど後30分くらいしたら終わると思うから、それまではベッドの上で安静にね。」

「分かりました。」


 「それじゃあおやすみ〜」と部屋を出ていこうとする箱崎。


「あ、言い忘れてたけど君って世界初の転移魔法使いかもしれないんだ。これから色んな人に命を狙われたり、拉致されそうになると思うから気をつけてね。とりあえずこの入院中は面会謝絶で。じゃあ今度こそおやすみ〜」

「はっ!?え、いや、ちょっ、それってどういう」


 チラッと振り返りそのまま部屋から出ていく箱崎、追いかけようとするが腕に針が刺さったままの為動けない。


「いや、待って!先生!おーい!!」

 

 大きな声呼び戻そうとするが、戻ってくる様子はない。

 あの人最後に一番大事なことを言って行かなかったか?というかわざと最後まで言わなかったように感じる。わざわざ驚く俺を確認してから出て行ったし。

 てか、俺が命を狙われ、拉致られるかもしれない!?気をつけろって、じゃあどうすればいいんだよ!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ